未来を生きるためにも乳房再建を 乳がん再建のメディアセミナー開催
[2024.11.1] 取材・文●「がんサポート」編集部
2024年9月26日、アッヴィ合同会社アラガンエステティックスと特定非営利活動法人エンパワリングブレストキャンサー「E-BeC」は、乳房再建の認知・理解向上を目指して毎年10月8日を「乳房再建を考える日」として記念日登録しました。その周知のためメディアセミナー「乳房再建の選択肢が当たり前の世の中へ~乳がんになった後も、患者さんが自分らしく生きるために~」が開催されました。3人の専門家とNPO法人の理事長が、乳がん再建について講演しました。
「乳がんの現状と乳房再建について」
全てのがん種のなかで、女性の罹患者数が最も多いのが乳がんです。現在、日本人女性の9人に1人が乳がんと診断されるといわれています。乳がん診断時の病期は0期~Ⅰ期が54%、8割近くの人がⅡA期までに発見できているため、部位別5年相対生存率は92.3%と高く、乳がん罹患後の人生は長いためQOLが重要です。ところが、日本の乳房再建率は12.5%にとどまっています。
今回のセミナーの1人目の講師、東京女子医科大学乳腺外科教授・基幹分野長の明石定子さんは、「乳がんの現状と乳房再建」と題して話しました。
現状については、「乳がんの罹患率は今後も増加傾向です。米国の推計ですが2040年でもがん種の中で乳がんはトップでしょう。国内でのここ数年の罹患数のデータをみると、他のがん種と比較しても30~40代の若年の発症が多いです。死亡率は大腸がん、肺がん、膵がんに続いて第4位、しかし、部位別5年相対生存率では92.3%と高く、乳がんは治療後の長い人生を考える必要のあるがん種です」と強調しました。
さらに、乳がんの体験者601名と乳がん患者1,034名のアンケート(2018年調査)から、乳がん治療のためアピアランス(外見)が変化してしまったため以前と比較して、「外出の機会が減った」40.1%、「人と会うのがおっくうになった」40.2%、「仕事や学校を辞めたり休んだりした」42.5%など、通常の社会生活に影響を受けた方が40%以上いる現状を紹介しました。
次に、国内での乳がんの術式の変遷の話があり、「2000年はじめ乳房温存術はピークをむかえ、その後やや減少傾向にあります。また、2011年に自家組織による乳房再建が保険適用となり、2013年には人工乳房による乳房再建が保険適用になったあたりから乳房全摘術が増加傾向になっています。今後も、その傾向が続くでしょう」
また、世界と日本の乳房再建率を比較して、「日本の乳房再建率は12.5%、米国は40.0%、韓国は53.4%で、日本の乳房再建率は低い」というデータを示しました。
「乳房再建の国内普及のために」
美容外科教授の佐武利彦さん
2番目の講師、富山大学学術研究部医学系形成再建外科・美容外科教授の佐武利彦さんは、「乳房再建の国内普及のために」と題し、2024年7月に発行された『患者さんと家族のための乳房再建ガイドブック』(日本形成外科学会編)の内容を中心に話がありました。
「乳房再建とは」からはじまり、「乳房再建のために知ってほしいこと」や「乳がん治療と乳房再建」について話は進み、①自家組織再建、②脂肪注入再建、③乳頭乳輪再建などについては、イラストを用いながらわかりやすい解説がありました。
ガイドブックに掲載されている質問項目に関しては、「乳房インプラントを用いた再建の流れついて教えてください」や「エキスパンダーや乳房インプラントの合併症について教えてください」など、乳房再建を希望される患者さんが知りたい質問が多く取り上げられています。その理由として、「実際に患者会であった『患者さんから医師へのQuestion 200問』、『医師には質問しにくいQuestion 75問』、『患者さんに知ってほしいQuestion+班が受けたQuestion』10問』の中から選んだからです」と述べました。
佐武さんは最後に、「乳がんに罹患したことや全摘で乳房を喪失したショックから、乳房再建によって立ち直ることができた」、「再建したことで、より前向きに生きていく気持ちが強くなった」など、乳房再建術で満足を得られた患者さんの声を紹介しました。
「乳がん術後乳房再建術の概要」
ブレストサージャリークリニック院長の岩平佳子さんは、乳房再建の実例写真を紹介しながら、自家組織再建術について述べました。
「自家組織再建術の特徴としては、身体の負担が大きい、1~2週間の入院が必要、他の箇所に傷が残る、暖かい血の通った組織、基本的には保険適用(脂肪注入以外)、術者による出来上がりの差が大きい、異時性(1年以上経ってから発生した場合)になったときに使えないことがあります」
一方、人工物再建の特徴としては、「身体の負担が軽い、日帰りで可能、他の箇所に傷がつかない、大きさ・形に限界があり冷たい、基本的には保険適用、製品選択による出来上がりの差が大きい」
さらに、「乳がん手術と同時にエキスパンダー挿入」の利点と欠点について、「利点は、乳房喪失感を味わわなくて済み、肉体的な負担が減る」欠点については、「再建について考える時間が短い、病院を選べない、再建方法の選択が限られる、今後の治療方針がわかっていない」などをあげました。
また、乳がん手術後、しばらく経ってからの再建については、「利点は、よく考える時間がありますし、病院や再建方法を選択できる、乳がん治療が一段落してからでききます。逆に欠点としては、乳房の喪失感を味合わなくてはならない、肉体的にも手術が1回多くなります」
最後に、「インプラントは、手術後10年ごとに入替手術が必要と思っている方もいるようですが、インプラントの破損などがなければ、入れ替える必要はありません」とインプラントの誤解について強調しました。
「乳がんになった後も私らしく生きる」
理事長の真水美佳さん
特定非営利活動法人エンパワリングブレストキャンサー「E-BeC」理事長の真水美佳さんは、2013年に乳房再建手術の正しい理解と乳がん患者さんのQOL向上を目指し、「E-BeC」を設立しました。乳がんサバイバーでもある真水さんは、これまでの活動を通じてわかったことや感じたことについて次のように話しました。
「2006年に自家組織が、2013年に人工物再建が保険適用となっていますが、そのことを知らいない方が思った以上に多いです。また、『乳腺外科医から乳房再建術についての情報が提供されない』『長期で仕事が休めない』『地方と首都圏との医療格差』『周囲の無理解』『周りに再建をした人がいないため再建をためらう』など、患者さんの乳房再建への戸惑いの声が届いています」
「E-BeC」が行ったアンケート調査のなかの「社会の理解度」の項目では、再建への周囲の人の認知・理解度がまだまだ低いことがわかりました。
「え? 再建するの?」と驚かれることが多いところから、再建の悩みがはじまった」とか「乳がんの友人はいても、再建した人が周りにいない。再建することへの理解が周りにほしい」、「しなくてもいいじゃないかとか、私ならしないと言う人が多く、それを押し切って再建するのに勇気がいる」など、「地方在住者のこえ」「首都圏在住者のこえ」などを取り上げました。
最後に、乳房再建術について下記の提案がありました。
①社会に広く乳房再建手術が保険適用になっていることを知ってもらうことで、決して特別な手術ではないことを理解してもらう。
②乳腺外科医や医療スタッフから、患者さんに1度きりではなく、さまざまなタイミングで乳房再建手術について伝えてもらう。
③医師や医療スタッフからの前向きな情報提供であれば、患者本人のみならず、周囲も納得できる。
④メディアで乳房再建に関する情報を取り上げてもらう。
真水さんは乳房再建の啓発の必要性を強調して話を締めた後、演者4人の質疑応答でセミナーは終了しました。