体と心をケアする処方箋 4
上手につきあって更年期を快適に! PART-2
むらかみ まり 緑風荘病院産婦人科医師。 産婦人科専門医、麻酔科標榜医。 1988年新潟大学医学部卒。 関連病院等の勤務医を経て2002年より現職。 雑誌、テレビ等での女性の悩みに対する適切なアドバイスが好評。更年期女性への理解も深い。 アクティブバースを提唱し、母乳育児支援ネットワーク幹事としても活躍。 |
村上麻里さん
エストロゲンの低下で起こる多彩な症状
のぼせやうつ状態など複数の症状が出ることも
閉経と前後して訪れる更年期。卵巣から分泌される女性ホルモン、エストロゲンの低下によって、のぼせやほてりなどのホットフラッシュ、頭痛、めまい、肩こり、イライラ、不眠などの多種多様な症状が現れます。「多彩な自覚症状があるのに、検査をしても異常がないのが更年期の不定愁訴の特徴です。家族の問題や人間関係といった社会的、心理的な影響も関係して、うつや自律神経失調症状が強く出るケースもあります」と村上さん。
簡略更年期指数(SMI)をチェックして、複数の症状が出ていたら、更年期の可能性大。「体がエストロゲン不足に慣れてくると、自然に症状が解消することが多いのですが、更年期指数が50以上のときやつらいときは更年期外来、女性専門外来などで相談を。この年代は、がんをはじめ、いろいろな病気にかかりやすい時期。 うつ病、リウマチや膠原病といった自己免疫疾患など、別の病気が隠れていることもありますから、強い症状が一つだけなら、骨や関節なら整形外科、うつ状態なら心療内科や精神科など他科の受診もおすすめします」。
子宮がん治療のための卵巣摘出で更年期症状がひどくなり、離婚の危機に!
子宮がん、卵巣がんの手術や放射線治療で卵巣機能が損なわれたり、乳がん術後のホルモン療法でエストロゲンを抑制したときも、更年期と同様の症状がみられます。
4年前に子宮頸がんの1b期で広汎子宮全摘出術と両卵巣摘出、リンパ節郭清を受けた河村裕美さん(NPO法人「女性特有のガンのサポートグループ オレンジティ」理事長・36歳)は、入院中から更年期症状が出てきたといいます。
「術後1週間で排尿訓練を始めるころから、顔や上半身がポッポとほてり始め、暑くて暑くて。夫に小型の扇風機を買ってきてもらい、ベッドの上で顔に風をあてていました」。退院後は、頭痛や肩の痛みなどの多数の症状が日替わりで出現。「特にイライラはひどく、夫がコーヒーのミルクを買うのを忘れたり、爪切りを出しっ放しにしただけで許せなくなって、離婚寸前まで発展しちゃう(笑)。自分では異常だと思っていないんです。悲劇のヒロインみたいにベッドで泣き伏したり、車で家出したこともありました」。
術後6カ月で担当医に相談し、ホルモン補充療法(HRT)を開始。「プレマリンという錠剤を飲み始めて3、4日で、うそのように症状が消えました」。その後、「HRTは乳がんのリスクを高める」との報告(後述)を知り、いったんHRTを中止したものの、夫に気づかれるほど症状がぶり返し、1カ月で再開。「ただ、最近、肝機能が悪化してきたので、別の方法に切り替えなければならないかもしれません」。
複数の症状がさっぱりとれるHRT
HRTは、なくなったエストロゲンを補い、更年期の不快な症状を改善する治療法です。
「ホットフラッシュ、動悸、肩こりや腟の萎縮など複数の症状をさっぱり消すには非常に効果的。
HRTには、エストロゲン製剤のうちホルモン活性の高いエストラジオールを用います。内服の錠剤と下腹部などに貼り皮膚からホルモンを吸収させる貼付剤があります。
子宮摘出後でなければ、必ずプロゲステロン(黄体ホルモン)を併用します。方法はエストロゲン、プロゲステロンを毎日使用する持続併用法、7日間の休薬期間を入れてエストロゲン21日間にプロゲステロンを後半10~12日間加える周期併用法があります。
「前者は出血をおこしにくいので、閉経後に、後者は生理のある人に使われることが多いです。なお、内服の錠剤の代わりに、下腹部などに貼ってエストロゲンを皮膚から吸収させる方法もあります。この場合は、エストロゲンの錠剤と同じ期間、2~4日に一度、貼り替えながら使います」
HRTのメリットとデメリット
乳がんの発症が1万人につき3人増える!?
HRTは更年期症状をまとめて解消できる半面、リスクも指摘されています。米国国立衛生研究所(NIH)が、50~79歳の閉経後の健康な女性1万6000人を二つのグループに分け、一方にエストロゲンとプロゲステロン併用療法を行い、対照群と比較する臨床テスト(WHI)を実施した結果、5年2カ月後の2002年7月、1万人あたりの乳がんの発症はHRT群が38人で対照群より8人多く、静脈血栓塞栓症はHRT群が34人で18人多かったと発表(図1)。ただ、アメリカの乳がん発症率は日本の3倍、血栓は10~20倍なので、日本女性に置き換えると、乳がんは1万人あたり3人、血栓は2人増える程度とされています。
「この数値をどう判断するか、ですが、満員の広いホールの中で乳がんになる人が何人かいるとすると、HRTを行った場合、それが1人か2人増える、と考えればイメージしやすいのでは?」と村上さん。
なお、大腸がんや大腿骨骨折の発症はHRT群のほうが少なく、メリットもあります。
「5年以下の使用なら、乳がんの発症率は変わらないというデータも出ていますから、つらい時期だけ短期間、最少有効量のHRTの力を借りて乗り切る、という選択もできます。リスクがあると感じる方は、HRT以外の方法(後述)を選べばよいでしょう。更年期で受診するときは、HRTの利用を考えてもよいか、絶対にイヤか、一応考えておくといいですね。HRTを行う場合は自己管理が大切です。乳がんの自己検診、定期的な血液検査、子宮がん検診、マンモグラフィ検査などを受けましょう」。
次の場合は、注意が必要です。「肝機能障害、血栓症、子宮筋腫、子宮内膜症、糖尿病、高血圧、肥満の方は、HRTによって症状が悪化するおそれがあるので、医師と相談を」。
[上半身が暑く、手足が冷える“冷えのぼせ”には――]
(1)汗を吸収するカットソーなど
(2)ほてったときに脱ぎ着しやすい前開きのジャケット
(3)温度調節に便利な前開きベストorカーディガン
(4)手袋で手の冷え防止
(5)ロングスカート+ハイソックス+ブーツで空気の層をつくる
(6)足の裏やかかとが冷えるときには、ソックスの上からホットカイロを貼って
※就寝時の冷えには湯たんぽを電子レンジで温めるタイプも