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ストーマの専門家に相談を

化学療法中のストーマ対策は ストーマ周囲のスキンケアから

監修●工藤礼子 国立がん研究センター中央病院看護部皮膚・排泄ケア認定看護師
取材・文●星野美穂
発行:2016年5月
更新:2019年4月

  

「適切なストーマケアで化学療法を達成していただきたい」と話す工藤礼子さん

大腸がん治療では、術前、あるいは術後に抗がん薬や分子標的薬による化学療法を実施することが一般的な治療法として普及してきている。ただし、化学療法を行うと、皮膚障害、下痢、末梢神経障害など多様な副作用が現れることも少なくなく、ストーマ保有者には大きな問題となる。一方、抗がん薬治療を受けた患者の排泄物による曝露対策も、患者とその家族にとって重要な問題である。

化学療法で 皮膚障害が起こりやすくなる理由

ストーマの周りの皮膚は、常に刺激にさらされているため、トラブルを起こしやすい。国立がん研究センター中央病院ストーマ外来で患者の相談に乗る皮膚・排泄ケア認定看護師の工藤礼子さんは、「化学療法中は、とくに皮膚が弱くなるため、注意が必要です」と話す。

殺細胞性の抗がん薬は、皮膚の新陳代謝を行う細胞(基底細胞)にダメージを与える(表1)。新陳代謝が順調に機能しなくなるため、皮膚は非常に脆くなってしまう。また、皮脂腺自体もダメージを受けるために皮脂の分泌量も低下し、皮膚表面は非常に乾燥した状態となる。

表1 皮膚障害を起こしやすい抗がん薬
表2 下痢を起こしやすい抗がん薬

一方、大腸がん治療で用いる分子標的薬には、がん細胞がもつ特定の分子を標的にしてその働きを抑える薬がある。この「特定の分子(EGFR:上皮成長因子受容体)」は皮膚にも存在するため、薬の作用が皮膚にも及び、皮膚障害が出現する。さらに、治療薬には副作用により下痢を起こしやすいものもある(表2)。

「下痢になると便が漏れやすくなり、それが皮膚を刺激して皮膚障害を起こします」

化学療法中の皮膚症状が重度の場合や、ストーマ装具がうまく貼れない事態になれば、抗がん薬の減量や休薬を余儀なくされることもある。ストーマ周囲の皮膚をケアし、良い状態を保つことは、抗がん薬治療を達成するために大切なことである。

日常から心がけたい適切な「基本的スキンケア」

化学療法中のストーマケアについて語る前に、工藤さんは「化学療法の実施前に、適切な『基本的スキンケア』が行われ、漏れない装具が選択されていることが大前提となります」と前置きした。

まず、化学療法中に皮膚障害を起こさないための「基本的スキンケア」のポイントから紹介しよう。

●ストーマ周囲の洗い方

洗浄剤は、肌に優しい弱酸性で低刺激のもので、できれば保湿剤入りのものがお勧めだ(図3)。クリーム状の洗浄剤は、清潔な手で優しくマッサージしながら汚れを落とし、濡れた不織布で拭き取る。石けんは泡立てて、手で優しく洗うことが大切。「ゴシゴシこすらないときれいになった気がしない」という方もいるが、皮膚を傷めるため、止めたほうがよい。洗い終わったら、柔らかいタオルなどでポンポンと軽く押さえるように水分を取る。

図3 洗浄剤

左)ベーテルF(越屋メディカル)。洗浄液が泡状で出てくる。保湿剤入りで、無香料・無着色・弱酸性。右)リモイスクレンズ(アルケア)。クリーム状なので、皮膚にそのままのばして拭き取ることができる。保湿剤入り。どちらも、水が使えない場所でも使用できるため、洗浄場所を選ばず便利である
図4 剥離剤

左)ブラバ(coloplast)。スプレー式。右)Cavilon(3M)。押さずに傾けるだけの滴下式。どちらもアルコールフリー

●保湿剤の使い方

皮膚が乾燥しやすい、あるいは赤くもないのにかゆみがあるような場合には、保湿剤を使うが、面板を貼る範囲に、安易に使うと装具が剥がれてしまうことがあるため、保湿剤の種類を選ぶことが必要である。面板を貼る範囲に保湿剤を使う場合には、少量だけにして、十分に乾燥させる必要がある。

●剥離剤を使う

面板を剥がすときに剥離剤を使うと、皮膚に負担をかけることなく剥がせる。皮膚の保護には、物理的刺激をできるだけ緩和させることが重要である。とくに、抗がん薬投与期間中は、剥離剤の使用を勧める。

剥離剤はアルコールが入っていないものを選ぶ。3Mから発売されているCavilonは、工藤さんに「画期的」と言わせる製品だ(図4)。ボトルを傾けるだけで剥離剤を垂らすことができ、面板の下にスルスルと広がってスムーズに面板を剥がせる。

剥離剤には、ほかにもスプレー式やアルミ包装された手拭きのような剥離剤もある。スプレーを押したり、包装を開けたりが無理なくできるなら、それらでもよい。

ストーマの皮膚保護材の様子から 排泄物の漏れを確認する

ストーマ装具には、一体型の「単品系」と、ストーマ袋とそれを身体に固定するための面板が分かれている「二品系」がある(図5)。また、面板も軟らかいもの、硬いもの、平面状のもの、凸型のものなど様々な形状のものがある。

図5 様々なストーマ装具
図6 皮膚保護材の溶け・ふやけ

「ストーマの大きさや皮膚の状態に合っていてきちんと密着する、その患者さんに適した装具が選択できているかが非常に重要なのです。また、ストーマ装具をきちんと操作できているか、排泄量に適した交換時期が設定されているかも、漏れを防止する大切なポイントです」

さらに面板には、皮膚保護材が付いている。これは、皮膚を保護する成分で作られ、排泄物や分泌物などの皮膚への接触を防止し、皮膚の生理機能を保つものだが、様々な特徴をもつ製品がある。

皮膚保護材は、交換時にはストーマから分泌される分泌物や排泄物によりふやけたり溶けたりしているが、1cm以上溶けていたら、「排泄物が浸透していると考え、より適切な装具や交換間隔の短縮を検討したほうがよいでしょう」と工藤さんはアドバイスする(図6)。

ストーマから排泄物が頻繁に漏れていたり、またこれまでに漏れた経験がある人、また、これまで1度もストーマ外来を受診したことがない人、さらに化学療法を始めることになった人は、現状の装具が最も適したものかどうか、ストーマケアの専門家(後述)に判断してもらうのがよいという。

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