「がんの倦怠感」座談会
「倦怠感」からの解放は、がんや治療に伴う症状であることを、知ることから始まります

出席者
蘆野吉和(十和田市立中央病院院長)
岡山慶子(特定非営利活動法人キャンサーリボンズ副理事長)
田中登美(大阪府立大学看護学部療養支援看護学講師)
中村清吾(聖路加国際病院ブレストセンター長・乳腺外科部長)
畠 清彦(癌研有明病院化学療法科・血液腫瘍科部長)
東口髙志(藤田保健衛生大学医学部外科・緩和医療学講座教授)
撮影:板橋雄一
発行:2009年5月
更新:2013年7月

  
畠 清彦さん

はたけ きよひこ
2000年癌研究会附属病院化学療法科副部長、2001年同部長、癌化学療法センター臨床部部長、外来化学療法センター長、2005年癌研有明病院移転、新薬開発臨床センター長。現在、文部科学省がん特定領域主任研究者。厚生労働省研究補助金外来化学療法に関する安全管理の班長。日本臨床腫瘍学会理事、広報副委員長、ガイドライン委員長、教育委員

岡山慶子さん

おかやま けいこ
朝日エルグループ代表。共立女子短期大学非常勤講師。日本社会心理学会会員、産業カウンセラー。NPO法人キャンサーリボンズ副理事長、NPO法人乳房健康研究会理事、NPO法人仕事と子育てカウンセリングセンター理事、日本持続発展教育フォーラム理事。サスティナブルな社会の実現の中で医療の果たす役割に深く関心を寄せている

中村清吾さん

なかむら せいご
1982年千葉大学医学部卒業。同年より聖路加国際病院外科。1997年MDアンダーソンがんセンター他にて研修。現在、聖路加国際病院ブレストセンター長、乳腺外科部長。聖路加看護大学臨床教授兼務。日本乳癌学会乳腺専門医。同学会理事。日本乳癌情報ネットワーク代表理事

蘆野吉和さん

あしの よしかず
東北大学医学部卒業。2005年東北大学医学部艮陵同窓会高橋賞受賞。2005年十和田市立中央病院院長就任。日本緩和医療学会理事、日本ホスピス在宅ケア研究会理事、日本在宅医療学会理事、日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会評議員、日本静脈経腸栄養学会評議員、在宅医療推進会議委員、死の臨床研究会世話人


東口髙志さん

ひがしぐち たかし
1981年三重大学医学部卒業。外科学、代謝・栄養学専攻。1987年大学院博士課程修了。1990年米国シンシナティ大学に勤務。帰国後、鈴鹿中央総合病院外科医長、尾鷲総合病院副院長を歴任。2003年より現職。役職は日本緩和医療学会、日本静脈経腸栄養学会、日本外科代謝栄養学会の理事など

田中登美さん

たなか とみ
約14年半の臨床看護経験を生かし、大阪府立看護大学大学院へ進学。修了後、国立病院機構大阪医療センターにおいて「がん看護専門看護師」としての活動を開始し、2003年11月に日本看護協会より認定を受ける。治療期にある患者・家族への看護、とくにがん化学療法看護・緩和ケアを専門としている

病める、えらい、せこい……表す言葉もさまざまな倦怠感

岡山 NPO法人キャンサーリボンズは「がん患者さんの治療と生活をつなぐ」ことを目指して、昨年発足しました。この目的のために様々なテーマに取り込んでいますが、その1つに「がん倦怠感プロジェクト」があります。がんやがん治療に伴う「倦怠感」は、治療やケアが遅れがちで、がん治療の継続を困難にする原因にもなりえます。また、患者さんが我慢してしまうことも問題です。もう少し積極的にがんの症状ととらえ、「できること」を考えてもいいのではないかと思います。
そこで、プロジェクトとしてはまず、ワーキンググループの先生方に倦怠感治療の現状などについて話し合っていただき、倦怠感をがん治療の中に位置づけ、組み込んでいければ、と考えています。

東口 倦怠感は患者さんの多くが訴える症状ですが、訴える言葉も何を意味するかもまちまちです。
そのため、患者さんが感じているものと医療者の受け止め方には乖離があり、それをまず埋める必要があります。そこで、倦怠感の表現を洗い出すところから始めさせていただきます。ぼくは三重県人で倦怠感のことを「かいだるい」と言いますが、おわかりになりますか?

一同 わかりませんねえ……。

 私の場合、故郷の福井県小浜市では「だるい」でしたが、研修で福井に行ったとき、骨髄腫の方の「腰が病める」という言葉に驚きました。
これは、農業者の方がいっぱい働いたあと、よっこらしょと背伸びをしたいような感じだそうです。
主訴に腰痛と書こうとしたら、指導医に「患者さんの言葉で書け」といわれて、とまどいました。

中村 ぼくは「倦怠感」「だるい」「疲れる」といったところです。

田中 大阪では「だるい」「しんどい」「けだるい」……。「しんどい」がいちばん多いですね。

東口 「えらい」もいいますね。

田中 徳島では、「せこい」といいますね。

一同 えーっ、わからないなあ。

東口 患者さんに、「ひきつる」と表現する方がいます。「倦怠感?」と聞くと、「そう」という。 言葉を知っておくと、患者さんとのコミュニケーションもとりやすいのではないでしょうか。

「がんだから」「副作用だから」で見失ってしまうものもある

中村 症状もかなりあいまいなので、要注意ですね。不眠や食欲不振のようにカウント可能なものもあれば、外に出るのが億劫になったとか、日常の行動レベルが下がっているけれど、カウントしにくいものも多い。

東口 顔の表情で症状の程度を表す「フェイス・スケール」を使っていますが、いつも倦怠感がきつくて5~6点とあまりよくない評価の方が、突然2点と改善したりすることがあります。なぜよくなったのかと思ったら、よく寝たとか、お孫さんが来てくれたという。「やる気が出ない」「気力がない」という方も、根本には倦怠感がありそうです。

中村 倦怠感はがんが進行したために起こるものと、抗がん剤の副作用で起こるものと大きく2つあります。けれども、病気の進行が家庭や仕事に影響することにストレスを感じ、それが不眠や食欲不振につながり、倦怠感を引き起こしていることもあると思います。ぼくたちはつい「がんだから」「副作用だから」という理由で、「倦怠感があって当然」と考えますが、そのために背景にある精神的、社会的原因を見失っていることがあると思います。まずは、患者さんの話を聞いて、倦怠感の背景を知ることが大切だと思います。

 同感です。私たちの施設(癌研有明病院)はがんの専門病院ですが、初診でがんからくる症状もなく、治療も受けていないのに全身倦怠感を訴える方がいます。もう1つ、抗がん剤の副作用については機序(仕組み)もだいぶわかり、予防も可能になっています。 しかし、最近の分子標的薬の中には、甲状腺機能低下症や神経障害がだんだん出てくるものもあります。つまり、科学で原因がわかるものは突き止め、精神的な要因はそれをサポートするシステムが必要です。
一方、日本の平均診察時間は非常に短く、癌研でも平均17.9分。これで全人的サポートが可能か、という問題もあります。

東口 精神的なものが大きく背景にありそうだ、ということですね。田中さん、看護師の立場からいかがですか。

田中 治療がイメージと違った、こんなはずじゃなかった、という気持ちから倦怠感を感じる患者さんもいます。仕事をもつ人の場合は治療が長引くと有給休暇が取れなくなったり……など、治療を続ける困難が増えてきます。
治療によって起こってくる身体的なダメージだけではなく、患者さんの生活状況に変化が起こり、そのことに対応できなくなったりして「しんどい」「だるい」「希望がもてない」といった表現になることもあるようです。

薬剤師、栄養士などの医療スタッフにも気軽に相談を

蘆野 がんが進行すると、倦怠感はほとんどの人に出ます。それに少しでも対応できれば、患者さんは多少納得できると感じています。
私の場合はステロイド剤も使いますが、これで倦怠感はかなり改善します。長く使うと効かなくなるので、それもお伝えしますが、よくなる手段があるということ自体が倦怠感を改善するようです。
あと、患者さんの状態を医師と違う視点で見る人も必要です。今、がん治療では看護師さんも医師と一緒になって抗がん剤治療を暇なくやっています。全員が「治療役」になり、患者さんの訴えを聞く「聞き役」がいなくなっている気がするんです。しかも、患者さんは意外と医療者に「だるい」ところを見せません。診察室の前まではへろへろだったのに、呼ばれると急にしゃんとしたり……。もう1つ、医師は治療のときに、その後の経過まである程度話をしますが、患者さんには次から次へと新しい情報、悪い情報も入ってくる。何か変わったことがあると、うつや不安状態になり、倦怠感がひどくなるのではないでしょうか。

東口 最近は薬剤師さん、栄養士さんなど、いろいろな医療スタッフが治療にかかわっているので、患者さんは気軽に相談してほしいですね。キャンサーリボンズの「リボンズハウス」も、そうした場になればいいと考えています。

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