悪性リンパ腫の中で最も多いびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に新薬登場!

[2023.12.04] 取材・文●「がんサポート」編集部

血液がんは、血液細胞が分化する過程でがん化することにより起こります。よく知られているのは、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫ですが、血液がんの種類は多種多様です。その多くの種類の中で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に新薬が承認されました。

悪性リンパ腫の中で最も多いB細胞性リンパ腫

2023年11月28日、ジェンマブ株式会社とアッヴィ合同会社共同の、「再発・難治性LBCLの治療戦略とアンメットメディカルニーズ」と題したメディアセミナーが、東京で開催されました。

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の標準的治療と、再発・難治例に対する従来の治療、CAR-T療法、さらに11月22日に発売された二重特異性抗体エプキンリ皮下注(一般名エプコリタマブ)について、国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科科長の伊豆津宏二さんが解説ました。

悪性リンパ腫は、ヒトの免疫システムを構成するリンパ系の組織から発生するがんです。ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に大きく分けられ、日本人の約90%は非ホジキンリンパ腫です。非ホジキンリンパ腫の中で大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)が7~80%と最も多く、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫などにわかれます。

「DLBCLは、悪性リンパ腫の中で最も多いタイプです。悪性リンパ腫の罹患数(2019年/国立がん研究センターがん対策情報センター全国がん登録罹患データ)は、年間36,636人で、内訳は男性19,311人、女性17,325人と若干男性が多いです。また、罹患者の多くは、60歳以上の高齢者が多く、ピークは男女とも75~79歳です。

DLBCLは、リンパ節やリンパ節以外のさまざまな臓器(節外臓器)、たとえば、頸部リンパ節、腸間膜LN、副鼻腔、胃、骨髄などに発症します。そして頸部や鼠蹊部などのリンパ節腫脹(こぶ)など、さまざまな病変を生じます」と伊豆津さん。

6割が1次治療で治癒するが

DLBCLの標準的初回治療については、「化学療法(抗がん薬治療)が中心で、およそ60%の患者さんは標準的初回治療(R-CHOP療法 or Pola-R-CHP)により治癒する」とのことです。

さらに、再発・難治性DLBCLの治療方針は、「自家移植の適応の有無で異なります。自家移植可能な対象者は年齢や臓器障害などによって限られていて、なおかつ自家移植で治癒に至る患者さんは限られています。また自家移植後は再発が多い」と述べました。

R-CHOP療法:リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン(経口)の薬剤を3週毎・6~8コース

Pola-R-CHP:ボラツスマブベドチン、リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、プレドニゾロンの薬剤を3週毎・6コース(7、8コース目はリツキシマブのみ)

自家移植:患者自身の造血幹細胞をあらかじめ採取・保存しておき、大量化学療法施行後に自身の造血幹細胞を輸注する(もどす)治療法

3次治療はCD19標的CAR-T療法

CD19標的CAR-T療法は、DLBCLの3次治療(一部2次治療)として使用が可能となり、3次治療の患者さんに対して、他の治療よりも予後が改善でき、治癒の可能性もある」とのこと。

一方、CD19標的CAR-T療法の課題は、「治癒に至る患者さんは50%以下で、残りは再発・難治例へと進行していき、予後も厳しい。また、CD19標的CAR-T療法は、計画から患者さんへの治療まで、ある程度期間が必要なため、切迫した症状や急速進行性の患者さんは対象となりにくく、実施できる施設数も限られる」などを上げました。

このように治療施設が限られることから、新たな治療法の開発が期待されていました。

CD19標的CAR-T療法:B細胞の表面に発現している特異的なタンパク質CD19という抗原を特異的に認識できるCAR-T療法のこと

新薬エプキンリが発売された

エプキンリは二重特異性抗体薬で、T細胞の細胞膜に発現しているCD3とB細胞性腫瘍の細胞膜上に発現しているCD20の両者に特異的に結合することで、T細胞によるCD20陽性細胞傷害を誘導する薬剤です。

対象は、再発・難治性の大細胞型B細胞リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫・高悪性度B細胞リンパ腫・原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫)再発・難治性のろほう性リンパ腫。

エプキンリの海外試験(第Ⅰ/Ⅱ相EPCORE NHL-1試験)での奏効割合は、63.1%。国内試験56%で、CR割合は、海外試験では38.9%、国内試験41%。

副作用については、CRSは、海外試験で49.7%(全グレード)、2.5%(グレード3以上)、国内試験83%(全グレード)、8%(グレード3以上)。

また、ICANSについては、海外試験6.4%(全グレード)、0.6%(グレード3以上)、国内試験3%(全グレード)、0%(グレード3以上)。

エプキンリの特徴について、伊豆津さんは、「必要なときにすぐ使用が可能なこと、CAR-T療法より多くの施設で実施が可能、また皮下投与のため、外来治療での院内滞在時間が短縮できる」ことを上げました。

今後の課題としては、「CAR-T療法との効果の比較と副作用マネジメントを最適化する上で、長期追跡によるデータ蓄積が課題」と締めました。

CR(complete response):完全寛解(必ずしも治癒ではない)

CRS(サイトカイン放出症候群):抗体医薬品の投与中または投与直後に現れる、炎症性サイトカインの放出によって引き起こされる症状の総称で、具体的な症状は、悪寒、悪心、倦怠感、頭痛、発熱、頻脈、血圧上昇など。重篤な場合はサイトカインストーム(全身状態の悪化や血栓形成)に至る

ICANS(免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群): 神経毒性として知られ、症状としては錯乱、譫妄、失語症、運動機能障害、傾眠など

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