低グレード上部尿路上皮がんに対する、新規マイトマイシン製剤UGN-101の治療効果認める ~第Ⅲ相試験(OLYMPUS)
[2020.06.10] 文・編集●「がんサポート」編集部
治療法の改善が求められていた上部尿路上皮がん
上部尿路上皮がんでは、がんが発生した(発がんした)片側の腎臓、尿管、膀胱壁の一部を含めた腎尿管全摘および膀胱部分切除を行う根治手術が一般的な治療法となっている。
ただこの外科療法は、すでに片側の腎臓を摘出している患者にとっては、透析治療が必要となるなどのより厳しい状況をもたらすものとなり、治療法の改善が求められていた。
そうした中、膀胱がんをはじめ、各種がんに幅広く用いられている抗がん薬マイトマイシンに工夫を凝らした、いわゆる*化学的アブレーション(chemoablation)を用いることで、臨床的に顕著な腫瘍消滅効果をもたらせるとの研究結果が、英国医学誌「The Lancet Oncology 」に報告された。
マイトマイシンを用いた新規のゲル化製剤を開発
マイトマイシンは水溶性製剤のため、尿路上皮がんを治療した場合には、腎臓で産生された尿で洗い流されるため、尿管に直接接触する時間が短く、治療効果が低減していた。
この欠点を克服するために、研究者らは新しく開発されたマイトマイシン(mitomycin)含有の可逆的(可逆性)熱ゲル化製剤であるUGN-101 (製品名:Jelmyto) の評価を行った。
UGN-101は、体温では半個体(semi-solid)、低温では粘性液体(viscous liquid)となる。この可逆性の熱特性により、液体としてのマイトマイシンの局所投与が可能になるという。UGN-10は注入後、半個体ゲルに変形して、デポ(depo:体内での留置物)として温められた後に、上部尿路に点滴注入される。正常な尿流がゲルデポを溶かし、4~6時間かけて尿路上皮組織がマイトマイシンに曝露される。という仕組みだ。
低悪性度上部尿路上皮がん患者を対象に完全奏効を評価
今回行われたOLYMPUS試験(オープンラベル、単群、第Ⅲ相試験)では、全米およびイスラエルの24のアカデミック施設から募集された、18歳以上の初発もしくは生検で再発の認められた、低グレード(悪性度)の上部尿路上皮がん(最大腫瘍径5~15mm)で、*ECOGのPS(全身状態)スコア3以下の患者が対象となった。
被検者は、腎盂(じんう)・尿路に対し逆行性カテーテル経由で、UGN-101(マイトマイシン4mg/mL)を週1回、6(クール)点滴注入を受けた(投与量は患者の腎盂・尿路のボリュームに合わせ、最大投与量は点滴1回あたり60mg)。
完全奏効(CR)は、初回治療が完了後4-6週の時点で評価した。さらに、活動(機能)ならびに安全性は、UGN-10を最低1用量の投与を受けた全患者において、治験責任医師が評価した。
71例中42例(59%)で完全奏効認める
その結果、最終的に、2017年4月6日から2018年11月26日までの間に、被験者74例中71例(96%)が、最低1用量のUGN-101投与を受けた。初回疾患評価時に、42例(59%)で完全奏効が認められた(p<0.0001)。完全奏効患者の追跡期間中央値は11.0カ月であった。
有害事象(AEs.)で最も頻度が高かったのは、尿路狭窄(44%)、次いで尿路感染(32%)、血尿(31%)、側腹痛(30%)、吐き気(17%)。加えて、試験に用いた薬剤および器具(機器)関連の重篤な有害事象が27%見られたが、治療に関連した死亡者はいなかった。
研究者らは「本試験により、患者は腎臓を保持できる明らかなベネフィット(便益)が認められた。片側の腎臓しかない人にとって、この選択肢は、透析の必要性からも開放されることになる。また、それ以外の状況下に置かれている患者にとっても、腎臓の摘除手術を避けることができるネフィットがもたらされる」としている。
FDAが上部尿路上皮がんの1次治療および非外科治療法として承認
FDA(米国食品医療品局)は最近(2020年4月15日)、UGN-101を低グレード上部尿路上皮がん患者に対する1次治療および非外科治療法として承認した。しかし、研究者らは、12カ月間までの初期反応(奏効)の耐久性の観察を継続する予定だ。
「この新規のアプローチは、上部尿路上皮がんに対する重要な代替治療法となる。本治療法を、内視鏡下治療の難しい腫瘍患者に対しても、治療選択肢として拡大したい」と述べている。
脚注:
*化学的アブレーション(chemoablation):化学的エネルギーを加えて、組織を破壊除去する治療法
*ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group:米国東海岸がん臨床試験グループ)
出典情報:
「The Lancet Oncology」 2020年4月29日オンライン版 ※DOI(Web上の電子文献対応コード)
「The Lancet Oncology」 2020年6月1日発行(VOLUME 21, ISSUE 6)
関連情報:
Baylor College of Medicine(米ベイラー医科大学)ニュース 2020年4月30日
FDAプレスリリース 2020年4月15日