今まで見つけることのできなかった小さながんも「PET」検査で発見! 「PET」「PET-CT」検査でわかること、わからないこと

監修:小川洋二 阪和インテリジェント医療センター医師
取材・文:繁原稔弘
発行:2009年1月
更新:2013年4月

苦痛や不快感がなく、半日で終わるPET検査

PET検査の優れた特徴としては次のような点が挙げられる。

第1は、これまでの検査方法よりも精度の高いがん検査が、全身であっても15~20分程度でできる点。

第2は、従来のがん検査方法と原理が異なることから、検査を受ける患者は痛みや負担も少なく、短時間で検査ができる点である。

「PET検査では、例えば、胃カメラを飲み込むようなつらさはありません。最初に注射を1本だけ打って、後は横になっているだけで済みます。また検査にかかる時間も、検査とその前後の準備も含めて半日もあれば十分です」

と小川さんは説明する。

第3は、検査用の服を着て、横になっているだけで全身の検査ができるので、手軽に検査が受けられる点だ。特に女性の場合は、乳がんや子宮がんなどの検査にありがちだった苦痛や不快感、精神的負担などがないため、心身ともに負担が少なくてすむのが利点といえよう。

第4は、良性・悪性の区別、がんの進行度、がんの成長の仕方や性質が正確に推定できる点。

また第5は、1度の検査で全身を調べられることから、万が一、転移をしていた場合、転移先もわかる点である。

すべてのがんに保険適用されていないという問題も

ただし問題点もある。それは、現時点でまだ日本では、保険医療として認可されていない点だ。検査費用は全額自己負担であり10万円ほどかかる。

「ただし、平成14年度から、肺がんなどで条件が合ったものに限って、保険が適用されるようになりました」(小川さん)

具体的に保険が適用されるようになったのは、肺がん、乳がん、大腸がん、頭頸部がん、脳腫瘍、膵がん、悪性リンパ腫、転移性肝がん、原発不明がん、悪性黒色腫、食道がん、子宮がん、卵巣がんなどで、これらの診断を目的とし、一定の条件を満たしている場合は保険の対象となる。

さらにもう1つは、放射線物質を使っているため、少量であっても被ばくが起きる点である。だが小川さんは「検査に用いるFDGからはガンマ線が放出されるため、2.2ミリシーベルト程度の被ばくをします。しかし、その量は、日常生活で宇宙線や地上から放射される年間放射線被ばく量の約2.4ミリシーベルトと��ほとんど変わりませんし、胃のバリウム撮影の際の約4.1ミリシーベルトと比べると約半分ほどですから、心配するには及びません」という。

PET検査でも判別が難しいがんがある

こうした数多くの優れた点を有するPET検査だが、それでも弱点はある。

1番は、PETといえども、やはり全てのがん細胞を見つけられるわけではない点。

「PET検査の特性上、ある条件のがんの場合は、発見や判定が難しいといわれています。ですので、世間で認知されているほど、決して“万能”な検査ではないことを、あらかじめ認識していてほしいと思います。正確な検査をするためには、PETに加えて、X線、CT、MRI、超音波といった他の検査や腫瘍マーカーなどの血液検査を組み合わせて総合的な診断を行う必要があります」と小川さんはいう。

そのPET検査が困難な条件とは、次のような場合である。

(1)消化器官粘膜に発生するごく早期のがん、(2)FDGが集まりやすい、炎症などを起こしている部位、(3)正常でもFDGが集まる泌尿器科系や脳・心臓・肝臓などに発生したがん、(4)肝細胞がん・胆道がん・白血病など。

「基本的に、糖に似たFDGを識別に使っていますから、糖を吸収しない性質を持ったがん細胞はもちろん、自然に糖が集まりやすい脳や腎臓、そして炎症部分などは判別がしにくいのです。また、FDGが体外に排出される際に集まる腎臓・尿道・膀胱などは広範囲に反応が出てしまったり、正常な場合との判別がしにくくなったりして、見つけられない場合もあります」

[PET検査が困難な場合]

  • 消化器官粘膜に発生するごく早期のがん
  • ごく小さながん細胞が散らばっている場合
  • まれに発生する、糖を必要としないがん細胞の場合
  • FDGが集まりやすい、炎症などを起こしている部位
  • 正常でもFDGが集まる泌尿器科系や脳・心臓・肝臓などに発生したがん
  • 肝細胞がん、胆道がん、白血病などのがん
  • ブドウ糖を使用するため、血液中の糖分が多い糖尿病患者
  • 通常のエックス線レントゲンと同様、妊婦あるいは妊娠の疑いのある患者

PET検査の注意点 検査前日は過度の運動を避ける

なお、PET検査を行う前には、次のようないくつかの注意点がある。

第1は、PET検査は、前述のように糖の代謝を正しく診断する必要があることから、FDGの筋肉への生理的な集積を起こさないように、検査前日に過度の運動(テニス、野球、ジョギング、カラオケ、長時間の運転など)は避ける。第2は、検査前には絶食が必要になる。「水やお茶は飲んでも大丈夫ですが、その他の糖分を含む、ジュースやスポーツ飲料などは、PET検査が終わるまでは禁止です」と小川さん。第3は、FDGを注射してから撮影までの間は、できるだけ安静にしていなくてはならない。「筋肉を使うと薬が筋肉に集まってしまうからです。特にがんの診断のときには、診断が難しくなる場合もあります。ですので、できるだけ安静にしていただくようにお願いしています」と小川さんは話している。この他にも、膀胱内にある薬の代謝物を排出するため、検査の直前に排尿しておくことなども必要だ。

これらのようにいくつかの制約はあるものの、基本的にPET検査は、従来のX線検査などに比べて、身体に負担をかけずに正確に検査を行うことができる。また、治療後には、治療効果があったか、再発が起こっていないかを調べるのにも役立つなど、利点が多い検査であることは間違いない。

近い将来、糖分だけでなくアミノ酸などの他の物質も媒体として使用できるようになれば、さらに精度が上がることが期待される。さらには、一般の診断においても、保険適用の対象になれば、受診者も増え、早期発見につながっていくのではないだろうか。

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