やまだ みつぎ　千葉県がんセンター看護局通院化学療法室看護師長。2006年日本看護協会がん化学療法看護認定看護師認定。11年聖隷クリストファー大学大学院博士前期課程修了（看護学修士）。同年、がん看護専門看護師認定。13年より現職。日本がん看護学会、日本臨床腫瘍学会、日本看護研究学会所属

抗がん薬による倦怠感は、単に抗がん薬の副作用だけではなく、食欲低下によるエネルギー不足や貧血によるもの、精神的なものなど様々な原因が重なって起こる場合が多いです。すぐに症状をなくすことは難しいかもしれませんが、体力の消耗を予防しながら、うまく気分転換することが実は大切なのです。

抗がん薬による倦怠感とは

「だるい」「疲れやすい」「何もする気になれない」……抗がん薬投与後の倦怠感は、気分的なものや、疲労などの原因だけで起こるものではありません。紛れもなく抗がん薬の副作用の1つと考えられています。

抗がん薬は、がん細胞だけでなく、正常細胞にも作用し、ダメージを与えます。ダメージを受けた正常細胞は、早く回復（自己修復）するために多くのエネルギーを使用しますので、必然的に体の中のエネルギーが消耗されてしまい、倦怠感がおこりやすくなると考えられています。

また、骨髄に作用した抗がん薬は、血液を作り出す力を一時的に弱めるため（骨髄抑制）、貧血症状を引き起こします。貧血が進むと、だるくて動くことすら億劫になるのです。ほかにも、抗がん薬による食欲不振で食べる量が減ってしまったためにエネルギーが不足し、倦怠感を誘発することがあります。

つまり、倦怠感は、抗がん薬が体に与える様々な影響が絡み合って引き起こされる副作用なので、単なる「疲労感」とは全く違うものであることをまず認識しましょう。

治療後3日から2週間がピーク

抗がん薬の投与計画から、倦怠感が起こるタイミングがわかります。個人差はありますが、抗がん薬治療後3日から2週間ぐらいが、倦怠感のピーク。これは、抗がん薬による食欲不振や、抗がん薬の作用で体内の細胞がダメージを受け、回復していく時期に重なります。また、骨髄抑制が起こり、回復していくタイミングでもあります。

例えば、乳がん治療では、＊CAF療法など、3週間ごとに抗がん薬投与が行われることが多く、投与後2週間は倦怠感が強く出やすいと言われています。そして、3週目に入ったら、すっと倦怠感がよくなってラクになるのですが、すぐに次の抗がん薬投与が始まり、また倦怠感が強く出る。その繰り返しなので、結局、ずっと倦怠感が続いているように感じるのです。

＊CAF療法=エンドキサン+アドリアマイシン+5-FU

吐き気止めのステロイドも関与？

さらに倦怠感を感じさせる要因として、制吐薬のステロイド投与が関与していることも考えられます。使用する抗がん薬の吐き気のリスクにもよりますが、通常は3日間くらい＊デカドロンや＊レナデックスといったステロイドを服用することが多いです。

このステロイドは、吐き気を抑えたり、一時的に倦怠感を緩和するのにとても役立ちますが、そのぶん、ステロイドを使い終えたときの反動も出やすいのです。

今から、このステロイドの作用について少しお話ししましょう。

ステロイドとは、副腎皮質ホルモンの1つで、本来は副腎で分泌され、体内のイオンバランスや血圧を調整したり維持したりする大切な役割を担っています。ところが、その副腎皮質ホルモンが体外から補充されることで、副腎が自分で副腎皮質ホルモンを分泌することをさぼってしまうのです。ある一定の期間で服用を終了すると、今度は体内の副腎皮質ホルモンが足りなくなり、副腎が慌てて作ろうと頑張り始めます。この副腎皮質ホルモンが不足している間は、体内のエネルギー代謝やイオンバランスに影響をきたすため、倦怠感にさらに拍車をかけていると考えられています。

では、このような倦怠感にはどう対応したらよいのでしょう？ ステロイドの服用終了後の倦怠感の対策に有効な手段はないのですが、あまりにも倦怠感が強くてつらい方には、ステロイドを急に止めるのではなく、少しずつ減らしてから止める方法をとることもあります。そのぶん、ステロイドを長く服用することになるので、胃潰瘍や感染症、骨粗鬆症等のリスクも若干高くなる可能性があります。医師や薬剤師とよく相談してみることをお勧めします。

＊デカドロン／レナデックス＝一般名デキサメタゾン