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肺がんとともに長く生きる8人の患者さんからのメッセージと生き方
肺がんの長期生存の秘密

取材・文:常蔭純一
発行:2010年6月
更新:2013年6月

  

肺がんに罹っても5年、10年と長く元気に過ごしている人たちがいる。
その人たちはなぜ、こうして健やかな毎日を送ることができているのだろうか。その秘訣を探った。

初発から8年 人生をリセットして全力で治療に取り組んだ

村田益子さん(61歳)

村田益子さん
村田益子さん

01年10月に肺がんが発覚し、手術。手術後、リンパ節に転移していることがわかる。
その後、02年6月に、反対側の左肺に再発。抗がん剤治療を行い、現在に至る

生き方を変えると身軽になった

「これまでの人生をリセットしなければ、この病気は治せない」

8年前の6月、その前年に見つかった肺がんの再発を告げられたとき、私は自分の人生を見直そうと決意しました。

それまでの私は資産もあったが借財もあり、ストレスの多い不安定な日々を送っていました。そうした日々と決別し、落ち着いた暮らしを送ることが、がんを克服するための必須条件のように思えたのです。

実際に生活を変えてみると、とても身軽になり、積極的に病気と闘う力が湧きあがってきました。再発後のつらい抗がん剤治療を乗り越え、今、こうして新鮮な気持ちで日々を送ることができるのも、あのとき、自分自身を見つめ直した結果といえるかもしれません。

がんの転移で生きる気力を喪失

私ががんを患っていることがわかったのは、01年の10月のことでした。かかりつけ医の医院で検診を受けると、レントゲン検査に異常が見られました。

知り合いの医師に紹介状を書いてもらって、東京医科大学病院で検査を受けると、右肺の下葉にゴルフボールほどの大きさのがんが見つかり、病期は2b期でした。しかし、手術を受けるともっと病状が進んでいることが判明します。

大きながんに隠れて検査画像では捉えられなかったものの、その裏側にもう1つがんがあり、さらに転移が疑われるために、リンパ節も郭清しなければならない状態でした。手術後、主治医からは再発予防のための抗がん剤治療を勧められましたが、当時の私は抗がん剤に抵抗があり、とても受け入れることはできませんでした。

そうして不安な気持ちのまま退院を迎えます。医師や看護師さんたちは手を振って「おめでとう」といってくれたけれど、「転移しているかも……」と思うと、とても手放しで喜べる状態ではありません。そして退院2週間後、実際に主治医から、リンパ節に転移していたことが告げられたのです。

それからというもの、私は気力をまったく失くした日々を送ります。「自分の人生もここまでか」と思うと、食欲も湧かないし、外に出る気力も起こりません。検査のために病院を訪ねると、主治医は「どこでも行きたいところに行けばいい」といってくれますが、とてもそんな気持ちにはなれません。気分転換に散歩でもと思って外に出ても、私の目には、灰色の景色が広がっているばかり。そうして私は自分の穴倉に閉じこもり、がんに関する本ばかりを一心不乱に読みふけっていたのです。

そんな引きこもりのような生活を数カ月続けた後、ようやく私は外の世界への脱出の手立てを発見します。そのきっかけを与えてくれたのが、病院を訪ねたときに知り合った、同じ肺がん患者の女性でした。

再発の不安を抱えながらも、どう生きるべきかわからず、ただ困惑するばかりの私にとって、とくに同じ肺がん患者で元気に満ち溢れた女性との会話はかけがえのない心の支えとなりました。もちろん、その女性も見えないところで、私と同じように苦しんでいたに違いありません。しかし、その女性は人前で、そんな弱さを決して見せることがありませんでした。そして私はその人に引き上げられるようにして、自分自身の穴倉から脱出することができたのです。

がん体験で発見した新たな人生

写真:村田さん
個展「犬の眼 猫の眼」

がんを体験し、新たに絵を描くことの楽しみを覚えたという村田さん。今年1月には、初めての個展「犬の眼 猫の眼」を開いた

過酷な時期を乗り切った経緯があるからでしょうか。再発を告げられたときも、私はリンパ節への転移を告げられたときほどの動揺はありませんでした。

今度は左肺にそれほど大きくはないけれど、数個のがんが見つかったと主治医から告げられます。しかし私は「来るべきものが来たか」と、いい意味で開き直って病気と向かい合うことができました。そうして私はそれまでの生活をリセットし、不要なストレスは一切排除して、全力投球でがん治療に臨むことにしたのです。

抗がん剤治療に先駆けて、知り合いの美容師に五分刈りにしてもらったのも、また主治医が使用可能な抗がん剤のリストを見せてくれたときに、効果も副作用も強いパラプラチン(一般名カルボプラチン)とタキソテール(一般名ドセタキセル)の組み合わせを選んだのも、すべてのエネルギーをがん治療に投入することの決意表明だったといえるかもしれません。

それから現在に至るまで、約8年の歳月が経過していますが、今のところ、がんが頭をもたげる気配はうかがえません。再々発の不安を感じながらも、もう自分は治っているのかもしれないと楽観的な気持ちになることもあります。

苦しい抗がん剤治療を終えた後、私はそれまで中断していた趣味の彫金を再開し、また新たに絵を描くことの楽しみを覚え、今年1月には、ささやかながらも初めての個展を開催しました。

身の丈に合った生活の中で、確かな目標を持ち、その目標を実現するために1歩1歩、確実に歩み続ける。私が今も元気に日々を送っていられるのも、最大の要因は抗がん剤が効果をもたらした結果によるものでしょう。でも、それと共に、地道だけれども落ち着いた日々が私をストレスから解放し、やっかいな肺がんをも遠ざけてくれているようにも思えてなりません。

初発から6年 がん体験に教えられた柔らかな生き方だ

廣戸雅子さん(47歳)

廣戸雅子さん

04年、社会人入学だった看護大学生時、右肺下葉の腺がんになり、手術。
看護師免許取得の後、がん治療とともに看護師の仕事、家事をしている。
現在、右肺にある腫瘍の重粒子線治療を受けている

一生で1番不機嫌だった夏休み

がんが見つかり、治療を受けた後の6年前の夏は、私の人生で最も不機嫌な季節でした。

今から6年前の6月、41歳のときに私は右肺の下葉に腺がんを患い、手術を受けています。

そのときの私は、社会人入学した看護大学の3年生で、看護実習の真っただ中でした。順調に行けば、実習が終わる学年末には、看護師の国家試験を受験するはずでした。それが思いがけないがんの罹患により、すべての予定にひずみが生じてしまったのです。

それは先生方からは完璧主義者といわれるほど頑張り屋で、思い通りに人生を送っていた私にとっては、ほとんど初めての挫折体験でした。そして自分の人生が思い通りにならない歯がゆさに苛立ち、私を気遣って毎日のように自宅を訪ねてくれる母親に八つ当たりをしていたのです。その夏休みの間、1度も教科書を開かなかったことを考えると、私はうつに近い無気力状態に陥っていたのかもしれません。そんな私の目を見開かせてくれたのは、看護大学の4年生に進級したときに、卒論テーマとして選択したスピリチュアルケア()の勉強でした。

人は互いに心深く寄り添うことで、気持ちを通わせ日々穏やかに生きていくことができる。それを理解したことで、少しずつ私の生き方は変わってきたように思います。

それまでの私はどんなにつらいときでも、人に自分の弱さを知られたくないために、そのことを口にすることがありませんでした。だから人が寄り添ってくれても、気づかぬふりをしたり、逆に突っかかっていたりしたものです。でも、心に深く寄り添うことの大切さがわかってきてからは、その時々の状況を素直に受け入れ、人の気持ちや心を大切にしていかなければいけないということが少しずつわかってきたように思います。

スピリチュアルケア=人の苦痛は身体的な苦痛のみではなく、精神的、社会的、更に霊的(スピリチュアル)苦痛がある。霊的苦痛とは、霊(魂、心)が求める欲求が満たされない時に発生する痛み。その痛みに応対するケア

初発でも転移でもかまわない

そうした私自身の変化はがんという病気への向き合い方にも少なからず影響しています。

がんの摘出手術を受けた後、私の右胸には他に腫瘍が4つあることが判明しました。それは直径3ミリ、5ミリといったごく小さなもので当時は良性腫瘍と考えられていました。それが09年の春頃に突然、直径1センチ程度に成長し、治療が必要になったのです。病院では右肺全部を摘出する手術を勧められましたが、私は仕事や家事に支障を来たすことを考えて、別の病院で放射線治療、重粒子線治療を受けることにしたのです。

その過程で、そのがんが転移によるものなのか、初発がんかという議論が行われましたが結論は出ていません。転移か初発かで予後はまったく違うので、とても重要な問題です。でも、今の私はあまりそのことにこだわっていません。それよりも今目の前にある仕事を1つずつ丁寧にこなしていくことが大切だと思っているからです。

がんになってから人間が柔らかくなったといわれます。人との関係を大切に思うようになったからかもしれません。人に誠実に心優しくそして穏やかに接することが、結局は自分の人生にはね返り、がんの大敵であるストレスを遠ざけてくれるようにも思っています。

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