再発発見に驚異的力を発揮する画像診断、これを使わない手はない 納得して治療を受ける秘訣――画像診断はここまで進歩した!

監修:遠藤啓吾 群馬大学大学院医学系研究科放射線診断核医学分野教授
取材・文:荒川直樹
発行:2009年1月
更新:2019年7月

早期発見から術後管理までフル活用

では、こうした最新技術は、患者さんに、そしてがん医療にどのような恩恵をもたらしているのだろうか。遠藤さんの話を元に画像診断の役割をまとめると次のようになる。

(1)早期発見

がんは、早期に発見するほど完治率が高まる。エコー、ヘリカルCT、PET-CTなど、最新の画像診断法を組み合わせた検診では、従来のがん検診では見つからないような小さな段階のがんを発見することができる可能性が高まる。喫煙している人、家族にがん患者さんがいる人など、がんのリスクの高い人では、こうした新しいがん検診を検討したい。

(2)高度な診断

がんが疑われた患者さんの正確な診断には、最新の画像診断が不可欠だ。医療現場では、超音波、CT、PET-CT、MRIなどを段階的に使い分けている。「複数の検査が重なる場合があるのも、患者さんの診断を効率よく行うためだと理解してほしい」(遠藤さん)という。

(3)外科手術のサポート

かつては、手術をするまで、がん組織の正確な広がりが分からないことが多かった。患部に腫瘍がどのように広がっているのか、近くにどんな血管があるのか。あらかじめ画像診断で確認することによって、より安全で再発の少ない手術を行うことができる。最近では、画像診断を行いながら手術を行う場合もある。

(4)治療効果の判定

化学療法や放射線療法によって、がんの大きさがどのように変化するか。ミリ単位で計測することで、治療効果を短時間に判定。より確かな治療計画を立てることができる。

(5)再発・転移の検査

患者さんがもっとも心配するのが、がんの再発や転移だ。なるべく早期に発見し対処するために、前立腺がんのPSA(前立腺特異抗原)など、血液中の腫瘍マーカーの検査が行われ���。しかし、肺がん、胃がん、乳がんなどでは腫瘍マーカーの信頼度が低い。こうしたがんの長期維持管理に、今後はPET-CTなどの重要性が増すと考えられる。

[再発発見のための、がん種別、使用する画像機器]

  エコー CT MRI PET
脳腫瘍 ×
頭頸部がん
甲状腺がん
肺がん ×
食道がん
胃がん × × ×
肝臓がん
すい臓がん
胆管がん
大腸がん × ×
前立腺がん × ×
乳がん
子宮がん
卵巣がん
悪性リンパ腫 × ×
○―メインとなる画像診断 △―サブ(補足)として有効な画像診断 ×―向いていない画像診断

※この表はあくまでもおおよその目安です。個々の患者さんの状況により、また造影剤の副作用などを考えてCTでなくMRIを使うなど、現場の主治医は複雑な要素を鑑みて決めています

体内を「見る」技術が医師と患者をつなぐ

急速に進むがんの画像診断。群馬県を中心に近隣地域のがん診療拠点病院として位置づけられる群馬大学医学部付属病院でも、最新鋭の画像診断装置が次々と導入されている。マルチスライスCTやPET-CTはもちろん、3テスラの磁場を実現する最新鋭のMRIも2008年末に導入された。また、画像診断ではないが、新たな放射線治療である「重粒子線治療」を行う設備の準備も進められている。

「こうした画像診断装置が患者さんにもたらした最大のメリットは、これまで一部の名医の勘や執刀技術に頼っていた高度な医療を、画像診断のサポートによって誰もが受けられるようになったことといえるのではないでしょうか」と遠藤さんは語る。ただ、国内でがん治療を行うすべての病院が、こうした最新装置を持つわけではないことも事実だ。広く普及している検査と、特別な検査を区別することも、医療を効率よく行うために大切になってきた、と遠藤さんは指摘する。

「自分が治療を受けている病院に最新装置が無いからだめだと考える必要はありません。がんの種類、進行度、治療の段階によって必要とされる技術は異なります。これからは自分の病気に合った医療機関で治療を受けながら、必要なときに、がん診療拠点病院の最新設備を利用するような体制が整ってくるでしょう。担当医とよく相談しながら、自分が納得いく検査を受けてください」(遠藤さん)

例えば、転移の可能性の比較的低いステージ1~2のがんならば、標準治療を行える医療機関は各地に整備されている。そこで治療を受けながらセカンドオピニオンの一環として地域の拠点病院で最新の画像診断を受けることも可能なので、積極的に担当医と相談してみてほしい。

また得られた画像を元に、自分の病状と治療方針について医師と納得いくまで相談できることも、画像診断がもたらした、もう1つのメリットといえるだろう。今回取材した、群馬大学病院の放射線部には、前述のような最新鋭の装置が並び、そこでは、たくさんの放射線技師、画像を読み取る放射線診断専門医が集まり、検査と画像診断に取り組んでいる。技師長の大竹英則さんは「スタッフには、できるだけきれいで分かりやすい画像を作るように指導しています。医師の診断に役立つだけでなく、患者さんにも自分の目で見ることで病気のことを深く理解してほしいからです」と語る。画像診断は、患者さんが自分で活用する技術でもあるのだ。

「医師がどんなに丁寧に言葉を尽くしても伝わらないことも、鮮明な画像1枚で患者さんが理解できることがあります」と遠藤さんは言う。最先端の画像診断技術は、がん治療の高度化とともに、医師と患者のコミュニケーションを助けてくれる技術でもあるのだ。これからは患者さん本人や家族も、画像診断に対する基本的知識を持つ必要があるといえるだろう。

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