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消化器症状の緩和:緩和ケアではガイドラインより臨床現場の知恵がモノを言う! 消化器症状の緩和は原因究明がカギ

監修●余宮きのみ 埼玉県立がんセンター緩和ケア科科長
取材・文●祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2013年4月
更新:2019年11月

  

「臨床での細かい知見の積み重ねが緩和ケアでは重要」と話す
余宮きのみさん

吐き気や嘔吐、便秘、腹部膨満感などの消化器症状は、進行がんの患者さんを苦しめる大きな原因の1つだ。しかし、埼玉県立がんセンター緩和ケア科科長の余宮きのみさんは「原因は複数重なっていることが多いのですが、専門家がそこにきちんと対処すれば、ほとんどはコントロールできます」という。

消化器症状のほとんどは吐き気・嘔吐

埼玉県立がんセンター緩和ケア科科長の余宮きのみさんによると「緩和ケア科への依頼の中で最も多い症状が、痛みに次いで吐き気や嘔吐」だという。

吐き気や嘔吐は、がん患者さんの40~70%に現れる症状。他にも便秘や腹水、腸閉塞など、進行がん患者さんを悩ませる消化器症状は多い。

そこで、2011年には日本緩和医療学会から『がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン』が出版された。

ただ、他のがん治療に関するガイドラインと大きく違うのは、ガイドラインの拠り所となるエビデンス(科学的根拠)が乏しく、エビデンスレベルが低くてもガイドライン作成委員全員が患者さんにとっての利益が大きいと判断した場合は治療が「推奨」されていることだ。

委員に名を連ねる余宮さんは、「緩和ケアは、エビデンスを得にくい分野です。進行がんで苦しんでいる患者さんに無作為化比較試験を行うことはできません。そういう意味では、緩和ケアは症状に寄り添う、ある意味原始的なケアといえ、エビデンスの立証よりも、臨床では細かい知見の積み重ねが大事になります。小さなことでも知っているかいないかで、患者さんの症状緩和は、大きく左右されるのです」と語る。

がん治療やオピオイド鎮痛薬の副作用による消化器症状は他の治療ガイドラインにも詳しく記載されているという理由で除外されている。

今回は緩和医療学会のガイドラインに、余宮さんが臨床現場で患者さんのために積み重ねてきた知見を加えて、消化器症状の緩和に関して話していただいた。

オピオイド鎮痛薬=体内のオピオイド受容体に結合することにより、骨髄と脳への痛みの伝達が遮断され、痛みを抑える

吐き気・嘔吐の4つの原因

■図1 がん患者さんの吐き気の原因
便秘が半数近くを占め、さらに消化管閉塞、腫瘍による消化管の刺激など、消化器の状態が嘔吐の原因となっていた(資料:余宮きよみ氏)

患者さんが吐き気や嘔吐などの消化器症状を訴えた場合、余宮さんが強調するのは

「まず、その症状の原因を考えて、可能ならば原因治療を検討し、平行して薬やケアによる症状緩和を開始すること」だ。

まだ一般には、吐き気や嘔吐の症状には、画一的な制吐薬を使うケースも少なくないという。しかし、一口に吐き気、嘔吐といっても原因はさまざまであるため、注意が必要だ。以前、余宮さんが緩和ケアチームに依頼があった患者さんの中で、悪心嘔吐があった患者さん50人を対象にその原因を調べたことがある(図1)。

それによると、全てのケースでオピオイド鎮痛薬が使われていたが、詳しく調べると便秘が半数近くを占めていた。さらに腸閉塞などの消化管閉塞、腫瘍による消化管の刺激など、消化器の状態が原因である吐き気が大部分を占めていたそうだ。複数の原因が重なっていた患者さんも多い。

■図2 嘔吐の原因となる4つのルート
嘔吐の原因には4つのルートがあり、それぞれのルートから脳の嘔吐中枢が刺激されて吐き気や嘔吐が起こる(『ここが知りたかった緩和ケア』余宮きのみ著、南江堂より改変)

一般的には、吐き気・嘔吐と聞くと、すぐに抗がん薬や放射線などのがん治療、あるいはオピオイド鎮痛薬による副作用を考えがちだが、必ずしもそうとは限らないということを示す結果となった。

余宮さんがまず知っておいてほしいというのが、吐き気や嘔吐が起こるメカニズムだ。余宮さんによると「基本的に嘔吐は、体の防御機構」なのだそうだ。

最終的には、脳の嘔吐中枢が刺激されて吐き気や嘔吐が起こるが、そこには4つの主要ルートがある(図2)。これを余宮さんは、「飲み過ぎ」、「食べ過ぎ」、「乗り物酔い」、また吐くのではないかという不安から来る「予期嘔吐」と表現している。

① 化学受容器引金帯(CTZ)=「飲み過ぎ」

化学受容器引金帯は、毒物やカルシウムイオン、尿毒素など血液中で過剰になった物質を感知して、嘔吐中枢を刺激する脳の受容器。そこからの働きかけにより嘔吐を促すことで、毒物を排除したり体液を補正する。抗がん薬の副作用もこのルートだ。飲み過ぎで吐き気が起こるのも、この受容体が働くからだ。

②末梢性刺激=「食べ過ぎ」

末梢とは、ここでは口から肛門に至る、咽喉や消化管などの消化に関わる臓器のこと。

食べ過ぎで嘔吐するのは、腸が破裂しないための一種の防御反応だ。同じように、がんの増大で圧迫が起こり、腸の内圧が上昇したり、肝転移や腹水によって腸が圧迫された場合に、嘔吐中枢に刺激が伝えられ、嘔吐することで減圧を行う。胃潰瘍のような消化器自体への刺激でも嘔吐中枢が反応する。

③前庭系=「乗り物酔い」

車やブランコに乗って気持ちが悪くなるのは、体の平衡感覚をつかさどる脳の前庭系のバランスがとれなくなるからだ。脳腫瘍でがんが前庭系に浸潤したり、オピオイド鎮痛薬もこのルートに作用する。

④中枢神経系=「予期嘔吐」

■図3 吐き気の随伴症状から原因を知る

考えられる原因
誘発因子 体動との関連 前庭系
食事との関連 消化器系、予期悪心
随伴症状 眠気 代謝性(高カルシウム血症、低ナトリウム血症、腎不全、肝不全)、オピオイド鎮痛薬
発熱 感染症
便秘 消化器系
めまい 前庭系
頭痛 頭蓋内圧亢進
時間帯 頭蓋内圧亢進

吐き気に伴う症状を知ることで、吐き気の原因を探る(『ここが知りたかった緩和ケア』余宮きのみ著、南江堂より改変)

一度、抗がん薬などで嘔吐を催すと、その不安によって大脳皮質から嘔吐中枢に刺激が伝わり、吐き気を催す。心理的な原因なので、安定剤が効果的となる。脳転移による頭蓋内圧の亢進でもこの経路で嘔吐が起こる。

こうした嘔吐への原因経路を知っていれば、あとは画像診断や血液検査などの検査結果、使っている薬物やがん治療の内容、さらに患者さんへの問診によって、嘔吐の原因がしぼられてくる。

問診では、「いつから、どういうきっかけで何時ごろ吐き気に襲われるのか、どんな症状を伴うのか」などが重要になる。

患者さん自身も、体を動かすと吐き気が起こるならば前庭系、食事と関連して起こったり、便秘を伴っていれば消化器系、またこの4つ以外として眠気を伴うなら代謝性、発熱があれば感染症など、ある程度原因を推測できるそうだ(図3)。

その結果、がん治療や薬が原因ならば、減量したり、中止する、あるいは変更するという手段もありうる。

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