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まずは、「人と話す」ことが大切。それが適応障害やうつを予防する
効果的ながん治療は「心のケア」から

監修:佐伯俊成 広島大学病院総合診療科准教授
取材・文:常蔭純一
発行:2010年5月
更新:2013年7月

  

佐伯俊成さん 広島大学病院
総合診療科准教授の
佐伯俊成さん

がんは、身体的に病気になるだけではない。不安や恐怖なども抱く「心の病気」としての面もある。
この心の状態が悪化すると、適応障害やうつ病などを引き起こし、QOLを著しく低下させ、治療効果も下がる。
これにどう対応したらいいのだろうか。

がん患者の2、3割に心の危機が

[がんと告げられたときの心の反応]

第1相 : 初期反応期(1週以内)
・ 不信、否認
・「頭が真っ白になったような」
第2相 : 苦悩期(1~2週)
・ 不安、抑うつ、不眠、食欲低下、集中力低下
・ 同じことを繰り返し尋ねたりする
第3相 : 適応期(2週以後1カ月~ときに3カ月)
・ 現実的な判断
・ 新しい事態に順応
がんの進行度(病期や予後)と心理的な回復に要する時間は必ずしも相関しない!

がんは身体的な病気であると同時に、心の病気としての側面も併せ持っている。

「がんであることがわかると、患者さんの心理には例外なく、不安や恐れをはじめとして、絶望、怒り、不信などさまざまな反応が現われます。それが患者さんのQОL(生活の質)を低下させ、さらに深刻な適応障害やうつ病に発展することもある。そのことを考えると、がんは一種の心の病気であるともいえるでしょうね」

と、語るのはがん患者を対象に精神面でのサポートに取り組んでいる、日本ではまだ数少ない精神腫瘍科医の広島大学病院総合診療科准教授の佐伯俊成さんである。

佐伯さんによると、外科手術などの初期治療が終了した時点で多くの患者が精神面での安定を取り戻す。しかし、なかにはその後も心のバランスが失われた状態が続くケースも少なくないという。

「軽度の適応障害、うつ状態に陥る患者さんは全体の2、3割。それがさらに悪化して、重いうつ病になる人も5、6パーセントいます。このような事態を回避するためには患者さんの気持ちを落ち着かせ、希望を取り戻させることを目的とした心のケアが初期段階から必要でしょうね」

[「うつ病」と「ゆううつ」は違う!]

うつ病 ゆううつ
うつ気分 強い・ときに妄想も 弱い・妄想傾向なし
自殺 危険性あり ごくまれ
日常生活の支障 大変あり あまりない
周囲からの影響 良いことがあっても変わらない 慰めると良くなりやすい
対人関係 人と接したくない 頼りたがる
仕事・趣味 やる気が起きない・むしろ逆効果 やっているほうが気がまぎれる
うつのきっかけ はっきりしないこともある はっきりしている
周囲からの理解 理解できないこともある 十分理解できる
持続時間 長く続く(3カ月~6カ月) 時間とともに忘れる
抗うつ薬の効き目 よく効く 効かない(副作用ばかり出る)

もちろん心のケアの効用はうつ病や適応障害の予防だけにとどまらない。精神面でのストレスが取り除かれることにより、身体的な苦痛や、抗がん剤による副作用の軽減化につながることも少なくない。

「残念ながら心のケアががんの症状改善につながるという報告は、今のところ見当たりません。しかし、心を健やかに保つことで痛みの緩和など患者さんのQОLは確実に向上し、それが闘病への意欲にもつながっていきます。そう考えると、厳しいがん治療に向かううえで心の側面での対策が、きわめて重要な意味を持つことは間違いありません」

佐伯さんは、こうした心のケアを大きく2段階に区分して行っている。初期段階ではコミュニケーションを中心としたケアで対応し、適応障害やうつ病の兆候が現われると、そこに薬物による治療も加えていくのだ。

では実際にどのようなケアが行われ、患者はそれにどう対応すればいいのだろうか。

心のケアの第1歩は「話すこと」

すでに述べたように、がんの告知が行われた時点で患者は例外なく不安や絶望に苛まれ、ナーバスな精神状態に追い込まれる。その結果、QОLが低下し、心だけでなく身体の状態が悪化して日常生活に支障が出てくるケースは少なくない。したがって、がんの治療には、手術や化学療法などの治療だけでなく、そうした心の状態を緩和するケアが必要となる。

心の苦痛を取り除くことによってQOLを高め、意欲をもってがん治療に臨むことができる。

この心の平静を取り戻すうえでの基本となるのが、コミュニケーションによるケアだ。

「人間は誰でも自分を理解してもらいたいと願っています。孤独感に見舞われているがん患者さんの場合はなおさらです。自らが置かれている状態、境遇を人に理解してもらうことで、自分は1人ではない、自分には味方がいる、と強い気持ちを持つことができます。そうして人と話すことで、適応障害やうつ病を予防することもできるのです」

逆に人と話す機会が少なく、内にこもっているとストレスが増大し、心のバランスの乱れもさらに増幅していく。

このことは見方を変えれば、患者に相対する医師、看護師にとっては、患者の話を「聴く」能力が求められるということでもある。

医師・患者双方でよりよい関係を築く

「一般的に女性は『話し言葉』が得意で、男性は『書き言葉』に重点を置く傾向があります。女性のがん患者が男性の主治医になかなかわかってもらえないと悩むことが多いのも、1つにはそれが原因になっています」

このように医師との関係が良好に保てなくなると、外部との関係を遮断し、内にこもってしまい、うつ状態が進行するケースも少なくないという。

そこで、このような事態を回避するために、患者にとって最も大切な主治医との関係を良好なものにする必要がある。

「主治医に診察を受ける前に、その日に聞きたいこと、話したいことをメモしておき、それを手渡したうえで話をすればいい。そのことで医師は患者さんの状況をよりよく理解し、互いのコミュニケーションもよりスムーズなものになるでしょう」

さらにもう1つ、医師とは別に、自分の話を聴いてくれる人を見つけることも大切だ。

「家族でも友人でもいい。説教やアドバイスなどせずに、ただ話を聞き、自分を受け入れてくれる誰かを見つけたいものです。がん治療を続けていると、何度となく苦境が訪れます。そんなときに心を打ち明けられる人がいればどれだけ心強いことかしれません」

とくに「話し言葉」が苦手な男性患者は、強くそのことに留意すべきだという。

[がん体験者の心がまえ]

  • 主治医は自分のよき相談相手くらいに心得る
  • 病気に対する心配を信頼すべき人に打ち明ける
  • 自分の悪い行いががんをもたらしたわけではない
  • がんと最後まで闘い続ける必要はない
  • いつも前向きに考えられなくても決しておかしくない
  • これまでに使ってきた対処方法を行う
  • 以前助けになった仲間にまたお世話になる

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