第12回 「肺がん」になりにくい体質を手に入れる

話・監修●今中健二 中医師/神戸大学大学院非常勤講師
取材・文●菊池亜希子
発行:2021年12月
更新:2021年12月


肺が、がんに侵されるとき

体内で「調節」と「治療」という非常に重要な役割を担っている肺。この肺が病に侵されるのは、どのようなときでしょうか。

それは、肺による調節や治療が追いつかないほど、体の中に熱が溢れてしまったとき。つまり、食べ過ぎや栄養価の高いものばかり食べて気血を作り過ぎ、熱が溢れてしまった場合です。

加えて、日々のオーバーワークやストレスで疲労が肝臓に蓄積されて、熱が溢れることもあります。食べ過ぎや疲労によって溢れた熱は、呼吸を通じて外に出してもらおうと、肺に集まってきます。その結果、肺に熱が籠るのです。

また、熱が溢れて肺に籠るだけでなく、皮膚呼吸がスムーズにできなくなって熱を排出しづらくなっている状態も、肺をむしばむ原因の1つと考えられます。これは、汗をまったくかかない生活を続けている人が要注意。1年中、エアコンが効いた室内でほとんどの時間を過ごしていたり、食生活の乱れやむくみなどで顔の皮膚が分厚くなってしまうと、そもそも汗をかきづらい体質になってしまうのです。

汗をかけないと、皮膚呼吸が思うようにできなくなり、熱を外に逃す方法が呼吸(肺呼吸)しかなくなります。すると、放出し切れなくなった熱が肺に溜まり、それが常態化すると、肺の中の本来正常な水分を濃縮して塊を作ってしまったり、膿のような状態を作り出します。この状態が長く続くと、ときにタイプのがんに移行することがあるのです。

もちろん、水分が溢れて、むくみが溜まったときも病は誘発されますが、肺は体の上部に位置するので、乳がんと同様、栄養過多などによって胃から溢れた熱が上昇して病が発生する場合がほとんどと考えてよいでしょう。がんでいうと、タイプのがんが多く発生することになります(乳がんについては、第10回 なぜ乳がんになるの? 再発予防法を参照)。

ちなみに、風邪でもないのに咳が止まらない、という経験はありませんか?

それは、肺に熱が籠っていて、外に出したいけれど、呼吸だけでは追いつかず、かといって皮膚呼吸がしづらくなっているので咳で出している、と考えられます。肺から出てくるので、中からこみ上げてくるような咳が続きます。これは、肺が病に傾きつつあると、自ら出している危険信号。このようなときは、まず体内に熱を溢れさせないこと。飲食を控えめにし、疲労を溜めないことがいちばんの対策です。

気血:中医学では、体の中を「気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)」がスムーズに巡っていれば体は良い状態だと考える。気は目に見えないエネルギー。血は血液、津液は血液以外の水分。中でも「巡り」が重視されるのが気と血

���:「陰陽」の陽。中医学の根本的な考え方である陰陽論では「万物は、陰陽という対立する要素を両方持ち、その割合を刻一刻と変化させながらバランスを保っている」と捉える。がんの性質も、発生部位に関係なく、すべて陰陽の2種類に分けられる

弱った肺を蘇らせる方法

肺がんに傾きかけた体質を改善するには、何よりまず、肺に熱を籠らせないこと。そのためには、繰り返しになりますが、食べ過ぎないこと。そして過度の疲労に心当たりがあれば、気をつけて遠ざけるよう心がけましょう。

そして大切なのは、呼吸がスムーズにできる体質を手に入れることです。深く息を吸ってすべて吐くという呼吸を意識的に行ってみてください。ヨガやピラティス、太極拳のように、呼吸法を取り入れたエクササイズもおすすめです。合唱やカラオケなど思いっきり歌を歌うのも、深い呼吸を促すのですが、コロナ禍ではなかなか難しいでしょうか……。

さらに、皮膚呼吸しやすい皮膚を作るために、有酸素運動を日課にできるといいですね。ポイントはうっすら汗をかくまで続けること。ウォーキングがいちばん手軽な方法ですが、自転車もいいですし、ダンスや、ときには山に登って新鮮な空気を吸いに行くのもよいでしょう。このとき、外で周囲に人がいないときは、ぜひマスクを外して、思いっきり深く呼吸しましょう。

うっすら汗をかく有酸素運動を習慣にすることで、徐々に汗をかきやすい体質になっていき、皮膚呼吸をスムーズに行える体質を手に入れることができます。これこそが、肺が本来持つ「調節」と「治療」の機能をアップさせることに繋がるのです。

また、香辛料を使った料理も肺機能を高めてくれます。唐辛子などピリ辛料理は代謝を促して汗をかきやすくしてくれますし、ターメリックやナツメグなど東南アジア系の香辛料は、便通を促してお腹の中に入ってしまった毒素を排出しやすくしてくれます。

大切なのは、深い呼吸とうっすら汗をかく有酸素運動。香辛料の力も借りながら、肺の機能を高め、衰えかけた肺を元気づけてあげてください。これが何よりの肺がんの予防法であり、対策です。

次回は「大腸がん」について中医学の視点でアプローチします。(次号へ続く)

 

著書紹介

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