T790M変異陽性例に効果的な新薬が登場
非小細胞肺がん 耐性後は再生検を行い 適切なEGFR-TKIで治療する
EGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんの治療を大きく進展させた「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)」。しかし、使い続けると1年ほどで耐性が生じるのが課題となっていた。最近の治療戦略について、耐性に効果を発揮する新しいタイプのEGFR-TKIの登場を含めて紹介する。
EGFR-TKI耐性のメカニズムには大きく2タイプある
非小細胞肺がん(NSCLC)のうち、EGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子に変異があるタイプのがんは、チロシンキナーゼという1つの酵素が異常に活性化して、がん細胞はその1つの信号伝達によって異常増殖を始める。
このような状態をがん遺伝子依存という。そのため治療では、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)を用いて、がん細胞のアキレス腱ともいえる増殖を促す唯一の信号伝達を遮断することにより、がんの増殖を抑える。
ところが、EGFR-TKIを使ったほとんどの症例において数カ月から約1年間で耐性が生じて薬が効かなくなり、がん細胞が再び増殖を開始する。
EGFR-TKIについては、2002年と2007年に各々承認された*イレッサと*タルセバが第1世代薬、2014年に承認された*ジオトリフが第2世代薬と呼ばれている。耐性は、そのどの薬剤にも起こる(図1)。
*イレッサ=一般名ゲフィチニブ *タルセバ=一般名エルロチニブ *ジオトリフ=一般名アファチニブ
第3世代薬が効果を発揮する耐性のタイプとは
EGFR-TKIの耐性が起こるメカニズムは、これまでに複数が確認されているが、頻度としてよく起こるものは2つだ。
1つは、EGFRの遺伝子の特定の場所に遺伝子変異(主にT790M変異陽性)が起こり、薬が結合しなくなって効かなくなるタイプだ。EGFR-TKIの耐性を獲得した症例の50%以上にこれが見られる(図2)。
もう1つが、薬は結合するものの、EGFR以外の経路からバイパスシグナルが活性化し、がんの増殖シグナルを伝えてしまうことで耐性を獲得するタイプだ。MET遺伝子が過剰に増幅しがん増殖シグナルを出す場合などがある。
また、上記の2つ以外では、小細胞がん化と上皮間葉化も、EGFR-TKIが効かなくなる要因の一端となっている。
そこへEGFR-TKIの耐性を獲得した症例にも効果を期待できる待望の第3世代薬が開発されている(表3)。まず登場するのが、*AZD9291という、EGFR-TKIによる治療後に病勢が進行したT790M変異陽性非小細胞がんに効果を発揮する薬だ。米国では昨年より臨床応用されており、国内では今年(2016年)3月に承認される見込みとなっており、注目を集めている。
*AZD9291=TAGRISSO(国内未承認)
耐性後の再生検は不可欠である
薬剤耐性獲得後の再生検について、「なぜ耐性を生じたかという耐性機序を調べるために、極力全例において行っています」という岡山大学病院呼吸器・アレルギー内科教授の木浦勝行さんは、次のように話す。
「EGFR-TKIを使っていて耐性が起きた後に、再生検を行って、例えばT790M変異陽性の場合なら、第3世代のEGFR-TKIであるAZD9291の承認後であれば、これを使う。しかし、小細胞がん化した場合には、通常化学療法を行います。従来の抗がん薬を使うべきか、新しい第3世代の薬を使うべきかなど、治療の選択を誤らないための再生検が絶対に必要です。
EGFR遺伝子変異陽性肺がんで、第1世代のEGFR-TKIを使っていて効かなくなった場合は、検体が安全に採取できる限り再生検を行うというのが、肺がんの専門家のいまの考え方になっています」
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