3人の肺がん専門医から学ぶ、患者の心得 肺がんを乗り越え、長期生存を実現するためのヒント8
長期生存の秘訣8つのヒント
さて、ここまで見てきたように、肺がんをうまく乗り越え、長期生存を実現するには、いくつかの条件がある。その条件をクリアするためには、どのように病気に向き合い、日々の生活を見直せばいいのだろうか。
(1)体力をつける

肺がんを乗り越えている人には、強靭な生命力が備わっている、と坪井さんはいう。その生命力の基盤になるのはやはり体力だろう。
「体力をつけるためには、よく食べてよく眠ること。それによく動くことも重要です。病気になると、じっとしていなければならないと勘違いしている人もいますが、病室や自宅に引きこもっていては、全身機能が衰えるばかり。病気に向き合うためには、適度な運動も励行して体力をつける必要もあります。自宅にいる場合はもちろん、病院にいる場合も散歩や階段の利用などで体力を強化してもらいたいですね」(坪井さん)
(2)全身状態を良好にする
肺がん患者さんには高齢者が多く、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病を抱えている人も少なくなく、それが治療のネックになることもある。
「心機能や腎臓機能の低下が問題になって、受けたい治療が受けられないことも決して少なくありません」(坪井さん)
また、治療がうまくいった場合でも、そのような病気が原因で命を落とすことも考えられる。がんはもちろんだが、それ以外の病気を抑えるために、適切な治療で全身状態を保つことも大切だ。
(3)趣味や生きがいを持つ
これは肺がんに限らないが、がんという病気になると、そのことがストレスになり、うつ病、適応障害などの「心の症状」に悩まされることも少なくない。
「肺がんの長期生存の秘密」で紹介した村田さんは、絵を描くことを生きがいにして、そうした状態を乗り切っている。
がんとともに訪れるやっかいな心の症状を克服するには、生きがいや趣味を持ち、ストレスを解消し、人生を価値あるものにすることが大切だ。
そのことは、より積極的に病気に向き合う「心の力」を育むことにもなる。
(4)目の前の暮らしを大切にする
実例でも紹介したように、4度の手術を乗り切り、担当医を「信じられない生命力」と驚かせている杉山さんは、常に仕事のことを考え続けていた。
「私にとっては、病気のことより仕事や家族のことのほうが重要な問題だった。必死になっていたら10数年の歳月が経過��ていました」(杉山さん)
趣味や生きがいを持つことと同じように、自分自身の目の前にある「暮らし」を大切にすることで、病気によって生じる不安やストレスを払いのけることができる。杉山さんのケースはその好例といえるだろう。
(5)医師との良好な関係を築く

いったん治療を始めたら、その治療を信じ、医師との間で良好な人間関係を築くことも大切だ。医師との良好な関係は治療をスムーズにするだけではない。予後が不安定な肺がん治療では、不安やストレスに苦しむ局面も少なくない。そんなときに医師との関係は力強い心の支えとなるからだ。
「セカンドオピニオンまではともかく、サード、フォースとドクターショッピングをするようになったら疑心暗鬼になった状態といっていいでしょう。そんな状態ではスムーズな治療は期待できません。2人の医師がいれば1人は相性のあう医師というケースが多いはずです。その意味でもセカンドオピニオンの範囲で主治医を決定すべきでしょう」(坪井さん)
(6)信頼できる友人を持つ

実例で紹介した安吉さんはゴルフ仲間の励ましを支えに厳しい治療を乗り切っている。また、それとは別にがん患者さんには同じがん患者でなければ、理解し合えない悩みを持つことも多い。何でも話せる友人を持つことはがん治療をスムーズに進めるうえで不可欠な条件の1つだ。
(7)ポジティブに考える
たとえば治療の選択肢が限られている場合でも、「まだあの治療が残っている」と前向きに考えるのと、「もうあの治療しか残っていない」と悲観的に受け止めるのでは、心身のコンディションには大きな差異が生じる。ポジティブにものごとを受け止め、状況変化に柔軟に対応する姿勢を持つことも大切だ。
(8)自分自身の価値観を確立する
とくに予後が不安定な肺がん治療では、自分自身がどんな生き方、ライフスタイルを望んでいるかを理解しておく必要がある。このことは治療を選択する際の前提条件となるだけでなく、治療結果を納得するうえでもきわめて重要なポイントだ。
こうした条件を1つひとつクリアしていくことが、厳しい肺がんを乗り越え、長期生存へとつながっていくのではないだろうか。
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