見落とし・誤診を避けて、有効な乳がん検診を受けるために

取材・文:高栁由香
発行:2004年5月
更新:2014年1月

視触診も重要な情報のひとつ

島田菜穂子さん

「50歳以上の人に、マンモグラフィ検診は有効。でも、視触診も、乳がんを見つけるための大切な情報の一つ」と話す、東京逓信病院放射線科の島田菜穂子さん

ところで、マンモグラフィさえ導入すれば、視触診は行わなくてもいいのだろうか。

「両者を単純に比べたら、しこりを作らない乳がんも見つけられるマンモグラフィに軍配が上がる。しかしこれが即、〈触らなくてもいい〉ということにはつながりません」(中村さん)

「30代、40代の若い方では、乳腺が密なため、マンモグラフィの映像では乳腺の中に紛れてしまい、みつけにくいしこりもあります。こういうしこりは、手触りでしか確認できません。視触診と画像検査のそれぞれの特性・欠点があり、いずれも欠くことはできません。視触診の所見は他の検査を補佐し、情報の種類を追加します。また、自分で行う視触診、すなわち自己検診は乳がんに対する認識を高め、検診の受診を促す大事な要素です」(島田さん)

土橋さんも「視触診では少なくとも、血性乳頭分泌、乳頭異常のチェックが可能ですし、同時に直接受診者に自己検診法を教えることができます」と、視触診の役割をとらえる。

岡山県の医師会では視触診の講習会を行い、これを修得しないと県内では検診にあたれないという。こういった取り組みも興味深い。

さらに、月経周期のある40代では、マンモグラフィだけではしこりを見落とすことがあるので、現時点では少なくとも超音波との併用が望ましいという。

土橋さんは、検診を行うかかりつけ医、こと婦人科医においては、視触診に加えて、操作に習熟している超音波の併用が、互いの情報を補足する目的や、誰が検査しても同じ結果が出せる再現性を得るためにも推奨されると考えている。

検診を受けやすくする「かかりつけ医」の役割

「そもそも検診は、ご飯も普通に食べられて、仕事もできて、という自他ともに健康と感じる人が受けるものです」(島田さん)

健康な人は、概して検診に無関心である場合が多い。それをいかにして検診に足を向けさせるかは今後の大きな課題の一つだ。そして、島田さんは続ける。

「検診の必要性ばかり叫んでも、乳がんを見つけることをいたずらに怖がる人々には通じません。同時に、術後の患者さんが元気に暮らせる社会環境を整えることも重要です」

費用に対する効果、再現性など検診に求められる要素のうち、身近な場所で気軽に検診を受けられるなどの利便性を満たす方法を探ることはなかなか難しい。

土橋さんが関与する豊島区の乳がん検診は、マンモグラフィを検診センターで撮り、視触診はかかりつけ医で行っている。現行の自治体検診では、このように受診者も撮影した画像も行ったりきたりしなければならないことが多い。

しかし、「現存の制度を利用し、受診者がたどり着きやすい環境を整えるため、かかりつけ医の役割は今後さらに大きくなってくると思います」(島田さん)

これはすべてをかかりつけ医に負わせるという意味ではない。いざというとき比較ができるようその人の身体の状態を把握していること、何か気になるときには訴えを聞けること、検診でなく受診が必要であるか否かを見極める力を持つこと、そして適切な紹介先の準備をしておくこと、などだ。

「日常診療をこなし、プラスアルファの勉強をし、検診に時間を割くことの難しさはあります。しかし、かかりつけ医を名乗るなら、検診に対する自らのスタンスを定め、相応な努力をすべきだと思います」(土橋さん)

「精密検査先からのフィードバックにより、かかりつけ医もどんな所見が本当の病気につながるかという知識を得ることができます。こうした病診連携の構築がより効率のいいシステムにつながると思います」と島田さんも考える。

医師のみならず、保健師、看護師も含め、早期発見への入り口での道案内を的確に行う。それがどの地域でもどの施設でも一定のレベルでできるよう、私たちも要求していかなければならないのではないだろうか。

[現段階で、どのような乳がん検診を受ければよいか]

  40歳未満 40歳以上 50歳以上
視触診 ◎乳房・乳頭の異常を調べる。現在、検診として行われている ◎乳房・乳頭の異常を調べる。現在、検診として行われている ◎乳房・乳頭の異常を調べる。毎年検診として受けることが推奨される
マンモグラフィ △超音波で異常がある、または診断がつかない場合。検診としての有効性は確認されていない ○しこりなど心配がある場合。個々の受診での有効性は確認されているが、公共の資金を投入する集団検診については様々な観点から導入を検討中 ◎2年に1度検診として受けることが推奨される。検診としての有効性が確認されている
超音波 ○しこりなど心配がある場合。マンモグラフィよりも有効な場合がある ○しこりなど心配がある場合やマンモグラフィで診断がつかない場合 ○マンモグラフィで診断がつかないとき、組み合わせる
自己触診 ◎20歳からのすべての人にとって重要。自身の身体の変化をとらえ、健康管理をする意識を持つこと。変化に気づいたら、自己診断せず、必ず専門医を受診することが大切
◎=検診として受けておいたほうがよい
○心配がある場合は個別に受診するほうがよい
△検診としては適当と言えない
監修 東京逓信病院放射線科 島田菜穂子さん

[視触診、超音波マンモグラフィの特徴]

  良い点 問題点
視触診 手触りだけでしかわからないしこりを見つけられる。乳房や乳頭の形の異常や、乳頭からの分泌物を直接目で確認できる 担当する医師の技量にかなり左右される。技量を正確に評価するのが難しい
マンモグラフィ ミリ単位の病変、視触診や超音波ではわからない石灰化を発見できる。50歳以上の方には2年に1度、検診として推奨される。見落としや不適切な撮影が行われないための撮影・読影・施設の試験認定制度がある 若い人の密な乳腺の中のしこりはみつけにくい。診断する医師には知識と高い読影能力が必要。撮影と検査機器の管理には診療放射線技師の特別な技術と知識が必要。設備投資にお金がかかるため、どこででも受けられるわけではない。検査に痛みを伴う場合がある
超音波 マンモグラフィではわかりにくい、若い人の密な乳腺の中のしこりを特定できる。たいていの病院にある。検査に放射線による被曝や痛みがない 検査をする医師・技師が、検査中に動画を見ての判断がそのまま診断となるため、撮影後の画像を見て後で画像を見ながら多数で検討をしたり、前回と客観的比較、他の医師・技師による再現性に乏しい。したがって検査をする医師・技師の技量に左右される場合がある
監修 東京逓信病院放射線科 島田菜穂子さん

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