ストーマ・ケアのコツをおさえて、元気に、快適に!
副看護部長の
青木和惠さん
あおき かずえ
静岡県立静岡がんセンター副看護部長。
国立がん研究センター中央病院でがん看護とWOC看護の経験を積み、2002年より現職。
研究領域は、褥瘡・創傷ケア、ストーマ・瘻孔ケア。
著書に『やさしいストーマケア』(桐書房)など。
オストメイトの体験談
落ち込んで受診したストーマ外来で、適切なケアを覚え、趣味も再開
神奈川県に住む園田洋子さん(仮名・47歳)は、4年前に直腸がんと診断され、手術を受けました。
肛門から2センチのところにがんがあり、再発させないためにストーマ(人工肛門)をつくると医師に言われていたものの、実際におなかの左下にストーマ装具(便をためる袋)をつけて生活しなければならない状態になると、心理的にも物理的にもつらく、1年間ほどは落ち込んでいたと言います。
「最初は慣れないのでストーマ装具の交換もひと仕事。トイレでは、装具をおなかにつけたまま、狭いところで袋の下の口を開け、無理な姿勢で便を便器に捨てなければならず、便器や衣類を汚すこともしばしばでした。いつも便がもれているのではないか、におうのではないかと心配で、ゆっくり外出もできません。元の肛門は縫って閉じてあるので、痛いような違和感があります。夫にも子供にも見せられず、“一生こんな体でいるなら、死んでもよいから肛門を残してもらえばよかった”と思う日もありました」
園田さんが手術を受けた病院では、簡単な説明を受けただけでしたが、大規模病院には「ストーマ外来」が設けられているのを知り、早速相談。自分の状態に合う装具を選び、装着法のコツを覚えれば、便やにおいのもれもなく、快適な生活を送れることがわかったそうです。
腸の中にぬるま湯を注いで、強制的に便を排出させる「洗腸」ができるようになると、さらに気持ちがラクになったとか。
「洗腸すると1、2日は便が出てこないので、もれやにおいの心配もなく、自由に外出できるようになりました」
ストーマ装具をつけたまま自らのヌード写真を撮った女性カメラマンや、結婚・出産した女性がいることも知り、「暗いトンネルから抜けられた」と振り返ります。
「ストーマがあっても明るく生きられるんですね。最近では、夫や子どもにも“ストーマはお母さんのもう1つのおへそよ”と見せて、装具の着脱を手伝ってもらうこともあります。趣味の踊りも再開し、生きている喜びを実感しています」
「ストーマ」は「からだにあいた穴」
永久的ストーマは減り、一時的ストーマが増加
[結腸ストーマ]
さて、「ストーマ」とはどのようなものなのでしょうか。
この分野の先がけとして17年前から*ET(エンテロストマルセラピスト)、*WOCナースの資格をもち、ストーマ保有者=オストメイトの方にアドバイスをしている静岡がんセンター副看護部長の青木和惠さんは、次のように説明します。
「ストーマとは、“からだにあいた穴”という意味で、便が出る人工肛門をはじめ、胆汁、膵液の出口などの消化器系ストーマ、尿が出てくる尿路系ストーマなどがあります」
ここでは、人工肛門に絞って、ストーマと呼ぶことにします
現在、ストーマ保有者(オストメイト)の数は、15万人とも30万人ともいわれています。
「直腸がんのほか、日本では数少ない潰瘍性大腸炎やクローン病などで肛門を切除した場合もストーマの対象になります」(青木さん・以下同)
子宮がんや直腸がんの放射線治療で、腸や腟がダメージを受け、腟から便が出るなどの障害が起こる場合にもストーマをつくることがあります。
「20年ほど前までは、肛門から7センチまでの場所にがんがあると、すべてストーマになったのですが、最近では、肛門から2センチでも、病状によっては肛門を残せるようになりました。肛門を残す技術が進み、永久的なストーマは減る一方で、一時的なストーマをつくるケースが増え、ストーマ人口はさほど減っていないと思われます」
一時的にストーマをつくる理由の1つは、縫合不全を予防するため。肛門ぎりぎりのところでがんを切除すると、縫合不全が起こりやすくなります。その部分を細菌の塊ともいえる便が通ると、感染によってさらに傷口がふさがりにくくなるので、いったんストーマをつくって便の出口を確保し、3~6カ月後、傷口がふさがったところで開通させて、肛門で排泄できるようにするのです。
また、切除不能のがんや再発・転移がんの場合でも、がんによる狭窄部分の手前でストーマを作って便を出すようにすれば、普通に食事もできます。がんと共存しながら長く元気で過ごすため、緩和ケアの一環としてストーマをつくることもあるのです。
*ET=ストーマ療法士
*WOC=創傷・オストミー・失禁(WOC)認定看護師
腸の粘膜でつくる便の排泄口
丸型、楕円形、山型、平坦型など形はいろいろ
ストーマ(人工肛門)は、腸の内側の粘膜を腹部の表面に出して皮膚と縫合し、便の出口をつくるもので、普通は濃い赤色をしています。直径約2センチ、高さ約1センチほどの山型に盛り上がっている円形のものが一般的ですが、腫瘍の位置や状態、おなかや皮膚などの条件によって、丸型、楕円形、平坦なもの、陥没したものなど形はさまざま。
「ストーマには、結腸に出口をつくる結腸ストーマ(コロストミー)と、小腸から結腸への移行部に出口をつくる回腸ストーマ(イレオストミー)があります。縫合不全を未然に防ぐため予防的につくるのは、回腸ストーマが多いようです」
結腸ストーマから出る便は、水分が吸収されるので固形便になっていることが多く、回腸ストーマから出る便は、水分が多い水様便です。
「結腸ストーマは、左側腹部で腹筋のあるところ、おへその斜め左下3センチくらいのところにつくるのが普通です。ストーマ装具(便を受ける袋)をつけたときに、便がもれないようにするために、おなかが平らなところ、シワがないところ、かがんだときに折れ曲がらないところなど、それぞれの体型や皮膚の状態を見極めて、位置を決めなくてはなりません」
ストーマをつくる可能性があるときは、手術前に患者さんをまじえて位置決めをするのが今や常識だそう。
「ストーマを作り直すには再手術をしなければならないので、できたものの状態に合わせて装具を選び、上手な装着法をマスターしていきましょう。最近では、どんな状態のおなかでも対応できるようにいろいろな種類のストーマ装具が開発されています」
「便のもれ」「ニオイ」「皮膚のトラブル」を防ぐ
ストーマ装具の選び方と装着のコツ
ストーマ装具を選ぶとき、装着するときは、「便がもれない」「においがもれない」「皮膚を荒らさない」「装着感がラク」の4条件を満たすことが大切です。
「便には皮膚を荒らす成分が含まれているので、装具からもれると汚れたりにおいがしたりするだけでなく、皮膚にもトラブルが起こります。20年ほど前の装具は、両面テープの片方に袋がついているようなもので、皮膚が荒れるから便がもれ、もれるからさらに荒れて、もれも荒れもニオイも増していくという悪循環。ストーマ保有者は外出もできず、職も友人も失い、家の中で廃人のような生活を余儀なくされていました」
それよりさらに前には袋すらなく、おむつやおわんなどで受けていたこともあったそう。
「近年、“皮膚保護材”が開発されたおかげで、オストメイトの方たちが普通の生活を送れるようになりました。皮膚保護材は粘着力があって、皮膚に袋をぴったり貼りつけることができ、しかも皮膚を保護してくれる、まさに革命的な存在なのです」
現在市販されているストーマ装具は、おなかの皮膚に貼る直径10センチほどの粘着剤(皮膚保護材)つきの面板と、便を受けてためる幅15センチ、長さ25センチほどの防水・防臭性にすぐれたポリ袋でできています。自分のストーマの形に合わせて面板の中心にはさみで穴をあけ(最初から穴があいているものもある)、ストーマの周りの皮膚に粘着させると、ストーマから排出された便が自然に袋の中に落ちてたまり、もれない仕組みになっています。
面板と袋が一体のワンピースタイプ、面板から袋を取り外せるツーピースタイプがあります。ワンピースタイプは、価格が安価で、面板がソフトなものが多く、ツーピースタイプは、面板をおなかに貼りつけたまま、便をためる袋だけを交換でき、別売りのキャップや小さな袋をつけて、温泉で入浴することも可能です。どちらのタイプも、面板が固いもの、やわらかいもの、平らなもの、凸型に出っ張っているもの、袋の中身が見えないものなど、多種多様。
「どの装具を選ぶかは、おなかの肉づきや皮膚のシワ、体の動きなど、いろいろな条件によって変わってきます。自分のからだに合わない装具を使っていることが、便やにおいのもれ、皮膚の荒れを招く最大の原因です。装着の基本は、ストーマの周りの皮膚を平らにして、面板を貼り付けること。シワやたるみがあると、そこから便が沁み出して、もれやにおい、肌荒れの元になるのです」
たとえば、おなかにシワがある年配の方なら、凸型のややハードな面板がついている装具を選び、凸面でシワの部分を押すようにして伸ばし、貼り付けます。逆に、おなかがパンパンに出ているような方は、ハードな面板ではおなかがはじき返して、ストーマ装具がはがれたり、はずれたりしやすくなるので、柔軟性のあるソフトタイプの面板を選びます。
「手術後はやせていても、退院後に太り、当初の装具ではフィットしなくなることがあります。また、手術後むくみがとれてくると、ストーマ自体が小さくなることもありますから、ときどき、面板の穴の大きさをチェックしてみましょう」