先見性を持った活動を展開し続ける「財団法人がんの子供を守る会」
がん医療とそのサポート体制を患者側から変えてきた40年の闘いの軌跡
今年で設立40周年を迎えた「がんの子供を守る会」。その歴史を振り返ると、驚かされることが多い。
がん登録、治療費の公費負担、経済援助等々、既に40年も前からこういった事業に取り組んできたその先見性は目を見張るものがある。
会として、これまでどういった考えを持ち、活動を行ってきたのか。
今日、急激に増えている他の患者会にとっても、さまざまな点で参考になるのではないだろうか。
子どもをがんで亡くした父親が、主治医の勧めで親の会をつくる
「がんの子供を守る会」理事長の垣水孝一さんと理事の近藤博子さん
今から50年近く前、がんで子どもを亡くした父親が2人、主治医のもとを訪れ、「病院にお礼がしたい」と申し出た。これに対し、主治医は「アメリカには小児がんの親と子を支援する会がある。日本にもそうした会をつくってはどうか」と提案する。
2人は趣意書をつくり、会員を募り、6年後の1968年2月、ついに「がんの子供を助ける親の会」の設立総会にこぎつける。これが同年10月、名前を変え、財団法人として設立された「がんの子供を守る会」だ。2人の父親とは初代理事長と第2代理事長、主治医とは聖路加国際病院小児科の西村昂三医師だった。
昭和40年代に小児がんの患者会があったこと自体驚きだが、今年40周年を迎えた「がんの子供を守る会」の歴史は、がん医療とそのサポート体制を患者側から変えてきた闘いと成果の歴史、といっても言い過ぎではない。
40年前にがん登録、研究助成、ケースワーカーの研究会も
第3代理事長となる垣水孝一さんは、「がんの子供を守る会」の目的は3つあると語る。
(1)がんの子供をもつ親とがんの子供たちを支援する
(2)小児がんを治る病気にする
(3)子供にもがんがあることを、広く知らせる
この目的を掲げ、「がんの子供を守る会」は積極的にいたって大規模に、必要かつ効果的な活動計画を打ち立て、次々実現させていく。それが可能だった最大の理由を、垣水さんはこう語る。
「親の会をつくろうという、初代と第2代理事長の奮闘をNHKがレポートし、それを見た富国生命の当時の社長さんが、10年間で10億円というご寄付をくださった。これが非常に大きいと思います。これにより財団をつくり、活動を効果的に進められました」
同会の略史を見ても、財団が設立された翌月の1968年11月には治療研究委員会を立ち上げ、12月には「緊急医療費援助」が始まっている。69年には、最近ようやく日本でも必要が叫ばれるようになったがん(小児がん)の全国登録を開始し、70年にはアメリカから専門家を招いて、ケースワーカー研究会を開催。小児がんの公費負担について厚生大臣(当時)らに陳情も行っている。公費負担は翌71年に実現するが、さらにこの年は初の研究助成も行っている。
40年前にがん登録、治療費の公費負担、経済援助、研究への助成などを実現していたのだ。その先見性には脱帽するしかない。
セミナーが研究会になり、日本小児がん学会が発足
平成20年度「がんの子供を守る会」の定期総会
少しくわしく見てみよう。まず、「小児がんを治る病気にすること」だが、前述したように、会では治療研究委員会を立ち上げ、どの研究にどれだけ助成を行えば効果が見込めるかを、医師と協力して見定め、以後、40年間にわたり助成を続けてきた。
会の設立当時、小児がんの死亡率は95パーセントだった。それが今日、じつに30パーセントを切るまでに激減している。その背景にはもちろん、がん医療そのものの発展もあるが、「がんの子供を守る会」の助成も大きかったと語る関係者は決して少なくない。
「小児がんを治る病気に」という目的のために、医療者の情報交換の場もつくった。毎年、開催地を変えてセミナーを開催したのだ。セミナーは1985年から「日本小児がん研究会」と名を変え、1991年にはついに「日本小児がん学会」に発展する。
今も、学会の事務局は「がんの子供を守る会」にある。そして、学会の学術集会が開かれるときには、「がんの子供を守る会」も公開シンポジウムを開催し、それは今にいたっている。
1969年という早い時期に全国登録を開始したのも、小児がんの実態をつかまなければ、治療と研究成果を蓄積できないとの思いからだった。
治療費以外にも出費がかさむ。だから、返還不要の療養助成
会の目的の1つである、「がんの子供をもつ親とがんの子供たちを支援すること」についても、活動は多彩だ。もともとが「親の会」だったため、親の相談(相談助成)にも力を入れてきたが、実質的に経済援助をしてくれる「療養助成」も行っている。
「小児がん治療費の公費負担を実現したのは、会の本当に大きな成果だと思います。昔は治療費が高く、親は家を売ったり、借金をして治療費を捻出しました。でも、そうやって治療しても、95パーセントの子が亡くなる時代だったのです。前理事長は『地獄の苦しみ』といっておられました。この苦しみが骨身にしみていた設立当初の会員さんが療養助成をはじめ、今も重要な事業の1つになっています」(理事の近藤博子さん)
「療養助成」には2種類ある。年収400万円以下の家庭に5万円を助成する「一般療養助成」と、収入に関係なく、必要と認めた場合に行う20万円程度の「特別療養助成」の2つだ。
設立当初、「一般療養助成」は、小児がんの子をもつ家族から要請があれば、一律に助成していた。金額は当時のままだが、40年前の5万円はかなり大きな額だったといえるだろう。公費負担になった今も続けているのは、「小児がんの治療には、診療報酬以外にもお金がかかるんですね。病気によっては、住んでいる地方に専門医がいないこともあります。そんなときは定期的に大都市に通い、旅費や宿泊費、さらに、付き添い費など、さまざまなお金がかかります。それほど高額な支援ではないのですが、それでも返さずにすむお金があれば、親御さんは助かるのではと続けています」と近藤さんは話している。
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