痛みの度合を把握し、うまく鎮痛薬を使う がん疼痛治療のキーポイント

[2023.11.01] 取材・文●「がんサポート」編集部

モルヒネをはじめとする医療用麻薬には、今なおさまざまな誤解と偏見が残っている。患者さんは「モルヒネは中毒が怖い」という偏見がいまだに強い。また、医療者にも誤解は残っていることもある。がん疼痛治療のためには、正しい知識を得ることが大切だ。

がん疼痛治療と貼付剤の進化

2023年10月20日、久光製薬株式会社主催のセミナー「飲まないがん疼痛治療~QOL向上を目指したがん疼痛治療のポイント~」が、東京と横浜の会場で同時に開催されました。

東京会場では、「がん治療医に知ってもらいたいがん疼痛治療の新たな選択肢」のテーマで、医療法人二豊会国見病院院長の鹿田康紀さんが講演。

横浜会場では、獨協医科大学病院総合がん診療センター緩和ケア部門長の白川賢宗さんが「がん疼痛治療と貼付剤(ちょうふざい)の進化」と題した講演を行いました。ここでは白川さんの講演内容について紹介します。

白川さんは、がん疼痛治療に使用する経皮吸収局所作用型貼付薬の利点について、次のように語ります。

「経皮吸収局所作用型の貼付薬は、使用部(患部)への直接的な効果が期待でき、胃腸障害や全身性の副作用の影響も少なく、使用の中断が容易にできます。また、冷感、温感の副次的な効果が期待できるとともに、食事などに関係なく使用できることが利点です」

欠点としては、「皮膚の状態により効果が不安定で、投与量が限られること。使用箇所のカブレなどです」

そのうえで、「がん医療には、経皮吸収局所作用型貼付薬が必須の医薬品」と述べました。

貼付薬開発の歴史的な流れは、外用刺激型(第1世代:サリチル酸メチル)、経皮吸収局所作用型(第2世代:パップ薬)、そして現在は、局所吸収タイプから全身吸収タイプへと移行しています。

「がん疼痛に使用されているフェンタニル(合成オピオイド)は、モルヒネと比較して約100倍の鎮痛作用があります。フェンタニル貼付薬には、さまざまの用量の製品があり、モルヒネ以外のオピオイド(麻薬性鎮痛薬)からの切り替えも可能です。1日用のフェンタニル貼付薬は張り替え忘れが少なく、アドヒアランスの改善効果もあります。

経口モルヒネ徐放性薬を使用中、便秘、悪心・嘔吐、眠気などの副作用の症状が生じた場合にもスピーディにフェンタニルへのスイッチが可能です。

また、オピオイドに敏感な反応を示す患者さんへもフェンタニルテープ薬の早期からの投与も可能ですし、小児への適応もあります」

ここで、肝芽腫で入院した少年A君の症例が取り上げられました。

積極的な治療を中止したころ、A君は看護師さんに「ねえ起こして、やっぱり寝かせて、やっぱり起こして」と、落ち着かない状態に。このような症状の場合、A君のつらさの原因を見極めることが重要です。

「フェンタニル持続静注でタイトレーションを開始して、2時間後には笑顔で話せるようになりました。その後、フェントステープ2mgへ変更し、外泊を数回行って、退院となりました」

アドヒアランス:患者さん自身が自分の病気を受け入れて、医師の指示に従って積極的に薬を用いた治療を受けること

タイトレーション:鎮痛効果と副作用の出方を観察しながら、患者さんにあった投与量を調節し、至適用量を決めること

世界初の経皮吸収全身投与型NSAIDsが発売

「WHOがん疼痛ガイドライン」(2018版)では、「常に1段目の薬(効果弱の薬)で始めるべきではなく、痛みの強さに応じたステップの薬を選択し、中等度~高度の痛みと評価した場合、3段階目を最初から選択する必要がある」と記しています。

国内の「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」(2020年版)では、「がん疼痛(軽度)のある患者に対して、NSAIDsの投与(初回投与)を推奨する。(1B:強い推奨)」、「オピオイドが投与されているにもかかわらず、適切な鎮痛効果が得られない、がん疼痛のある患者に対して、NSAIDsの併用を条件付きで推奨する。(2C:弱い推奨)」と記載されています。

今も上記のようにNSAIDsは、がん疼痛治療において有用な選択肢です。

さらにNSAIDsの短時間作用型(筋注)と長時間作用型(貼付)を比較してみると、短時間作用型は、薬の切れ間に痛みが発生するケースもありますが、長時間作用型は、その痛みが少ないと言われています。

昨年発売されたジクロフェナクナトリウム経皮吸収型製剤(商品名:ジクトルテープ)は、世界初の経皮吸収全身投与型NSAIDsで、炎症の原因となるプロスタグランジンの合成を阻害して、炎症を抑え、痛みをやわらげます。

効能は、各種がんにおける鎮痛。用法・用量は1日1回2枚、最大3枚/日まで。その他、腰痛症、肩関節周囲炎、脛肩腕症候群、腱鞘炎などにも適用があります。

NSAIDs:非ステロイド性抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)とは、抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を有する薬剤の総称

個々の疼痛薬をいかにうまく使うかがポイント

耳下腺がんで多発骨転移・脳転移・腹膜播種の50歳代の男性のジクロフェナクナトリウム経皮吸収型製剤の使用症例が紹介されました。

「患者さんはフェンタニル貼付薬(1日型)を使用中でしたが、『もう少し痛みを減らしたいが、眠気はあまり強くしたくない』と希望されたため、ジクロフェナクナトリウム経皮吸収型製剤に変えたところ、痛みも軽減し、夜も休めるようになりました」

白川さんは、「がん患者さんの服薬錠数について、がん患者さん16.2錠に対して非がん患者さん11.0錠というデータがあります。薬剤の1日投与回数と服薬コンプライアンスについては、薬剤投与回数が服薬コンプライアンスに反比例することが確認されています」

白川さんは最後にこう期待を述べました。

「ジクロフェナクナトリウム経皮吸収型製剤は、内服薬の必要がないこと、食事に関係なく使用が可能なこと、安定した血中濃度が維持されて使いやすいです。

今、がん疼痛治療は、療養場所が変わっても、患者さんの状態が変わっても、安定したものにしていくことが求められています。そのためには医療者が個々の鎮痛薬をいかにうまく使えるかが、がん疼痛治療のキーポイントなのです」

服薬コンプライアンス:患者さんが定められた治療方針や指示を守って服薬をしたり、治療に参加したりすること

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