がんの確定診断は病理医 迅速診断に欠かせない病理検査機器の発展

[2024.3.22] 取材・文●「がんサポート」編集部

病理プレスセミナーでの佐々木毅さんと桜井恵子さん

がんの検査を受けて、がんの疑いがある場合、がんと診断するには、細胞診や組織診(生検)と呼ばれる病理検査が必要です。その検査結果をもとに病理医が確定診断を行います。病理検査機器の発展は、がんの治療成績向上に役立つものですが、病理検査に使用する機器や病理医は、患者さんの目にはなかなかふれないものです。

2024年3月12日、サクラファインテックジャパン株式会社主催、サクラ病理プレスセミナーが都内で開催されました。

はじめに取締役マーケティング本部本部長の桜井恵子さんより企業の沿革、主力製品などの紹介がありました。病理検査機器製造では国内最大で、世界150カ国以上に展開しているとのことです。

病理医は「医者の医者」

つづいて、東京大学大学院医学系研究科次世代病理情報連携学講座特任教授の佐々木毅(ささきたけし)さんから「病理を取り巻く環境と未来」と題した話がありました。

はじめに佐々木さんは、病理の基本的な立場について、「がんを確定・最終診断をするのは担当医ではなく、病理医が顕微鏡で組織を確認し、最終診断をしていきます。

たとえば、放射線診断専門医がマンモグラフィ画像で〝がんの疑い〟ありと診断しても、最終的には病理医が、採取した検体を顕微鏡やデジタル画像で観察し、がんの確定診断をしていきます」

さらに佐々木さんは、病理医の現場の仕事について、以下のように述べました。

「病理医は、患者さんの前にはあまりでませんが、内科医や外科医などと同様に医師国家試験に合格し、臨床研修を受けた医師として、各種疾患の最終診断、とくにがんの確定診断を行い、担当医に伝えます。また、コンパニオン病理診断、ゲノム診断を行って、治療法の選択を担当医と相談します。さらに術中に、病変ががんかどうか、がん病巣が取り切れているかどうか、約15分程度で素早く判断(術中迅速診断)を行い、担当医の手術方針決定への支援をします。また、生前の治療を検証する目的で病理解剖を行い、担当医とディスカッションするなど多岐にわたる仕事があります」と述べました。

病理の医師は、世界でも「医者の医者」と言われています。

確定診断は検体から標本作成まで緻密かつ複雑な工程

病理標本作成工程については、以下の工程を経て、1つの病理標本が完成します。

①固定(患者さんから採取した組織をホルマリンで固定)
②切り出し(適切なサイズに切り出す)
③脱水・脱脂・パラフィン浸透(組織から水分・脂質を抜きパラフィン浸透)
④包埋(パラフィンで固める)
⑤薄切(薄く切る)
⑥染色・封入(染めて封入)

各工程には、精密な機器があり、とくに薄く切る作業については、3/1,000~4/1,000㎜の薄さにカットするのは、人的な作業が必要となってくるそうです。

実際、精密検査で検体を採取し、病理検査・診断して、主治医にその報告が届くまで、およそ7日~12日かかります。外部検査センターに委託したり、免疫染色の追加項目がある場合は、さらに数日プラスとなります。

乳がんの場合、術中に腋下センチネルリンパ節生検の術中迅速病理診断を行い、転移がなければ、腋下リンパ節の切除は回避できます。リンパ節切除を回避することにより、上肢の運動制限やリンパ浮腫などを防ぐことができます。また、がん病巣を切除した断端にがん細胞があるか否か迅速病理診断で確認して、がん細胞がなければ手術完了です。

次にコンパニオン病理診断について、「がん細胞が持っている特殊なタンパク質や遺伝子変異など病理組織標本を用いて確認する診断です。病理医が診断し、治療薬などを含む最適な治療法を担当医に助言します。乳がんのサブタイプなどではHER2陰性・陽性によって薬剤の選択が異なってきますが、HER2タンパクの免疫染色で、茶色に染まっている細胞が多いほど、抗HER2薬などの治療薬が効きます。

コンパニオン検査には、HER2の他にEGFR、KRAS、BRAF、ALK、ROSⅠなどさまざまな検査があります。原則的に1つひとつの検査は独立しています。コンパニオン検査の利点は、どこの施設でも実施可能です。診断結果が承認薬による治療に直結、検査結果の解釈に専門家の検討は不要です。欠点は、診断までの時間が必ずしも迅速でないこと。また、検査に耐えうる十分な腫瘍組織が得られない可能性があること」などと述べました。

本当の意味での個別化医療とは

最後に病理検査機器の説明が行われた

がんは環境因子と遺伝性因子によって発生します。環境因子には、生活習慣(喫煙、飲酒、運動不足など)、発がん性物質に暴露(紫外線、放射線、アスベストなど)、ウイルスや細菌感染などがあります。

日本人のがんの死亡に関係する環境因子のトップは喫煙、次がピロリ菌、C型肝炎、飲酒などが上位を占めています。

一方、遺伝性因子は、持って生まれた遺伝子変異により、発がんリスクが高まります。

がんの遺伝子変異には、生殖細胞遺伝子変異と体細胞遺伝子変異の2種類があり、生殖細胞に遺伝子変異が組み込まれているケースでは、子孫に遺伝する確率が高くなります。一方、がん細胞だけに起因する遺伝子変異のケースでは、遺伝はしません。胆のう・胆管がんなどはおこりやすい家系もありますが、子孫に遺伝する遺伝子変異については、いまだ不明です。

保険診療で使用可能ながんゲノムプロファイリング(遺伝子パネル)検査は、現在、5種類あります。その目的は、遺伝子変異を見つけて、個々の患者さんにあった分子標的薬や治験を見つけるためです。

利点としては、1回の検査で多数のゲノム(遺伝子)変化を調べることが可能です。

問題点としては、標準治療が終了しないと検査が受けられないこと。検査が高額(検査費は560,000円、患者負担3割の場合168,000円)。また、検査によって新たな治療法(治療薬)が見つかる確率は約10数%と低いことです。

遺伝子パネル検査自体は全国どこでも受けられますが、がんゲノム医療中核拠点病院と拠点病院でのエキスパート・パネルの(内科医、外科医、腫瘍内科医、担当医、病理医、データサイエンティストなどによる専門会議)の開催が国によって義務付けられています。

このように検査から結果がでるまで時間がかかり、治療薬が見つかっても、患者さんの状態が悪く治療を受けられないケースもあり問題になっています。

佐々木さんは、「ゲノム医療というのは、がん細胞がもっている特殊なタンパク質や遺伝子変異を調べ、その患者さんにだけ効く分子標的薬を使うなどの個別化治療を展開することではないのでしょうか。また、抗がん薬(化学療法)を始める前に遺伝子変異を調べて、分子標的薬を使用することがゲノム医療の本質であり、個別化治療に繋がるのではないか」と、標準治療が終了しないと検査が受けられないことに疑問を投げかけました。

今後の病理については「遠隔医療や専門の病理医のいない施設からの依頼も増加する傾向です。そこで病理ホールスライド画像診断補助装置を使用することで、病理スライド標本全体の高倍率画像(病理ホールスライド画像)の取り込み、保存、表示などを通して、病理診断の補助や治療計画の策定を支援し、デジタル画像のみで病理診断を完結できるでしょう」と、佐々木さんは結びました。

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