[2024.2.27] 取材・文●「がんサポート」編集部

日本人女性のがん罹患率のトップが乳がん。女性の15人に1人が発症し、新たに年間10万人弱が診断されています。乳がんとひと口に言っても、タイプによって治療法も異なります。HR（ホルモン受容体）・HER2陰性のトリプルネガティブは、他のタイプの乳がんと比べて予後不良と言われていて、ホルモン療法も抗HER2薬も使えません。そのため新規薬剤の登場が待ち望まれていました。

トリプルネガティブに新規薬剤トロデルビーを申請

2024年2月19日、ギリアド・サイエンシズ株式会社主催「第1回オンコロジー メディアラウンドテーブル」が、東京で開催されました。同社代表取締役社長のケネット・ブライスティングさんの「オンコロジー領域で切り拓く新たな道」と題した講演から始まりました。

近年、同社が乳がん領域に取り組んだのは、患者さんの＊アンメット・メディカル・ニーズが高い点をあげました。世界中で乳がんの年間新規発症者数は230万人、転移性トリプルネガティブ乳がん（TNBC）の5年生存率は12％、年間死亡者数は68万5,000人となっています。

ギリアド・サイエンシズの抗Trop-2抗体薬物複合体（ADC）トロデルビー（一般名サシツズマブ ゴビテカン)が、日本で2024年1月30日に申請されました。適応は、全身治療歴のある手術不能・再発のトリプルネガティブ乳がんです。

しかし、トロデルビーはすでに欧米など世界40カ国以上で、トリプルネガティブ乳がん治療薬としてすでに承認されています。米国では、尿路上皮がんの適応でも迅速承認を取得しています。

その他、ギリアド日本法人では、ウイルス領域（HIV、COVID-19、C型肝炎・B型肝炎）、炎症領域では、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎などの薬剤を発売しており、今後は、オンコロジー領域（固形がん、血液がん）の薬剤を展開していく予定とのことです。

＊アンメット・メディカル・ニーズ＝いまだ満たされていない医療ニーズ。つまり、いまだ有効な治療方法がない疾患に対する医療ニーズのこと

トロデルビーの作用機序

次に常務執行役員臨床開発本部長の表雅之さんから、「オンコロジー領域の新薬開発状況」の話がありました。

トロデルビーは、乳がんを始め、多くの固形がんの上皮組織に発現する「Trop-2タンパク」を標的とする抗体薬です。

がん細胞におけるTrop-2の発現頻度は、卵巣がん（92％）、乳がん（85％以上）、非小細胞肺がん（92％）、尿路上皮がん（83％）などとなっています。さらに、Trop-2が高発現していると予後不良と相関する可能性があるとも言われています。

作用機序は、トロデルビーの抗体成分が腫瘍細胞表面のTrop-2タンパクに結合し、腫瘍細胞内と腫瘍細胞外の両方に抗がん薬イリノテカンの活性代謝物である＊活性型SN-38が腫瘍微小環境に放出され、Trop-2が発現しているがん細胞だけでなく発現していない隣接するがん細胞にも効果があります。そして、活性型SN-38が腫瘍細胞のDNA複製を阻害していきます。

＊活性型SN-38＝生体内（主に肝臓）のカルボキシルエステラーゼによりSN-38に変換される。イリノテカンの約1,000倍の抗腫瘍活性がある

トロデルビーの新たな臨床試験が進行中

次に、転移性トリプルネガティブ乳がん患者さんを対象としたトロデルビーの「第Ⅲ相ASCENT試験」についての説明がありました。

ASCENT試験は、国際共同・多施設共同・非盲検・無作為化第Ⅲ相試験であり、進行性疾患に対して、過去に2レジメン以上の化学療法（タキサンを含む）を受けたことがある難治性・再発性の転移性腫瘍を有する乳がん患者さんが対象となりました。

トロデルビー群（n＝267）、標準化学療法群（n＝262）で、主要評価項目は無増悪生存期間（PFS）、副次評価項目は全生存率（OS）、全奏効率（ORR）、奏効持続期間（DOR）、安全性などです。

結果は、PFSの中央値を比較すると、トロデルビー群5.6カ月、標準化学療法群1.7カ月で、有意差が認められました。また、OSの中央値は、トロデルビー群12.1カ月、標準化学療法群6.7カ月とこちらも有意差が認められました。

グレード3以上の有害事象は好中球減少症（51％）、白血球減少症（10％）、下痢（10％）、貧血（8％）、発熱性好中球減少症（6％）で、トロデルビー投与に関連した死亡例はありませんでした。

最後に、表さんは、現在、国内で治験を実施中の疾患として、トリプルネガティブ乳がん、膀胱がん、HR＋/HER2－乳がん、非小細胞肺がんをあげ、今後も消化器がん、頭頸部がん、前立腺がん、小細胞肺がん、子宮内膜がん、大腸がん、膵がんなどを予定していると述べました。