ダヴィンチ手術 後遺症からの改善も向上
普及が進む前立腺がんロボット支援手術のメリット
前立腺がん治療の特徴として挙げられるのが「ロボット支援手術」の普及だ。この言葉から「ロボットが手術をする」と誤解する人もいるようだが、手術をするのはあくまでも医師。ロボットの役割はその指の動きを忠実に手術部位に伝えること。低侵襲と確実さが大きな特徴だ。
骨盤内の狭い空間を多関節で治療
PSA(前立腺特異抗原)検査の普及で、前立腺がんは多くの場合早期で見つかるようになった。
「早期前立腺がんの治療選択肢は放射線を含めいくつかありますが、中でも全摘術が多く行われてきました。しかし、狭い骨盤内で視野が得られにくいこと、太い静脈があり出血しやすいことから、非常に難度の高いものでした。それを解決するのが『ダヴィンチ』です」
日本で最初にロボット支援手術(以下、ダヴィンチ)を始め、現在最も多くの手術を行っている東京医科大学泌尿器科学分野教授で、ロボット手術支援センター長の大堀 理さんは、ロボット手術は前立腺摘出術に革命を起こすほどの存在だと話す。「ダヴィンチ」とはこのロボットの商品名だ。
ダヴィンチの仕組みは、患者さんのお腹の中(腹腔内)を写した内視鏡の3D映像を医師がモニターで見ながらセンサーをつけた指を動かすと、ダヴィンチの多関節アームについた鉗子がその動きをお腹の中で正確に実行する、というものだ。
「腹腔内が広い視野ではっきりと見えて手術しやすい上、出血も極めて少ないので患者さんの回復がとても早いのが特徴です」
前立腺がんにおける手術の選択肢として、開腹と腹腔鏡とダヴィンチがあるが、東京医科大学病院では腹腔鏡手術は行っていない。米国でも普及しなかった。その理由を大堀さんは、次のように話す。
「腹腔鏡は関節が1つですから曲げられる方向がかぎられていますが、ダヴィンチは多関節です。また腹腔鏡は技術を自分のものにするまで時間を要しますが、ダヴィンチはとても早く技術を習得できます。そして、ダヴィンチは自分の手が腹部に入ったような感覚で、縫合の糸を結ぶのも簡単です。これに対し、腹腔鏡は長い箸を持って、その先端で作業をする感じです」
サージャンコンソール……モニターに映る拡大された3次元立体画像(3D)を見ながら、執刀医が操作してペイシェントカートの鉗子を動かす ペイシェントカート……あらゆる方向に屈曲可能な鉗子がついており、人間の指の動きよりも緻密な作業ができる ビジョンカート……執刀医以外のスタッフは補助モニターを見ながらサポートにあたる
2012年から保険適用に 費用面の課題もクリア
ここでは、開腹手術とロボット手術を比較してみる。表1のように、手術中の出血、術後の痛み、そして術後の尿失禁や性機能障害からの回復でもダヴィンチのほうが優れている、というのが定説だ。
「出血量は開腹の5分の1以下です。ガスでお腹を膨らませるので、その圧力で出血が抑えられるのと、より良い視野の中で細かく鉗子を動かせるためです」
開腹手術の場合、とくに患者さんが肥満体型だと困難さが増す。前立腺は深い所にあるので脂肪が厚いと奥まで見にくいので、出血につながることも多い。ダヴィンチは内視鏡で見ながらの手術なので、いったん腹腔内に鉗子が入れば脂肪の厚さは関係ないという。
また、患者さんも手術後の痛みが小さくてすむ。開腹は8㎝以上切るので1週間くらいはかなり痛く、3、4日は重傷感が残る。ダヴィンチならそれがほとんどない。
「そして、一番重要なのが、がんの根治率です。開腹とダヴィンチでは大きな差がないという報告が多いのですが、当院の結果を見るとダヴィンチがやや勝ると思われます」
ロボット手術の大きなマイナスポイントは高額な治療費だったが、2012年4月に保険適用になったことでそのハードルもなくなった。
「ダヴィンチは十数年前に米国で開発されましたが、日本では導入が進みませんでした。私も手で触れながら行う開腹手術に慣れていたので、多少懐疑的なところもありましたが、実際に使用してみると考えが180度変わりました。これからの手術はこれだ、と」
現在では国内で200施設以上が導入し、世界第2位のダヴィンチ導入国となった。同病院では2006年からダヴィンチによる手術を開始したが、日本各地から患者さんが集まってきたこともあって手術数は右肩上がりで急増。現在では年間300例以上を行っている(図2)。
「今後さらに広まって前立腺がんの標準治療となることは間違いありません」
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