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食事も外出もスポーツも、なんでもできる
成功体験を重ねて、ストーマと仲良く過ごそう!

監修:武田信子 癌研有明病院医療支援センター医療支援室WOC外来師長・WOCN
取材・文:池内加寿子
発行:2007年9月
更新:2013年4月

  

武田信子さん 癌研有明病院医療支援センター
医療支援室WOC外来師長の
武田信子さん

直腸がん等の手術に伴い、一時的、または永久的なストーマ(人工肛門)が造設されると、患者さんは新しい排泄の形に慣れるまでつらい時間を過ごしがちです。専門のナースが提案する「普段の生活の延長で手軽にできるケアのコツ」と「ニオイや漏れなどのトラブル解消法」をぜひ試してみてください。


ストーマ外来は、悩めるオストメイトの救世主

ギリシャ語の「口」を語源とするストーマは、手術でおなかに新たにつくる便や尿の排泄口のことです。

かつて、排泄物を受けるよいストーマ装具もなく、医療者の適切な指導も得られずに、ストーマ保有者(オストメイト)が苦労してセルフケアをしなければならない時代がありました。現在では、「漏れない」「におわない」ストーマ装具の開発・改良が飛躍的に進んでいます。また、ストーマ専門外来(WOC外来)で専門のナース(WOCナース、ETナース 注1)がケアの指導や相談にあたる病院が増え、患者会(後述)の活動も活発になっています。とはいえ、まだストーマのトラブルに悩む患者さんが少なくありません。

癌研有明病院2階の消化器センターにあるWOC外来では、院内だけでなく院外から訪れる患者さんの相談にも応じています。毎日午前9時から夕刻まで予約制で、患者さん1人につき30分~1時間かけて、専門のナースがそれぞれの患者さんのストーマの状態に合わせた装具の選択から手入れ法、さまざまな合併症の対策、日常生活の過ごし方まで、きめ細かくアドバイスしています。

WOC外来師長の武田信子さんはこう話します。

「ストーマ管理の説明を1度か2度聞いただけではなかなか理解も受容もできないものです。ボディイメージや排泄習慣が変わるのは大変なことですから、退院後もストーマと日々接してケアに慣れ、本当に気持ちの上で受容できるまでには半年、1年かかるのが普通です」

がんの手術後は、再発の不安などのさまざまな悩みが重なり、慣れないストーマとのおつきあいを煩わしく感じるのも無理からぬことでしょう。

他院から訪れる患者さんのなかには、手術後初めてストーマがつくられているのを知ったときの驚きや嘆き、その後の苦労についてずっと話し続ける方もいるそうです。最近は入院日数が短くなり、退院までにストーマ・ケアの指導を十分に受けられないこともあります。

「このような事態を極力防ぐために、当院ではストーマ造設の可能性が1パーセントでもある場合は、事前に医師と看護師が連携し、手術の2週間から1カ月前から患者さんへのストーマ造設に関するオリエンテーションを始めます」(武田さん・以下同)

患者さんにストーマのイメージをつかんでもらったうえで、手術前日に医師とWOCナース同席で、ストーマの位置を決めます。手術翌日には患者さん自身が実際にストーマに見て触れて、10日~2週間の入院中に、基本的な手入れの方法や装具のつけ方などのリハビリテーションを行います。退院後も半年間は、患者さんが定期的にWOC外来を受診することで、適切なストーマ管理ができるシステムになっています。

「事前に十分な説明を受けていても、手術後に腹部から排泄物が流出してくる姿を目のあたりした患者さんのショックは大きいものです。医療者も含めて周囲の方は、ボディイメージや排泄習慣が変化して戸惑っている患者さんの心理を察することが必要ですね。患者さんは日々、成功体験を繰り返していくなかで安心感を取り戻し、普通の生活に戻っていけるのです」

注1“WOC”とは英語でWound(創傷)、Ostomy(ストーマ)、Continence(失禁)の頭文字をとったもので「WOC(ウォック)」と呼ばれています。
“ET”とはEnterostomal Therapistの略で日本語に訳すと「ストーマ療法士」となります。資格の修得過程が異なるために違う名称で呼ばれていますが、ともに業務内容は同じで、創傷ケア、ストーマケア、失禁ケアに関してとくに専門的な看護技術・知識を持っています

ストーマとはおなかに作られた新たな排泄口

写真:ストーマ(人工肛門)造設した腹部
ストーマ(人工肛門)造設した腹部

[図1 コロストミー(S状結腸ストーマ)]
図1 コロストミー(S状結腸ストーマ)

さて、「ストーマ」とはどのようなものなのでしょうか。

この分野の先がけとして17年前からET(エンテロストマルセラピスト)、WOCナースの資格をもち、ストーマ保有者=オストメイトの方にアドバイスをしている静岡がんセンター副看護部長の青木和惠さんは、次のように説明します。

「ストーマとは、“からだにあいた穴”という意味で、便が出る人工肛門をはじめ、胆汁、膵液の出口などの消化器系ストーマ、尿が出てくる尿路系ストーマなどがあります」

ここでは、人工肛門に絞って、ストーマと呼ぶことにします

現在、ストーマ保有者(オストメイト)の数は、15万人とも30万人ともいわれています。

「直腸がんのほか、日本では数少ない潰瘍性大腸炎やクローン病などで肛門を切除した場合もストーマの対象になります」(青木さん・以下同)

子宮がんや直腸がんの放射線治療で、腸や腟がダメージを受け、腟から便が出るなどの障害が起こる場合にもストーマをつくることがあります。

「20年ほど前までは、肛門から7センチまでの場所にがんがあると、すべてストーマになったのですが、最近では、肛門から2センチでも、病状によっては肛門を残せるようになりました。肛門を残す技術が進み、永久的なストーマは減る一方で、一時的なストーマをつくるケースが増え、ストーマ人口はさほど減っていないと思われます」

一時的にストーマをつくる理由の1つは、縫合不全を予防するため。肛門ぎりぎりのところでがんを切除すると、縫合不全が起こりやすくなります。その部分を細菌の塊ともいえる便が通ると、感染によってさらに傷口がふさがりにくくなるので、いったんストーマをつくって便の出口を確保し、3~6カ月後、傷口がふさがったところで開通させて、肛門で排泄できるようにするのです。

また、切除不能のがんや再発・転移がんの場合でも、がんによる狭窄部分の手前でストーマを作って便を出すようにすれば、普通に食事もできます。がんと共存しながら長く元気で過ごすため、緩和ケアの一環としてストーマをつくることもあるのです。

社会保障制度も上手に利用しよう

お住まいの市区町村の福祉課に「身体障害者手帳(内部障害)」を申請すると、ストーマ装具の助成や、公的交通機関、高速料金、美術館といった公的施設などの利用料金の減額などの援助が受けられます。蓄便袋の場合、1月8858円(市区町村によって多少金額が異なります)の基準額以内なら1割負担ですみます(基準額超過分は自費)。購入金額から自己負担分を差し引いた金額が支給額となり、現金ではなく交付券として支給されますが、自己負担分を減免している自治体もあります。詳しくは福祉事務所でお尋ねください。また、老齢年金を受けていない方は、障害年金の申請をすることができます。国民年金の方は地方自治体の国民年金課、厚生年金の方は社会保険事務所で申請します。

なお、ストーマ保有者(オストメイト)の患者会 「社団法人日本オストミー協会」のホームページには、ストーマ関連の情報、社会保障制度、ストーマ外来のある病院リスト、体験談等が掲載されています。各地に支部があり、東京には東京支部のほか、癌研有明病院の「ガン研療友会」(同協会「癌研支部」)があります。総会、懇談会、温泉旅行等で会員相互が交流し、専門医、専門のナースから装具の情報やケアの方法を聞くことができます。詳細は、ガン研療友会(今岡義雄会長)事務局(電話03-3923-1311 FAX03-3921-0121)に問い合わせてください。

参考文献「社会復帰時のストーマ管理」(武田信子、大矢正敏/JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION VOL16 2007.2)ほか

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