中医師・今中健二のがんを生きる知恵

第4回 抗がん薬の副作用を中医学で緩和する 歩行困難・しびれ編

話・監修●今中健二 中医師/神戸大学大学院非常勤講師
取材・文●菊池亜希子
発行:2021年4月
更新:2021年4月

  

今中健二さんプロフィール 中医師。中国江西省新余市第四医院医師。神戸大学大学院非常勤講師。1972年兵庫県生まれ。学生時代に母親をがんで亡くした経験から医療に関心を持ち、社会人経験の後、中国国立贛南医学院に留学。中医師免許を取得し、新余市第四医院で治療に従事。2006年帰国。神戸市を起点に中国伝統医学の普及に努める。西洋医学との垣根を超えた「患者の立場に立った医療技術」発展のため、医師や看護師、医学生に向けたセミナー、中医学に基づいたがん治療の講演など、全国各地で精力的に活動している。2020年中国医学協会を設立。著書に『「胃のむくみ」をとると健康になる』『医療従事者のための中医学入門』

抗がん薬の副作用は、薬の種類だけでなく、患者さんの体質や体調によっても、どこにどの程度現れるか千差万別です。口内炎や脱毛など、首から上に起きる副作用についてお伝えした前回に続き、今回は主に手足に現れる症状に注目します。なぜ足が弱って歩けなくなるのか、しびれが出てくるのか。そしてそれらの症状緩和のためには経絡にどうアプローチすればよいのか。つらい症状をただ耐えるだけでなく、和らげる方法を知って、ぜひ実践してみてください。

中国には西洋医学、中国伝統医学の2種類の医師免許があり、中医師とは中国伝統医学の医師免許を持つ医師のこと。本連載では「中国伝統医学」を「中医学」と呼びます。

抗がん薬の副作用はまず顔周辺に

今回は「抗がん薬治療の副作用対策」の続きですので、少し前回を振り返っておきましょう。

抗がん薬治療を中医学の視点で捉えると、まず体内に入った抗がん薬が胃にダメージを与えて気血不足を起こします。この気血不足が胃の経絡(けいらく)を伝って体全体に及び、さまざまな場所で副作用を起こすのでしたね。さらに、胃で起きたダメージ(むくみ)が経絡に沿って広がることも引き金になります。このことは前回第3回 抗がん薬の副作用を中医学で緩和する 口内炎・脱毛編で詳しく述べた通りです。

ちなみに、これは経口の抗がん薬だけでなく、点滴投与でも同じです。点滴投与の場合、抗がん薬が直接血液に作用して「血の機能低下」を招きます。つまり、血管内に気血不足を発生させ、それは経絡を伝って体全体に及ぶので、結局、胃の機能低下と同様の作用が生じるわけです。

気血不足に陥った体は、生命維持に欠かせない内臓へ優先的に気血を送り、がん細胞への気血分配を後回しにすることで、がん細胞が栄養を断たれて縮小していきます。これが中医学的視点から見た抗がん薬の作用です。

前回は、顔や頭部に現れる副作用症状についてお話しました。胃の経絡は小鼻の脇にある鼻翼(びよく)をスタートしてまず顔を巡り、こめかみから頭部へ上り、そこから顎関節、首筋を通って下におりていくので、まずスタート地点である顔周りに、口内炎や頭痛、脱毛といった形で顕著に現れることが多いのです(図1)。

今回は、首筋から下へおりた胃の経絡が胸部、腹部、股関節を通って足へおりていく過程で起こる副作用、さらに胃以外の経絡で起きる副作用についてもお話していこうと思います。

気血:中医学では、体の中を「気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)」がスムーズに巡っていれば体は良い状態だと考える。気は目に見えないエネルギー。血は血液、津液は血液以外の水分。中でも「巡り」が重視されるのが気と血

経絡(けいらく):気血が流れるエネルギーの通り道。経絡は全部で12本あり、頭や顔、内臓や手足を繋ぐように体中に張り巡らされている。胃の経絡はその1本。体調不良の反応はその原因となる臓器の経絡上に現れる

腹部周辺の副作用には触らないで

首筋からおりてきた胃の経絡は、胸部、腹部の順にさらにおりていきます。ただ、体の中心部である胸部、腹部近辺で起こる副作用症状については、実は、ある程度、目をつぶるしかないというのが中医学の考え方です。

なぜなら、胃がんはもちろん、乳がん、肺がん、肝がん、腎がん、膵がん、大腸がんなど、多くのがんが、胸部から腹部にかけて発生するからです。

前号でもお伝えした通り、抗がん薬は酸性なので、届いた先で水分を固めてむくませ、機能低下を起こし、気血不足を作り出します。そしてその状態を経絡の流れに乗せて体中に広げながら、「がん細胞」を兵糧攻めにして退治していくのです。つまり、がんを攻撃するために、敢えて抗がん薬によってこうした状態を作り出しているわけです。

言い換えると、がんが存在する周辺では、下手に触って気血の流れをよくしたり、むくみをとってしまったりすると、抗がん薬の効果を薄めてしまいかねません。その対象となる副作用が、食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、便秘などの消化器症状。こうした症状に対しては、経絡からのアプローチは控えます。

消化器症状を悪化させないために

ただ、症状を悪化させないために気をつけたいことはあります。食欲不振で何も食べられない日が続くと、「何でもいいから食べなくては」と必死に食べようとしがちです。患者さん本人が食べたくなくても、家族や周囲が「栄養をとって」と言い聞かせ、本人も周囲に心配をかけまいと無理に食べるケースも多く見られます。実はこれが大きな間違いです。

抗がん薬によって胃がダメージを受けて、気血不足が起きているのです。無理やり食べて胃に負担をかけたら、食欲不振に加えて胃もたれも重なり、つらい症状に拍車がかかるだけ。「食欲がなくなって当たり前」と思って、無理に食べようとせず、食べたいと思えるときを待ってください。本人が「今日は調子がいい」と思えたときに、食べられそうなものを口に入れることから始めましょう。

それでも、「栄養をとらなくていいの?」と不安に思うときは、第1回 病は「胃」から始まるでお話したように「アカンベー」をして舌を見てみてください。黄色くても白くても舌苔(ぜったい)が多い場合は、胃の中に以前食べたものがまだ停滞して消化しきれていない状態。つまり「今は体を修復することに気血を注ぎ込んでいて、消化に回す余力はない」というサインです。無理に食べて気血の仕事を増やすと、逆に体の負担になってしまいますので、不安がらず自然に任せてください。

ちなみに、胃が機能低下を起こして食べ物が停滞していると便秘が起きがち。原因は胃もたれですから、粘着しやすい糖質が大敵です。お米やフルーツ、甘いお菓子を控えましょう。

下痢がしつこく続くときは水分過多が考えられます。舌の状態を観察して、舌の側面に歯型がついていたり、舌苔が水浸しになっていたら、水分が多すぎる証拠です。まずは水分を控えてみましょう。ナスやサツマイモ、蕎麦など、水分を吸ってくれる食材を摂るのもおすすめです。

実は、「抗がん薬治療中はなるべく水分を摂りましょう」と医師から言われる機会があると思います。抗がん薬のメカニズムを考えると、通常より多めの水分摂取は決して間違っていないのですが、一生懸命飲んで必要分量を超えてしまうことが多々あるようです。それを見極めるためにも舌を見ることを習慣にしてみてください。

歩けなくなるのも実は副作用

もちろん、積極的に経絡にアプローチできる副作用もあります。

首筋からおりてきた胃の経絡は、胸部、腹部を抜けて脚へと向かいます。前述のように、胸部から腹部にかけて抗がん薬の作用で水分が固まってむくむので、経絡が滞りがちになり、脚から下に血が流れにくい状態になっています。

その影響は実に顕著。太腿の筋肉に血流が流れにくくなると、急激に足が弱り、歩けなくなります。よく「ベッドに寝たままの状態が続いて歩けなくなった」と表現されますが、ずっと寝ていたから歩けなくなるのではありません。足に気血が流れなくなるから歩けなくなるのです。つまり、これも抗がん薬の副作用です。

足が衰弱して歩けなくならないよう、経絡に沿ってマッサージし、むくみを溶かして流し、滞りがちな気血を押し流していきましょう。掌(てのひら)全体を使って、脚の付け根から膝まで、太腿の前面(表側)を上から下へ、左右交互に、何度もさすります。経絡の流れを助けてあげるイメージで繰り返してください(図2)。

加えて、第2回 体重減少を不安に感じたときで紹介したベッドサイドで行うスクワットがおすすめです(図3)。このスクワットをゆっくり何度も行うと、太腿の筋肉を鍛えるのはもちろん、太腿の経絡を刺激して気血を流します。大切なのは回数。無理のない範囲で、小まめに何度も行ってみてください。

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