これだけは知っておきたい 子宮頸がん編 根治性ばかりでなく、治療後のQOLもよく考えたうえで治療法を選びましょう

監修:関口勲 栃木県立がんセンター婦人科医長
構成:半沢裕子
発行:2005年8月
更新:2014年1月

手術と治療成績が変わらない放射線治療

以上が子宮頸がんに対する標準的治療ですが、前述したように、近年は患者さんのQOLを重視し、できるだけ小さく切ったり、機能を温存することが増えました。

たとえば、広汎子宮全摘術の後遺症に、排尿障害排便障害があります。特に排尿障害は、「おしっこがたまったかどうか、よくわからない」といった比較的軽いものから、自分で尿道にカテーテルを入れて排尿しなければならない深刻なものまで、程度はさまざまですが、ほとんどの症例で起きていて、患者さんの心身に大きな負担となっています。

ほかにも、腸の癒着などから起こる腸閉塞、腟が短くなることから起こる性交時の痛みや出血、さらに、リンパ節をとることから起こるリンパ浮腫や蜂窩識炎(後述)、といった後遺症もあります。

このため、広汎子宮全摘術に代わる治療法が求められていましたが、急速に普及しているのが、手術と併用でなく、単独で行なう放射線治療です。子宮頸がんに対する治療成績が、手術と変わらないことがわかったのです。化学療法を併用するとさらに治療成績が向上することもわかっています。

もちろん、放射線にも後遺症はあります。腹腔内に癒着がある患者さんでは腸閉塞を発症する危険性が高い、放射線性膀胱炎(血尿)、放射線性直腸炎(血便)が起こる、などです。治療時間が手術なら数時間なのに、2カ月かかるというデメリットもあります。

要は、自分のケースで必要とされる手術の内容をよく聞き、メリットと後遺症を比べて選ぶことだと思います。私自身は、「放射線治療医が行なう、放射線治療は安全でいい治療方法だ」と考えています。

卵巣は簡単に移動できる。放射線治療でも機能を温存

放射線治療に関してもうひとつ。放射線が卵巣に当たると、卵巣の機能はなくなります。子宮頸がんでは卵巣を残せる可能性が高いのに、そのまま放射線治療をしては卵巣の機能がなくなってしまいます。が、実は卵巣は腹腔鏡手術によってわりあい簡単に子宮から切り離し、移動することができるのです。静脈をコードのようにつけたまま、骨盤の外のほうに固定すれば、放射線の照射範囲外になりますから、卵巣機能を保ったまま、放射線治療が受けられます。

結果として、卵巣機能喪失から起こる更年期障害症状に苦しむこともありません。倫理面で議論はありますが、卵子も変わらず作られるので、将来自分の子どもを持つ可能性も残せます。設備や専門家の有無などの理由で、早期子宮頸がんの放射線治療に取り組んでいる施設はまだ多くありませんが、病院選びをふくめ検討する価値はあると思います。

手術の後遺症を軽くするため、最近行なわれるようになったのは、患部をより小さく切る準広汎子宮全摘術です。広汎子宮全摘術ではがんの取り残しを心配して、膀胱や尿管、直腸などを広範囲にはがすため、神経が切れてしまいます。排尿障害や排便障害が起きるのはこのためですが、準広汎子宮全摘術は、これらの神経をできるだけ温存する手術法です。

現状では医師の技量などにかなり差がありますが、将来的には子宮頸がん手術の主流になるだろうと思います。いずれにしても、「小さく、損傷なく切る」意義は広く認められていますので、「広汎子宮全摘術をします」と言われたら、「準」でできないのかどうか、確認してみてほしいと思います。

なお、放射線治療は3~4期のがんに対し、症状軽減のためにも行なわれます。最近では、放射線治療に化学療法を併用すると治療成績がグンとよくなる、という研究結果があり、併用療法を行なうところが増えています。

医師もネットも活用して、治療後も快適に過ごす

生殖器のがんだけに、ひと知れず悩みを抱え込んでしまう患者さんは予想以上に多いはずです。しかし、リンパ浮腫のように、放っておくとQOLが著しく損なわれる一方、早めに手当てをすると症状が劇的に改善することもあります。本来の日常生活を続けるためにも、どうぞ医師や医療機関をフルに利用してください。

とにかく、強調したいことはひとつ。基本的に「術後にやってはいけない行為」はないということです。重いものをもっても性交をしても、まったく問題ありません。むしろ、気をつけなければいけないのは、「もう性交はできない」というように思い込んでしまうことだと思います。

婦人科がんはどうしても、性に関するデリケートな問題に直面させられます。しかし、繰り返しになりますが、女性らしさは生殖器だけにあるのではなく、女性の心身全体にわたるものです。術後はなかなかそう考えられない方も多いかと思います。その点、まわりの方々が上手に温かく見守ることが、患者さんのQOLに何より大切だと思います。


診断・治療に関し、医師にぜひ質問したいことがら

診断について
  • 私のがんはどんながんですか。名称とできた場所、大きさを教えてください。
  • それはどんな性質のがんですか。
  • 今はどのくらいの進行度ですか。
  • 浸潤や転移はしていませんか。しているとしたら、どこにどんな浸潤、転移がありますか。
  • 治療を急ぎますか、少し時間がありますか。
治療について

◇治療計画のこと

  • これから、どんな治療を行なうことになりますか。全体のスケジュールを教えてください。
  • (手術を進められた人に)子宮頸がんでは、手術と放射線治療の治療成績が同じと聞きました。両療法のメリット・デメリットを教えてください。
  • (手術を勧められた人に)私の場合は、手術と放射線治療のどちらが適当と思われますか。その理由は?
  • (将来出産を希望する人に)子供を産みたいので、子宮と卵巣を残したいのですが、私の場合は可能ですか。残すと再発リスクはどのくらい高くなりますか。

◇手術を受ける場合

  • 手術でがんはとれますか。全部取れますか。それとも、部分しかとれませんか。
  • 手術はどんな手術ですか。どこをどのくらい切るのですか。
  • (広汎子宮全摘術と言われた人に)どこをどのくらい切除するのですか。それによって出てくると思われる後遺症はどんなものですか? その程度は?
  • (広汎子宮全摘術と言われた人に)より小さく切除する準広汎子宮全的術という手術があると聞きました。その術式で行なうことはできませんか。神経は温存できますか。
  • 術前、術後に抗がん剤や放射線の治療は必要ですか。
  • 術前に抗がん剤や放射線の治療で、がんを小さくしてから手術することは可能ですか。

◇手術を受けない場合

  • 手術ができない理由をくわしく教えてください。
  • どんな治療を行ないますか。抗がん剤ですか。放射線ですか。その併用ですか。
  • 抗がん剤はどんな薬をどのくらいの期間、どんな形で点滴(摂取)しますか。
  • どんな副作用がありますか。
  • 放射線治療はどのくらいの期間、どのくらいの量(線量)を受けることになりますか。
  • どんな副作用がありますか。
治療後について
  • 治療が一段落したら、そのあとはどうしたらいいですか。
  • 私の症例では、再発・転移の可能性は高いですか。
  • 再発・転移が見つかった場合、この病院で対応してもらえますか。
  • 後遺症にはどう対応してもらえますか。リンパ浮腫などが出た場合、症状を軽減するためどんなことをしてもらえますか。必要なら専門医を紹介してもらえますか。
  • 私の後遺症に対するセルフケアを教えてください。


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