腫瘍内科医のひとりごと 163 尿検査でがんがわかる!?

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2024年7月
更新:2024年7月

  

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

先日、友人からこんな電話が来ました。

「AIを使ったがんの尿検査があるそうです。新しいがんのリスク検査で、尿の物質から解析する精度の高い検査だそうです。どう思われますか?」

さまざまながん検査キットが販売されているが……

その友人の話は、さらに続きます。

「自宅で採尿して、送るだけでがんが早期でもわかるらしいです。採尿して、郵送するだけですから、病院に行かなくてすみます。これなら、忙しい人でも気軽にがん検診が可能になると思います。この検査で陽性だったら、そこで病院に行って、がんがどこにあるか詳細に検査をすることになるらしいのです」

「その尿検査で陰性なら、本当にこの方にはがんがないのですかね?」と聞くと、「ムムム……」と、それ以上の答えはありませんでした。

もし、陽性だったとして、どこのがんなのかがわからない。

「陽性だった」ら、病院に行って、どこの科を受診したらよいのだろうか?

肺を調べて、食道・胃を調べて、なければ肝臓? 次は泌尿器? 女性なら乳腺? どれもなかったら婦人科で調べてもらって……。

それでも見つからなかったら、どうするのだろうか?

私は「尿検査だけでは、無理だと思います。がんがあるか、ないか、それはわからないと思います」と答えました。

そういえば、数年前、「犬が、匂いでがんを判断してくれる」とか、「尿1滴で、尿に含まれるがん特有の匂いを検知する線虫の検査でがんがわかる」とか、話題になったことがあったことを思い出しました。

がん検診のメリットを知っておきたい

国の検診指針に定められたがん検診は、「科学的根拠に基づいたがん検診」です。その科学的根拠とは、がん検診によるメリットがデメリットを上回ると判断されることです。

メリットは、定期的な検診で、がんの早期発見・早期治療によりがんで死亡するリスクの減少です。早期なら胃がん・大腸がん・乳がんの9割以上が治るのです。また、検診の結果「異常なし」なら、多くの人ががんでないことで安心できます。早期がんの場合、食道がん、胃がん、大腸がんなどでは、症状が全くないことが多いのです。

検診でのデメリットは、偽陽性や過剰診断で、不必要な検査が行われる場合があることです。また、精密検査を受けるように言われたことでの心理的負担、不安感があります。

日本人のがん検診受診率は50%前後で、約80%の米国、約70%韓国に比べてとても低いのです。その理由に「時間がない」「自分は健康に自信がある」「心配なときはいつでも医療期間を受診できる」等々あるようですが、日本人には、依然として正しい知識が得られていないのではないかと思います。がんは早く見つけることが大切なのです。

生涯、日本人の2人に1人はがんと診断され、がんで死亡する確率は男性で4人に1人、女性で6人に1人です。

がん検診の推奨頻度は、がん種によって異なります。胃、乳腺なら2年毎、大腸がん(便潜血)、肺がんなら年1回が推奨されています。

この尿検査の詳細はわかりませんが、陰性だったらがんがないと思ってしまって、検診を受けないことになるのではないか? と心配になりました。この検査法は科学的にエビデンスがあるのか? とても疑問に思いました。

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