循環器内科と腫瘍内科との連携づくりが必要 がん薬物療法の心毒性

[2023.10.01] 取材・文●「がんサポート」編集部

抗がん薬アドリアマイシンによる心筋症は、以前から知られていました。その後、さまざまな機序の新薬登場などで、がん治療による心疾患が増えています。また、心血管疾患を抱える高齢のがん患者さんも多くいます。そこで2017年7月「日本腫瘍循環器学会」(Onco-Cardiology)が設立されました。

がんと心疾患を合併するケースが増加

2023年9月7日、日本腫瘍循環器学会主催のメディアセミナーがオンラインで開催されました。

冒頭、国際医療福祉大学副学長の小室一成さんが「日本腫瘍循環器学会について」と題し講演しました。次に、神戸大学大学院医学研究科腫瘍・血液内科教授の南博信さんが、「がん治療における腫瘍循環器診療の意義-腫瘍内科医の立場から-」、順天堂大学医学部附属順天堂医院循環器内科教授の南野徹さんが、「がん治療における腫瘍循環器診療の意義~循環器内科医の立場から~」、東京慈恵会医科大学腫瘍・血液内科教授矢野真吾さんの「Oncocardiologyガイドラインの概要」と続きました。

そのなかで、小室さんは、「かつては、ごく稀に抗がん薬の治療後に心不全(アドリアマイシン心筋症)を発症した患者さんが、循環器内科に入院していました。また、深部静脈血栓症や肺動脈塞栓症の患者さんの中に、たまにがんが発見されることがありました」と話します。

ところが、近年、がんと心疾患を合併するケースが増加しており、たとえば乳がん患者さんの診断後の死因(比率)は、罹患後10年経過ころから乳がん自体で亡くなる方より、心血管疾患で亡くなる方のほうが多いというデータもあります。

また、最近のがんと循環器疾患の関係でみると、「日本人の2人に1人はがんになり、55歳以上の2人に1人は心不全になります。高齢者では、がんと心不全を合併するケースが高くなります。ところがほとんどの抗がん薬は、心臓や血管を傷害する可能性があります。循環器疾患予備軍である高齢者にもがん治療を行うことが増えていますが、がん治療は循環器疾患を引き起こす要因になり、がん患者さんが血栓塞栓症を発症するという流れが多くなります」と解説しました。

心疾患の参考資料

「日本腫瘍循環器学会」が取り組むこと

日本腫瘍循環器学会が今後取り組むこととして、小室さんは、以下の6つを挙げました。

1.腫瘍循環器学の啓発・普及・教育 
2.診療体制の整備 
3.わが国における診療指針(ガイドライン)の策定 
4.疫学研究、臨床研究の推進 
5.病態解明のための基礎研究を推進 
6.産官学連携による戦略的な取り組みの推進

がん治療により多く発症する心血管合併症の具体例として、心機能低下、うっ血性心不全、虚血性心疾患、弁膜症、不整脈、血栓塞栓症(動脈・静脈)、高血圧、末梢動脈疾患、肺高血圧などがあります。

「とくにアントラサイクリン系薬剤による心筋症は、予後不良になるケースが多い」と言います。

「免疫チェックポイント阻害薬でも、さまざまな有害事象があり、重篤な副作用として心筋炎があります。その発症率は0.5~1%と高くはありませんが、重症心筋炎の致死率は~50%にもなります。なかでも心筋炎は静脈血栓塞栓症の最も重要な危険因子。もちろんがん患者さんの死因のトップは、がんの進行によるものですが(71%)、静脈血栓塞栓症は9%で第2位です」と述べました。

腫瘍循環器学の認知度は?

わが国における腫瘍循環器の認知度について、「日経メディカル」がオンライン上で医師会員を対象に「抗癌剤の副作用に関するアンケート」(2017年10月30日~11月5日)を実施しました。総回答数3,751人(回答者内訳:一般内科998人、循環器内科297人、消化器内科190人、一般外科153人、消化器外科121人など)。

「腫瘍循環器科または腫瘍循環器学(Onco-Cardiology/Cardio-Oncology)という言葉を聞いたことがあるか」を尋ねた結果、「はい」が21.3%、「いいえ」が78.7%でした。この結果からも、循環器内科は、さまざまながん診療科と連携していくことが必要となっています(図1)。

一方、わが国のがん専門病院における循環器医の数(常勤)をみると、常勤はいないか、いても1~2名で、大阪国際がんセンターの4名が突出している程度。ここで取り上げられたデータは全国主要都市に展開されているがんセンター(東京都立駒込病院、がん研有明病院含む)で、大学病院と総合病院は含まれていません(図2)。

小室さんは、日本腫瘍循環器学会の課題と展望について、下記の6つを挙げました。

1.腫瘍循環器学の啓発・普及・教育/医師・患者・がんサバイバー・市民への啓発 
2.診療体制の整備 
3.ガイドラインの普及・啓発 
4.臨床研究の推進/実態調査、介入試験 
5.病態解明のための基礎研究推進/がん、抗がん薬による心血管疾患発症機序を解明し予防・治療する 
6.産官学連携による戦略的な取り組みの推進/厚労科研による腫瘍循環器学の推進

最後に、本学会長の神戸大学大学院医学研究科循環器内科教授の平田健一さんが、第6回日本腫瘍循環器学会学術集会プログラムの Topicsを紹介して、セミナーを締めました。

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