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免疫チェックポイント阻害薬が薬物療法に変革をもたらした! 食道がん、キイトルーダが1次治療に加わる見込み

監修●加藤 健 国立がん研究センター中央病院頭頸部・食道内科長
取材・文●菊池亜希子
発行:2021年6月
更新:2021年6月

  

「30年間の沈黙を破って、今、食道がんの薬物療法は歴史的とも言える進化の途上にあります」と語る加藤健さん

長らく難治とされてきた食道がんに、ようやく光が射してきた。免疫チェックポイント阻害薬が第Ⅲ相試験を突破して、30年ぶりに薬物療法が進化を遂げたのだ。2次治療に承認されて標準治療となったオプジーボ、キイトルーダに加えて、今、1次治療にも大きな進化が起ころうとしている。食道がん治療に訪れている大変革と今後の展望について、国立がん研究センター中央病院頭頸部・食道内科長の加藤健さんに話を聞いた。

食道がん治療に光射す!

食道は、喉と胃をつなぐ25センチほどの器官。食道がんは食道の粘膜から発症し、粘膜内に留まっているものを「早期がん」、粘膜下層を超えて深部にまで及ぶものを「進行がん」と呼ぶ。早期で発見された場合は5年生存率が75%ほどだが、早期にはほとんど症状がないことから、気づいたときには進行しているケースが多く、食道がん全体の5年生存率は約37%と低い。同じ消化管系のがんである胃がんの5年生存率65%、大腸がん70%と比べると、食道がんの難しさは際立っていると言えるだろう(図1)。

「食道がんの薬物療法は過去30年間、ほとんど進展がありませんでした。これまで臨床試験はいくつか試みられてきましたが、第Ⅲ相試験まで進んだことがないほどの惨憺たる結果が続いてきたのです。そんな状況に変化をもたらしたのが免疫チェックポイント阻害薬です。昨年(2020年)2月、薬物療法の2次治療に抗PD-1抗体薬オプジーボ(一般名ニボルマブ)が承認され、現在も開発が続いています。食道がん治療にようやく訪れた歴史的な変革期といっても過言ではないでしょう」と国立がん研究センター中央病院の頭頸部・食道内科長の加藤健さんは語る。

今年初めに行われた「ASCO GI 2021」(消化器がん学会)では、進行・再発食道がんに対する2次治療として既に承認されて標準治療になっているオプジーボの追跡結果が発表された。

第Ⅲ相試験のATTRACTION-3によると、最短観察期間36.04カ月の全生存期間(OS)中央値が、オプジーボ群10.9カ月、化学療法群8.5カ月。PFS(無増悪生存期間)については推定値だが、3年無増悪生存率がオプジーボ群4.3%、化学療法群1.6%とのこと。改めて2次治療としてのオプジーボの有効性が明示されたわけだ。

さらに、オプジーボを追いかけるように昨年8月にはCPS10以上の条件付きで同じく抗PD-1抗体薬のキイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ)も承認されている。

「2次治療でオプジーボ、キイトルーダともに使えるようになりましたが、キイトルーダはPD-L1の発現率が高いCPS10以上という条件があるので、使う前に組織検査をして結果が出るまで2週間近く待たなくてはなりません。そうした事情もあって、実際はオプジーボを使うことがほとんどです。ガイドラインでもオプジーボを推奨しています」

1次治療にも免疫チェックポイント阻害薬が!

ここで、現時点での食道がん薬物療法の標準治療を確認しておこう。

進行・再発で薬物療法の対象となった際の現在の1次治療は、抗がん薬の5-FU(一般名フルオロウラシル)とシスプラチン(商品名シスプラチン/ランダ)の併用療法(CF療法)。その効果が見られなくなった時点で、2次治療のオプジーボ、もしくはキイトルーダに進む。さらにこれら免疫チェックポイント阻害薬が不能、もしくは不耐となった場合はタキサン系抗がん薬を投与する。これが現在の食道がん薬物療法の標準治療だが、ここに近々、さらなる進化が訪れるというのだ。

「昨年末、1次治療として、キイトルーダと化学療法(CF療法)の併用療法が申請されました。審査が順調に進めば、今年の秋ぐらいには承認されるのではないかと期待しています」と加藤さん。その有効性を示したのは、国際共同第Ⅲ相試験である「KEYNOTE-590試験」の結果だ。「KEYNOTE-590試験」に参加した日本人の追跡調査について「日本臨床腫瘍学会2021」で発表されているので触れておこう。

キイトルーダ+化学療法群74人、化学療法群67人の結果は、全生存期間中央値がキイトルーダ+化学療法群17.6カ月 vs. 化学療法群11.7カ月。無増悪生存期間中央値はキイトルーダ+化学療法群6.3カ月 vs. 化学療法群6.0カ月。ORR(全奏効率)は56.8% vs. 38.8%で、すべての項目でキイトルーダ併用療法に軍配が上がった(図2)。

早ければ今年の秋にも、1次治療に免疫チェックポイント阻害薬が登場するだろう。ちなみに、2次治療のキイトルーダ承認の際はCPS10以上が対象だったが、KEYNOTE-590試験ではそうしたバイオマーカーに基づいた対象のみならず、すべての症例においてキイトルーダ併用療法が有意に全生存期間を延長した。

「日本での承認は臨床試験での方法をほぼ踏襲するので、対象に制限を設ける必要がなかった意味は非常に大きいと考えています。今後、承認された暁には、薬物療法を行うことになったらすぐ免疫療法を併用した治療に入れることになるでしょう」と加藤さんは指摘した。

この30年間、分子標的薬を含めて、第Ⅲ相試験に進むことすらなかった食道がん。同じ扁平上皮がんということで、頭頸部がんに使われている抗EGFR抗体アービタックス(一般名セツキシマブ)に期待が寄せられたこともあったが、結果はネガティブだった。そもそも食道がんの1次治療における臨床試験で第Ⅲ相試験まで進んだこと自体、KEYNOTE-590がほぼ初めてだったという。

ちなみに日本人の食道がんの90%以上は扁平上皮がん。扁平上皮がんは、さまざまな遺伝子に傷が入って総合的にがんを引き起こしているタイプ。つまり、ドライバー遺伝子にターゲットを定めてピンポイントで攻撃する分子標的薬の戦略とは相性が合わない面があるのだろう。その点、免疫機構が反応さえしてくれれば全体的にがんを攻撃してくれる免疫チェックポイント阻害薬は、戦略的に食道がんに合っているのかもしれない。

1次治療に3つの選択肢が出てくる可能性も

1次治療については、さらなる可能性を秘めた試験結果も出たようだ。

「1次治療として、オプジーボとヤーボイ(一般名イピリムマブ)の併用療法を試みた第Ⅲ相試験CHECKMATE-648の結果が、つい先日プレスリリースされたところです」と加藤さん。CHECKMATE-648は、現在の標準治療である「化学療法(CF療法)のみ」、そして「オプジーボ+化学療法併用」、さらに「オプジーボ+ヤーボイ併用」を比較する試験だ。

切除不能な進行・転移性食道扁平上皮がんを対象とした試験で、まず、「化学療法のみ」に対して「オプジーボ+化学療法」の優位性が示された。さらに「オプジーボ+ヤーボイ」も「化学療法のみ」に対して全生存期間を有意に延長したのだ。これによって、将来的には1次治療に3つの選択肢が登場することになりそうだ。1つはKEYNOTE-590で証明され、現在承認待ちの「キイトルーダ+化学療法」、そこにCHECKMATE-648の結果によって、新たに「オプジーボ+化学療法」と「オプジーボ+ヤーボイ」が加わるというわけだ。

「キイトルーダ併用とオプジーボ併用は、どちらも抗PD-1抗体の免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用なのでパワーとしても同等と考えられますが、オプジーボ+抗CTLA-4抗体のヤーボイは違う機序を持つ免疫チェックポイント阻害薬同士の併用なので、先の2つとは質が違い、異なる効き方が予想されます。端的に言うと、化学療法が入っていると、すべての人に効果は期待できますが長くは続きません。対して、免疫チェックポイント阻害薬は効く人が限定されるものの、いったん効果を示したら長く続きます。誰にどの治療法を用いるか、その使い分けが将来の課題になってくると思います」

CHECKMATE-648はまだ結果が発表されたばかりだが、食道がんの薬物療法の1次治療に嬉しい光が差し込んでいることは間違いない。

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