鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談

遺伝性がんの予防的切除は保険適用にしてほしい 太宰牧子 × 鎌田 實

撮影●板橋雄一
構成/江口 敏
発行:2015年8月
更新:2018年8月

  

遺伝性乳がんを発症し、遺伝性乳がん・卵巣がん当事者の会を立ち上げた主婦の願い

2年前、ハリウッド女優アンジェリーナ・ジョリーが遺伝性がんに配慮して乳房を摘出したことは、世界的なニュースとなったが、昨年5月、日本に遺伝性乳がん・卵巣がん当事者の会「クラヴィス(鍵)アルクス(虹)」が誕生した。自ら遺伝性乳がんの患者さんで、左乳房を全摘している太宰牧子代表に、鎌田さんが会設立の経緯などを聞いた――。

太宰牧子さん「私や会の仲間の経験は惜しみなく伝えていくつもりです」

だざい まきこ
1968年、東京都生まれ。主婦。2011年、42歳のとき、自らの触診で左胸に乳がんを見つけ、遺伝性がんであることを確かめた後、全摘手術を受ける。術後3年の2014年5月、遺伝性乳がん・卵巣がん当事者の会「クラヴィスアルクス」(www.clavisarcus.com)を設立し、代表に就任。遺伝性がんの検査・治療などの啓発に努めている。2015年1月、専門医らの学術集会で講演したのを機に、実名を公表して活動している
鎌田 實さん「日本では遺伝性がんに対する認識がまだまだ低いと思いますね」

かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数

姉を卵巣がんで亡くし 気になった遺伝性がん

鎌田 太宰さんは、ご自分が遺伝性の乳がんだとわかったのは、いつ頃でしたか。

太宰 2011年の4月の終わりです。2004年に年子の姉が卵巣がんになり、2008年1月に他界してしまったんです。私は3人姉妹の真ん中ですが、その頃に「女性ががんになると、その姉妹も婦人科系のがんになりやすい」という事をネットで見て、妹と「気をつけなきゃね。定期的に検診しようね」って話していました。

ただ、その頃はまだ、HBOC(遺伝性乳がん・卵巣がん症候群)というものも知らないで、がんになる確率が高くなるということだけを気にしていました。とにかく姉の壮絶な最期を見ていましたので、自分で毎日触診したり、定期検診を受けたりして、怯えながら気をつけていたという感じでした。

鎌田 偉いなぁ。普通は怯えるだけで、なかなか自分で毎日触診まではしないんですけれどね。

太宰 姉は40歳で2人の子どもを残して逝きましたから、私はこれ以上、家族を悲しませたくないと思いました。姉はお腹を開けたときにはすでに進行していて、私と妹は「早期発見できるよう、頑張ろうね」と声を掛け合っていたんです。

鎌田 それで、2011年2月初めに、触診していたら、怪しいものがあった?

太宰 あったんです。当時、神経質になりすぎているところもあって、お腹が少しでも張ると、すぐに病院へ行って「先生、これ、卵巣が腫れているんじゃないですか」って訊いたりすると、「いや、それは脂肪です」と言われたりしました(笑)。

そんな中、左胸に小豆大の小さなしこりを感じたんです。健康診断を数日後に控えていましたが、メニューに超音波が入っていない事を知り、念のため近所の乳腺科に行ったんです。

マンモグラフィと超音波検査をしてもらうと5㎜ぐらいの腫瘍が見つかりました。「悪性かもしれないから、細胞診したほうがいいよ」と言われ、日を改めて検査してもらうと、結果はクラスVで悪性度が高く、先生は「早く手術しましょうね」と言って下さいました。

乳がんの手術の前に BRCA遺伝子検査

鎌田 しかし、太宰さんはすぐ手術をすることに、納得できなかったんですね。

太宰 がんになっちゃった。どうしよう。驚きや恐怖など、いろんな思いが頭の中をぐるぐる回りました。姉が亡くなって、私にとって「がんイコール死」だったんです。早期発見すれば助かるのだと、頭ではわかっているのですが、死んでしまうんじゃないかと不安が募るんです。それでHBOCの事をもう一度調べて、BRCA遺伝子検査の事が書かれた資料をプリントアウトして、先生に見せました。先生は「それはウチではやってないんだよ。微小ながんだから、腹腔鏡手術で早期に取れば心配ないよ」と仰って下さったのですが、私はどうしても納得がいかなかったんです。

鎌田 遺伝性のがんかどうか確認するために、治療に入る前に、どうしてもBRCA検査を受けておきたかったんだ。それでBRCA遺伝子検査ができる病院を探した。

太宰 はい。がん研有明病院でできると知り、前医からの紹介状を手にし、予約を取りました。主治医となった先生に事情をお話しすると、遺伝子について詳細に説明していただきました。そこで初めて遺伝性乳がん・卵巣がん症候群について理解ができ、BRCAにも1(ワン)と2(ツー)の2種類あることを知りました。私がすぐにでも検査を受けたい気持ちを伝えると、主治医は「先ず遺伝カウンセリングを受診し、先生や遺伝カウンセラーの話をよく聞き、家族とよく相談してから決めなさい」と言われました。カウンセリング前に、私は家族や親戚に連絡を取り「遺伝性がんの検査を受けたい」と相談すると、「私のこれからの診療や、家族の健康管理・予防に役立つのであれば」と賛成してくれました。

鎌田 お姉さん以外に、親族の中に卵巣がんや乳がんの人はいなかったんですか。

太宰 遠縁に乳がんの人が2人いました。それ以外のがんも何人かいました。以前は私も家族性がんに対して理解しておらず、HBOCとは何かもよく知らないで、「ウチはがん家系でがんになった親族は一杯います」なんて答えていました(笑)。

鎌田 それで検査をした結果は?

太宰 BRCA1遺伝子に変異が認められました。私の場合、すでに罹患しているので、予防的切除という方向ではなく、発症した左胸の手術を全摘か温存かを「手術直前まで考えていいよ」と言われました。再発は怖かったですし、再建技術も進んでいる事を知り全摘にしました。

鎌田 遺伝性乳がんであることを知らなかったら、当然、部分切除だったろうね。やはり知るということは大事なことなんだね。

太宰 はい。知らないで部分切除にしていたらと考えると怖いですね。勿論、再発するとは限らないのですが、再発を繰り返すという特徴がHBOCにはありますから、不安は最小限に抑えたいと思いました。胸がなくなる喪失感は経験してみないとわからかった事ですが、全摘を選択したことに後悔はありませんでした。

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