焦って手術を受ける必要はないとの意見があるが

回答者●古賀文隆
がん・感染症センター都立駒込病院腎泌尿器外科部長
発行:2023年5月
更新:2023年5月

  

危険度の低い前立腺がんの場合、焦って手術を受ける必要はないという意見もあります。危険度の高い前立腺がんと低い前立腺がんの違いは何でしょうか。また高齢の場合は危険度の高いがんであっても、今後のQOLを考えたら監視療法でいいという意見もありますが、いかがでしょうか。

(74歳 男性 東京都)

期待余命が10年以下なら未治療、経過観察を

がん・感染症センター都立駒込病院
腎泌尿器外科部長の古賀文隆さん

転移のない前立腺がんは、PSA値、ステージ、生検のグリソンスコアの3つでリスク分類を行います。PSA値10未満、ステージT2a以下、グリソンスコア6は低リスク、PSA値20以上またはステージT3以上またはグリソンスコア8以上は高リスク、それ以外は中リスクに分類されます。

リスク分類は、根治的治療(手術や放射線治療)後の再発のリスクや、未治療で経過観察をした場合の進行のリスクと関連します。すなわち、低リスクがんは急いで治療しなくてもすぐには進行しないと推定されるグループである一方、高リスクがんはある程度病状が進行しており、未治療で経過観察する場合に進行する危険性が高いグループと言えます。

前立腺がんは、高リスクであっても急速に進行して命を脅かすことは殆どありません。また転移したとしてもホルモン療法が有効であり、それによって60%以上の5年生存率が期待されます。そのため、転移のない前立腺がんの治療方針を決める際は「期待余命」という考えが重要です。

一般的に、期待余命が10年以上と推定される方(日本人男性の場合は平均で77~78歳まで)が根治的治療の対象となります。期待余命10年未満の方は前立腺がんが命を脅かす前に寿命を迎える可能性が高い、と言い換えることもできます。

相談者が指摘されるように、前立腺がんに対する根治的治療は、身体的・経済的負担に加えQOL低下のリスクを伴います。そのため、期待余命10年未満の高齢者の場合は、たとえ高リスクがんであったとしても未治療経過観察とし、進行すれば待機的にホルモン療法という治療方針が世界的にも標準治療とされています。

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