がんの痛みは遠慮しないで、伝えよう!

初期からの緩和ケアで生活の質が改善される

監修●松岡順治 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・緩和医療学講座教授
取材・文●平出 浩
発行:2012年12月
更新:2015年7月

  
松岡順治さん岡山を中心に緩和ケアの啓発活動をする「野の花プロジェクト」のリーダー松岡順治さん

「緩和ケア」というと、末期がんやホスピスを連想する人は、今も多くいます。厚生労働省が今年の6月に発表した「がん対策推進基本計画」では、重点的に取り組むべき課題の1つに「がんと診断されたときからの緩和ケアの推進」が掲げられています。それだけに初期からの緩和ケアの重要性が今、問われているのです。

痛みが和らぐと、治療意欲が高まる

厚生労働省が2013年6月に発表した「がん対策推進基本計画」には、重点的に取り組むべき課題の1つとして「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」が掲げられている。早期からの緩和ケアの重要性とその不十分さが、この文言からはうかがえる。

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・緩和医療学講座の教授で、岡山を中心に緩和ケアの啓発活動をする「野の花プロジェクト」主宰の松岡順治さんは緩和ケアの現状に関し、次のように話す。

「岡山県では『緩和ケア』という言葉の認知率は、この3年間でおよそ25%から55%まで上がりました。これは喜ばしいことですが、では緩和ケアとは具体的に何なのか、何をするのか、どんなメリットがあるのか、という詳しい内容になると、わからない人も多い。この傾向は全国的にもいえます」

緩和ケアは、がんの患者の身体的・精神的・社会的・スピリチュアルの苦痛に対し、総合的に対処するケアである。このケアを行うことのメリットは極めて大きい。

「痛みがあると、患者さんは治療を受ける元気も出ない。痛みがなくなったり和らいだりすることで、患者さんは初めて治療に前向きに向き合えるし、生きる意欲も高まってきます」

早期からの緩和ケアでQOLが向上

松岡さんは、がん患者のQOL(生活の質)を高めることが大切であるとも力説し、2013年6月の緩和医療学会で発表された、アメリカの研究結果を紹介してくれた。

「ステージ4の進行した肺がんの患者さんを対象に、最初から緩和ケアを行った人とそうでない人とでQOLと生存期間を比較した研究では、結果として最初から緩和ケアを行った人のほうがQOLが高く、かつ生存期間も長かった」

実際にこの研究に携わった医師によれば、早期から緩和ケアを行った患者さんにおいてはQOLを高めることができることが示された点が重要であるとの見解でした。なぜ生存期間が延びたかということについてはまだまだ検討する余地がありますが、少なくとも抗がん剤を長く使うことができたからではないようです。抗がん剤を長く使ったほうが長生きできるのではないかと考えがちですが、実際は早期から緩和ケアを受けて生存期間の長かった方たちは、抗がん剤を使用した期間がかえって短かったという結果でした。

早期からの緩和ケアの介入によるQOLと生存期間の改善については消化器のがんでも検討中です。

その一方で緩和ケアを行う専門医は増えているのだろうか。この点に関し松岡さんは、「緩和ケアの教育には基本的な教育と専門的な教育があります。すべての医師が症状緩和の基礎的な教育を受けそれが実施できるようにするための教育が必要だと考えられますが、一方で専門的にこの分野を研究し発展させることも必要です。しかしながら現在の日本の大学にはそのための講座が少なく、医師の教育はできていないのが現実です。今後は充分な教育のできる体制の確立が求められています」と指摘する。

それとともに、専門医だけでなく、すべての医療者が緩和ケアの基本を理解し、実施するべきであるとも主張する。

「医療の目的は本来、痛みや苦しみを取り除くことでした。それが途中から病気を治すことに主眼が移っていった。病気が治ったら痛みや苦しみも取れるだろうと考えるようになったからです。でも、最も望ましいのは、病気を治すと同時に苦痛を取り除くことです。後者に関しては、すべての医療者が最低限のことはできるようにしておかないといけない」

「痛み日記」でつらいことを伝えてもらう

■図1 がんの痛み伝達シート

このシートは「ホームページ;がんの痛みはがまんしない」
http://www.shionogi.co.jp/itami/index.html でダウンロードできます

医師だけではなく、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、カウンセラー、栄養士、理学療法士、作業療法士などがチームを組んで、がんの患者の総合的な苦痛に対処する仕組みも全国の医療施設で、少しずつではあるが整いつつある。

だが、問題もある。大きな課題は、患者側が苦痛を我慢してしまうことだ。

「日本人はつらいことや苦しみ、痛みを我慢することを美徳とする傾向があります。でもそれでは、適切な医療はできない。本当は痛いのに『痛くない、大丈夫』と言われると、治療はそこで終わってしまう。患者さんにとっても、医療者にとっても、よいことは何もありません」

痛いなら「痛い」、つらいなら「つらい」と言ってもらいやすくするために、岡山大では「痛み日記」という用紙をパソコンからダウンロードしてもらうなどして、患者につけてもらっている。そこには、痛みの強さや薬の内容、副作用の状態などを記入する欄があり、書くことで、痛みを総合的に把握できるようになっている。岡山大の「痛み日記」以外では、「がんの痛み伝達シート」という用紙もインターネットで「がんの痛みはがまんしない」で検索するとダウンロードできる。

がんの痛みは我慢しない。この意識の徹底がまずは大切だろう。

■図2 痛み日記

患者さんの痛みを総合的に把握できるよう工夫されている

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