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中医師・今中健二のがんを生きる知恵
第10回 なぜ乳がんになるの? 再発予防法
がんは、どこにできようと「陽のがん」と「陰のがん」の2種類しかありません。今年1月に開始した本連載では、この2種類のがんがどのような体の状態から発生するか、そして、そのような体質から脱する方法について、様々な視点で伝えてきました。
連載第10回の今回からは、がんが陰陽2種類であることを理解した上で、あえて、がんを部位別に分け、その部位にできるがんについて、中医学の視点からアプローチします。
まずは「乳がん」からスタート。乳がんが発生するとき、体の中では何が起こっているのでしょうか。そして、治療後、再発や転移をしないためには何に気をつけ、それまでの生活をどう改善したらよいかを考えていきます。
乳がん発生の2つの原因
乳がんは、体の中のエネルギーが溜まって発生したものです。
エネルギー量が多すぎたり栄養価が高すぎたりして体内に栄養分が溢れると、乳房にとどまりやすく、蓄積が繰り返されます。そして溜まった栄養分の〝賞味期限〟が切れると、がん化しやすくなるのです。
簡潔に言うと、食べ過ぎや栄養価の高いものばかり摂取していることが乳がんの主な原因と言えるでしょう。
ただ、エネルギー過剰のほかにもう1つ、「足のむくみ」が原因になることがあります。足がむくんでエネルギーが下半身を巡ることができず、〝冷えのぼせ〟状態になって、熱とともに上半身に押し戻されると、上半身だけで*気と血(けつ)が巡り、濃縮されてしまうというメカニズムです。
つまり、乳がんは「栄養過多」もしくは「足のむくみ」から、エネルギーが乳房で濃縮されがちな体質になったときに発症しやすくなると考えられます。
栄養過多による乳がんは、もちろん*陽のがん。
一方、足のむくみを原因とする乳がんは、少しややこしいのですが、足がむくんでいる状態は水分が下半身に溜まっているので、体自体は*陰に傾いています。ただし、足のむくみが邪魔をして気血が下半身を巡ることができず、冷えのぼせ状態になって上半身に昇ってしまい、乳房近辺に濃縮されてしまうわけです。それが蓄積されてできたのが乳がんなので、これもやはり陽のがんになります(陰陽2種類のがんについては、第1回 病は「胃」から始まるを参照)。
*気と血(けつ):中医学では、体の中を「気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)」がスムーズに巡っていれば体は良い状態だと考える。気は目に見えないエネルギー。血は血液、津液は血液以外の水分。中でも「巡り」が重視されるのが気と血
*陽と陰:中医学の根本的な考え方。陰陽論では「万物は、陰陽という対立する要素を両方持ち、その割合を刻一刻と変化させながらバランスを保っている」と捉える。がんの性質も、発生部位に関係なく、すべて陰陽の2種類に分けられると考える
経絡がなぜ大切なのか
乳がん発症について考えるとき、ぜひ知ってほしいのが胃の*経絡(けいらく)です。
気血が体内をしっかり巡っていれば、人は健康でいられます。気血が流れる通り道が経絡。西洋医学では血液が流れる管を「血管」と呼びますが、体内を巡るのは血液だけではありません。血液(血)を動かすためには気が必要。つまり、気血の両方が巡っていることが重要なのです。ですから中医学では、血管も含めて、気血が流れるエネルギーの通り道を経絡と呼んでいます。
経絡は「胃の経絡」「腎臓の経絡」「膀胱の経絡」など全部で12本あり、それが繋がって体内を1周しています。そして、経絡にはところどころにツボがあり、ツボを刺激することで、気血の量や流れの速度を調節することができるのです。これは、経絡が気血の調整をつかさどっているということ。つまり経絡は気血の巡りを調整することで、臓腑や器官、組織など体内のすべての機能に影響を与えています。逆に言うと、臓腑や器官に不調が起こると、その反応は経絡上に現れてくるのです。
それを踏まえた上で、乳がんを考えるとき、とくに知ってほしいのが胃の経絡なのです。
*経絡(けいらく):気血が流れるエネルギーの通り道。経絡は全部で12本あり、頭や顔、内臓や手足を繋ぐように体中に張り巡らされている
乳房のどこに、がんができやすいか
食べたものは胃で消化されます。その後、体内に吸収された栄養分を気血にして体中に届けているのが胃の経絡。
鼻の脇にある鼻翼をスタートした胃の経絡は、まず目頭に上がり、顔面、口周り、顎関節、耳から、おでこに。そこから耳に下り、首、肩、胸、腹、脚を通って、足先へと流れます(図1)。
食べ過ぎなどで栄養過多になると、吸収された栄養分から気血が作られ過ぎてしまい、溢れます。そうなったとき、まず最初に、濃縮されて溜まりやすい場所が乳房なのです。乳房は本来、母乳を蓄える場所。つまり、溜めやすい、蓄積しやすい場所というわけです。
乳房の真ん中を上から下に走っているのが胃の経絡。その少し外側を脾臓の経絡が通っています。ここで覚えておいてほしいのが、胃と脾臓はセットであるということ。気血が体内を巡ることに関与している胃と脾臓の経絡は、乳房の真ん中と少し外側を走行しています。
さらに、栄養過多によって多くなり過ぎた気血は、熱となって経絡の上部に昇っていき、その近辺に蓄積されます。結果として乳がんは、乳房を真ん中で4分割した際の外側上部4分の1の部位に発症しやすくなるのです(図2)。
ちなみに、栄養過多のサインは血液検査の数値が総じて高いこと。高血圧、高コレステロール、高血糖などが数値として出てきたら、間違いなく、食べ過ぎなどによる栄養過多の状態。まずは食べる量、とくにご飯やパンなどの糖質やお菓子、そして果物を減らしましょう。果物はたくさん食べてもいいと思っている方がいますが、果物の糖分は想像以上に多いのです。
「足のむくみ」から発生する乳がん
もう1つの原因、「足のむくみ」から起きる乳がんは、食べ過ぎではなく、逆に食べ物に非常に気を配っているタイプの人に多いのが特徴です。
足のむくみは水分の過剰摂取が原因であることが多く、単に水の飲み過ぎという場合もありますが、他にも、肉や糖質といった粘性の食品を意識的に避け、野菜や果物など水分の多い食品を選んで食べている場合にも起こり得るからです。
足のむくみがひどくなると、胃の経絡がむくみに圧迫されて気血が下半身を巡ることができなくなり、仕方なく上にばかり向かいます。結果、上半身だけで気血が回る状態になり、濃縮されて乳房近辺に溜まってくるのです。
女性は月経のとき、腰から下が重だるくなって、熱っぽく、さらに胸がパンパンに張りませんか?
月経時は、とくに血が子宮に集まり下半身がむくみます。そして、むくみによって行く手を遮られた気血が熱とともに上へ昇り、胸に溜まってパンパンになるのです。しかし、月経が終わればむくみは解消するので、胸のハリも、腰の重だるさも消えてくれます。
ところが、足のむくみが月経によるものでない場合、当然、数日では消えてくれません。むくみが長く続き、気血が常時、上半身のみを巡るようになると、乳房の辺りに溜まりやすくなり、熱のエネルギーと一緒になって塊になることがあります。そうした状態が積み重なると、ときに悪性化することがあるというわけです。