放っておいても治らない。自宅でできるケアで予防する
悪化する前から行うのが大切。リンパ浮腫のセルフケア
リンパ浮腫研究所所長の
佐藤佳代子さん
手術を受けてがんは治ったと思っていたのに、突然手や脚にむくみが起こってくることがある。
それがリンパ浮腫と診断されると一生付き合っていかなければならない。けれども早い段階から適切にケアすれば、重症化を防ぐことが可能だ。
乳がん、子宮がん、前立腺がんなどの治療のあと、手や足などに強くむくみ(浮腫)が出ることがあります。これは、手術や放射線照射などによって体内にあるリンパ節やリンパ管が傷ついたために起こるむくみで、「リンパ浮腫」といいます。
リンパ浮腫は健康なときに生じるむくみとは違い、重症になると腕や脚が大きくむくんだり、深刻な皮膚炎を引き起こすこともあります。手術直後に症状が出ることもあれば、10年も経ってから発症することもあります。個人差の幅は大きいですが、早い段階からリンパ浮腫について知り、適切にケアすることにより、発症を遠ざけ、発症しても重症化させずに過ごすことができます。
浮腫を発症しにくい人もいますが、これまでにリンパ節を切除するような手術や放射線治療を受けた方は、リンパ浮腫が起こる可能性があることを知っていただき、ぜひ安全に日常的ケアを取り入れてほしいと思います。ここでは、「家庭でできるセルフケア」についてお話ししたいと思います。
子宮がん術後両下肢リンパ浮腫
(治療前)
8回の治療でふくらはぎの周囲径が7・4センチ減少
(治療後)
リンパ管のネットワークのしくみ
まず、私たちの体内には、血管系とリンパ管系という2つの液体の「循環器系」があります。リンパ管系はリンパ液を運ぶ管として全身に張り巡らされていて、余分な体液を血液中に戻したり、血液中のタンパク量を調節したり、細菌やウイルスが血管に入るのを防いでいます。体の表面を走る「表在リンパ系」と深いところを走る「深部リンパ系」があり、その連携によって、体内の水分バランスを保ち、むくみが出るのを防いでいます。
リンパ管系にはところどころにリンパ節と呼ばれる小さな結節(ふくらみ)があり、全身に約600~700個点在しています。その周囲を含め各方面に分岐するリンパ管からリンパ液を集めるしくみになっていて、ここで細菌やウイルスなどを処理するリンパ球をつくったり、有害な物質を取り除くフィルターの役目を担っています。
がんの治療では、がんの広がりを阻止するため、リンパ節を切除したり、放射線をかけたりしますが、それによってリンパ液の流れが妨げられ、リンパ浮腫が起きやすくなります。たとえば、わきの下のリンパ節を切除したときは、その側の腕や前胸部・背中に、骨盤の中や足のつけ根のリンパ節を切除したときは、両脚や下腹部・おしりにむくみが出やすくなります。
また、顔面や頭部にもこのようなリンパ管やリンパ節のネットワークがあり、同様に患部にむくみが出やすくなります。
ただ、ありがたいことに、体内にはほかにも、左右のわきの下の間、左右の足のつけ根の間、左右それぞれのわきの下と足のつけ根の間において、リンパ管の綿密なネットワークがより発達しています。
リンパ浮腫のケアでは、あるきっかけでリンパ管に輸送障害が生じたとき、組織の隙間にとどこおりがちな体液を、こうしたリンパ管やリンパ節のしくみを通じて、健康なリンパ管系に流れるようにすすめていきます。
普通のむくみと違い、放っておいても改善しにくい
リンパ浮腫は、「そのまま放っておいても、改善しにくい」症状の1つです。リンパ浮腫は状態により、以下の4つの段階に分けられます。
● 0期……自覚症状もほとんどありませんが、気になる部分の皮膚にふれると、ほんの少し厚みを感じます。
● 1期……はっきりした違和感のある段階です。指で軽く押したとき、あとが残りやすくなります。
● 2期……細胞のすきまに体液やたんぱく質がたまり、皮膚の厚みが増して、周径値も大きくなります。指で押すと、硬いスポンジのような手ごたえがあります。
● 3期……皮膚の厚みや硬さがさらに増し、周径値はいっそう大きくなります。細胞のすきまにさらに体液が増え、頻繁に炎症を起こすようになります。
一般的なむくみなら、「ひと晩寝たら治った」というのはよくあることですが、リンパ浮腫では初期でない限り、そういうことはみられません。発症したとしても症状を悪化させないように、できるだけ早めに対応することが大切です。