尿路上皮がん(膀胱・腎盂・尿管)に新薬の期待 進行した尿路上皮がん治療に選択肢が増える
尿路上皮がん(膀胱がん・腎盂がん・尿管がん)の進行・再発転移がんに対して、米国において新たな薬剤が承認された。「パドセブ」という抗体薬物複合体だ。免疫チェックポイント阻害薬のキイトルーダに次ぎ、これまで進行した尿路上皮がんの治療の選択肢は、化学療法以外にはほとんどなかった困難な状況におかれていた患者さんにとって、大いに期待したい薬だ。
進行・再発転移がんの治療と今後の展望について、がん研有明病院泌尿器科化学療法担当部長の湯浅健さんに伺った。
転移性尿路上皮(膀胱・腎盂・尿管)がんとは
尿路である膀胱・腎盂(じんう)・尿管は尿路上皮粘膜に覆われていて、そこから発生するがんを「尿路上皮がん」と呼ぶ。膀胱がんは、泌尿器のがん全体では、前立腺がんの次に多い。
ほかに尿道にも尿路上皮がんが発生し、膀胱がんは、腎盂・尿管・尿道のがんを合併している場合もある(図1)。
「膀胱がんの側から見ると、腎盂・尿管など他のがんが合併しているケースは比較的少ないのですが、腎盂・尿管がんの側から見ると膀胱がんが合併していることが多いということは確かだと思います。いずれにしても膀胱鏡や腹部CTスキャンで検査をして診断をしますので、どこにがんがあるのかは、そのときにわかります」
そう説明するのは、がん研有明病院泌尿器科化学療法担当部長の湯浅健さんだ。
膀胱がんは、2017年の罹患数では、男性107,294人、女性5,745人である(全国がん登録による全国がん罹患データより)。男性が女性より圧倒的に罹りやすいのが特徴だ。
死亡率は、人口10万人あたり、男性で9.6人、女性で4.5人である(国立がん研究センターがん対策情報センター「がん登録・統計」2018年)。
5年生存率は男性で76.5%、女性で63.0%だ(部位別5年相対生存率「2009年~2011年診断例」地域がん登録によるがん生存率データより)。
抗がん薬併用療法「GC療法」が標準治療
「膀胱がんは早期発見で治療に入ることができれば、比較的、予後(よご)の良いがんであるということが言えます。
ただし、同じ膀胱がんであっても、表層の粘膜、粘膜下層までにとどまっている『筋層非浸潤性膀胱がん』(きんそうひしんじゅんせい)と、筋層(筋層、漿膜:しょうまく)に進行した『筋層浸潤性膀胱がん』では治療方針が大きく異なりますし、別のがんと言ってもいいくらいなのです。その場合は、予後に関しても大きな差が出るのです」(図2)
今回取り上げる進行・再発転移膀胱がん(尿路上皮がん)は、以前であれば予後はほぼ1年半程度だったという。
現在、進行・再発転移膀胱がんに対する標準治療は、ジェムザール(一般名ゲムシタビン)とシスプラチン(一般名)2剤併用で行う「GC療法」だ。
GC療法は、それまで行われていた「MVAC療法」(M:メトトレキサート V:ビンブラスチン A:ドキソルビシン(アドリアマイシン) C:シスプラチン)との臨床試験において同等の効果を示した。
また、4剤併用のMVAC療法が消化器症状などの副作用が強く出るのに比べて、GC療法は少なかったため、現在も第1選択になっている。そしてGC療法が効かなくなれば、2次治療として、タキサン系のタキソール(一般名パクリタキセル)、タキソテール(同ドセタキセル)やMVAC療法が使われてきた。
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