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第6回 食事療法 前編 ―がん治療中は何をどう食べたらいいのか―
「お米が主食」という呪縛
陽タイプのがんは栄養が溢れているのですから、それ以上、栄養満点の食材を摂ってはいけないのです。では何を食べたらいいのかというと、野菜です。とくに白菜や玉ねぎ、大根など、色の薄い野菜をお薦めします。もちろんほうれん草やカボチャを食べても構いませんが、そもそも血が濃すぎるのが原因ですから、色の濃い野菜よりも薄い野菜を主にしたほうがよいでしょう。
とはいっても、白菜ばかり食べていられないし、肉も食べたいですよね。そんなときは脂分を落とす調理法を心がけてください。肉は焼かずに茹でしゃぶに。肉も魚も〝お鍋〟にして汁を飲まない。魚は焼き魚ではなく煮魚にして煮汁は捨てる。刺身は脂ごと食べることになるので、なるべく避けましょう。調理法さえ工夫すれば、脂分はかなりカットできます。
また、形状を工夫することで、胃の中に停滞する時間を短くすることもできます。焼肉やステーキはそもそも硬いので、噛んだつもりでも丸飲みになりがち。消化にいいはずがありません。子どもの離乳食は焼肉ではなくハンバーグですよね。つまり、あまり噛めなくても消化しやすい形状にするのがポイントです(図3)。

がんの幼年期には病気に対する真剣度合がまだ弱いので、食事に関しても「これくらいならいいだろう」と、つい糖質や脂ものに手が伸びてしまうこともあるでしょう。だからこそ、この段階で正しい知識を持つことが大切です。そもそも日本人は米を主食と考えているので、「ご飯を食べなくてはいけない」と思いこんでいます。その考えをまずは変えてほしいと思います。
青年期は短期勝負で強めに
青年期は、がん治療と併行して、食事療法を続けていく時期。いわば、元栓を締めながら、破損個所を修理する段階です。そもそも手術直後や抗がん薬治療中は食欲がなくなっていることも多いでしょう。そういうときは無理をして食べる必要がないことは以前も話した通りです(第4回 抗がん薬の副作用を中医学で緩和する 歩行困難・しびれ編)。
この時期の体は、体の修復にすべての*気血を集中させているので、消化に回している場合ではないのです。だから、食べたくなるときが来るまでは無理に食べる必要はありません。
もし治療中でも食欲が減退しない場合は、意識的に食事療法を取り入れてください。この時期は短期勝負でいっきに食事療法を強めに行ってみるのが効果的。米(ご飯)は一切食べず、代用品として夏場は冷ややっこ、冬なら湯豆腐にしてみることも一考です。麺類で言うと、胃の中で比較的熱を生みにくいのが、そうめんやうどん。逆に、蕎麦は栄養価が高く、ラーメンは胃の中で熱を生みやすいので、陽タイプの食事療法には不向きです。中でも焼きそばは、とりわけ脂分が多いので避けましょう。
*気血:中医学では、体の中を「気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)」がスムーズに巡っていれば体は良い状態だと考える。気は目に見えないエネルギー。血は血液、津液は血液以外の水分。中でも気血の「巡り」が重視される
陰タイプのがんは雨続きの中で育ったキュウリ!?
次に、陰タイプのがんについてお話します。
熱を伴う赤黒い塊や黄色い膿の形状が特徴の陽タイプのがんと違い、陰タイプは、とにかく細胞内にも組織内にも水が溢れ、水に浸かっている状態から発生します。
生育期に雨が降り続いたキュウリ、もしくは水をやりすぎたトマトを思い浮かべてください。実(み)は大きいけれどブヨブヨしていて味も薄い。そんなキュウリやトマトは冷蔵庫に入れていても数日で汁が出て腐ります。一方、日光に照らされて栄養分でしっかり固められたキュウリやトマトは味が濃く、日持ちもします。
陰タイプのがんは、まさに雨続きの中で育った柔らかいキュウリのイメージ。水分が多すぎて、中から水が漏れ出したキュウリは、全体的にジュクジュクになってしまいますよね。これこそが陰タイプのがんの難しさなのです。水泡や褥瘡(じょくそう)ができる陰タイプのがんは、水分の影響が、部分的にではなく全体に及んでいることが多いので、組織そのものを摘出しなくてはならないケースが散見します。
このタイプのがんは体の下部に現れる傾向があり、大腸がん、子宮がん、前立腺がん、膀胱がんなどに多く見られます。
陰タイプのがんの原因は、ひとえに水分の摂り過ぎです。現代社会では、とにかく「水を飲みましょう」と推奨され、デスクワークのときでさえペットボトルを傍らに置いて水分を摂取し続けている人もいるほど。これは明らかに飲み過ぎです。
また、少し意外かもしれませんが、健康に気をつけ過ぎて、野菜ばかり食べたり、野菜ジュースばかり飲んでいる人も、体が水で溢れていることが少なくありません。糖質や脂分を避け過ぎることで血液がサラサラになり過ぎてしまい、体の中が水分で溢れ、血液が薄くなり、体内のあちこちが雨続きの中で育ったキュウリ状態になってしまうことがあるのです。高血圧や糖尿病などに処方される血液をサラサラにする薬を服用している人も同様です。
とにかく水分摂取を控えよう!
陰タイプのがんの幼年期、青年期は、とにかく水分を減らしていくことが重要。食事については既に気をつけている人が多いので、糖質と脂分の過剰摂取は避けつつ、それまで通りで大丈夫です。あえて言うなら、焼きナスやサツマイモ、蕎麦といった水分を吸収する食材がお薦め。ハトムギも水分を吸収してくれるので、米に混ぜて炊いてみましょう。
ポイントはバランスよく食べること。繰り返しになりますが、水分過多にならないことだけ気をつけてください。目安は、舌の側面に歯型がついていないか、そして舌の表面が水浸しになっていないか(図1)。他にも、頬の内側を頻繁に噛んでしまったり、口内炎が頻発するなども水分過多のサインです。ぜひ毎朝、チェックする習慣をつけましょう。
次回は、陽タイプ、陰タイプともに、がん治療を終えた後の壮年期、老年期の食生活についてお話します。がんを再発させないための食べものと食べ方について考えていきましょう。(次号へ続く)
著書紹介

「胃のむくみ」をとると健康になる
今中健二著 サンマーク出版 1,400円(本体)
「水は飲むほど体にいい」に警鐘を鳴らす1冊。過剰な水分摂取が胃をむくませ、そのむくみが体中に伝わって不調が現われるのだという。その症状は、頭痛、腰痛、高血圧、糖尿病、生理痛、肥満、貧血、不妊症、肺炎、がん、緑内障など多岐に渡る。中国伝統医学のプロフェッショナルが教える究極の健康法

医療従事者のための中医学入門
今中健二著 メディカ出版 3,000円(本体)
整体観、陰陽五行学説、弁証理論など、複雑に思える中医学の概念を分かりやすく明快に解説。医療従事者はもちろん、家族の健康を気遣うお母さんたちにも知ってほしい中医学の知識を伝える。舌や顔色でわかる体質や対処法、それに合わせた食事や温度調整など、実際のケアに役立つ知識をまとめた1冊