発見しにくく、効果の高い治療法がなかった病気に新たな可能性 期待の新薬・治療法が次々に登場!成人T細胞白血病・リンパ腫の治療はどう変わるか
血液がんの1つ、成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)は年間の発症数は少ないものの、治療が難しく、死亡率も高い病気です。それでも、病気のタイプや患者さんの年齢に合わせた治療法の開発により成績が向上し、有望な新薬も登場しています。
ウイルス感染により発症
HTLV-1というウイルスが原因で発症するのが成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL。本稿では以下、ATLとする)です。
国立がん研究センター東病院血液腫瘍科科長の塚崎邦弘さんによれば、西南日本沿岸部に感染者が多いこのウイルスは、感染すると血液中の白血球の1種であるT細胞に入り込み、さらにはT細胞の遺伝子の中にまで侵入。その後、いくつかの遺伝子異常を積み重ね、数十年の期間を経てATLが発症すると考えられています。かつてATLは、鹿児島、長崎など九州・沖縄に特有の“風土病”といわれていましたが、今は人口の流動化によって全国に、とくに東京など大都市圏にも広がっています。
HTLV-1の主な感染経路は母子感染で、乳児期に母乳を介して感染するケースです。ほかに性交渉による感染や、輸血による感染がありますが、1986年以降、献血された血液の検査が行われるようになってからは輸血による新たな感染はなくなっています。
HTLV-1感染者が全国に拡散している実態を受けて、母乳による母子感染を防ぐため全妊婦を対象に感染の有無を調べる全国一律の抗体検査が2011年度から始まるなど、対策が講じられるようになっています。
HTLV-1感染者は全国に100万人いますが、すべての人がATLを発症するわけではありません。というより発症するのはごくわずかで、そのうちの数%といわれています。
それでも、白血病の中でも最も治りにくいといわれるのがATLであり、毎年国内で約千人が発症し、発症後数カ月で亡くなる人も少なくありません。また、潜伏期間が数10年と長いため、主に母乳による感染後に高齢になってから発症するケースが多いのも特徴です。
高悪性度で怖い3つの症状
ATLは4つの病型に分類することができ、病型によってあらわれる症状は違うし、治療法も違ってきます(図1)。
塚崎さんはこう語ります。
「悪性度が高いほうから急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型に分けられ、慢性型の中には予後不良因子があるかないかの2つのグループがあり、そこで治療方針を区切っています。
急性型とリンパ腫型、予後不良因子をもつ慢性型は高悪性度のアグレッシブATLと呼ばれ、命にかかわるような臓器浸潤や高・乳酸脱水素酵素(LDH)血症、高カルシウム血症などを起こします。それに対して、くすぶり型と予後不良因子をもたない慢性型は、病変が現れるのは皮膚と末梢血だけなので悪性度が低く、インドレントATLと呼ばれています」(図2、3)
インドレントATLのうち、くすぶり型で現れやすいのは、赤くなったり、瘤のように盛り上がったりする皮膚の症状。このため皮膚科を受診して病気が見つかることもあります。
また、慢性型の予後不良因子とは、尿素窒素(BUN)の上昇、乳酸脱水素酵素の上昇、低アルブミン値のいずれかがある場合をいいます。
「一方、アグレッシブATLの場合、リンパ節が腫れるなどの症状を訴えて病気が見つかることもありますが(図4)、初期には症状が現れないことが多く、早期発見が難しい。ですが、病気が進行すると、次のような大きく3つの症状が現れるので、注意してほしい」と塚崎さん。
「1つは臓器浸潤で、がんが肝臓に浸潤すれば黄疸が出たり、腸に浸潤すれば下痢を起こします。また、T細胞免疫不全による日和見感染症*を起こしやすくなり、ウイルス性の肺炎、真菌(カビ)感染症などが高い頻度でみられます。さらにATLでは、がん細胞から骨を溶かすホルモンが出るため、病気の進行に伴って高カルシウム血症を起こしやすくなります」(図5)
アグレッシブATLとインドレントATLの割合は、前者が80%前後で、後者が20%前後。そして、「インドレントATLは途中でアグレッシブATLに移行することが多い」と塚崎さんは指摘します。
*日和見感染症=通常の免疫力があればかからない感染力の弱い感染症にかかること