家族外来・遺族外来 家族や遺族の精神症状を医学的にケア
苦しいのは患者だけではない 家族に「第2の患者」以上の位置づけが必要
がんを宣告され、つらい治療を受け続ける患者さんの精神的負担は大きい。一方で、闘病を支える家族も大きな心理的負担に襲われる。そして、大切な人を亡くしてしまった後の心理的苦痛も非常に大きなものである。全国で初めて「遺族外来」を開設した埼玉医科大学国際医療センターの専門家に、現況と対策のあり方を聞いた。
「家族・遺族外来」は悩み相談でない
「社会保障制度やがん治療の説明を行う『がん相談センター』とは違い、ここでは医学的に精神面をケアします。ほかの医療機関でも行われていると思いますが、本センターの特徴は、診療科として『家族外来』『遺族外来』を打ち出していることです。わかりやすいせいか、関東のみならず東北や関西から来られる方々もいます」
埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科教授の大西秀樹さんは、この領域の潜在需要が高いことを指摘した。家族の世話に追われて自分自身が診療対象であることに気付かなかったり、気付いてもどこに相談していいか躊躇したりするケースも多いという。
「家族は『第2の患者』と呼ばれることもありますが、それでは不十分で患者さんと家族を一単位で診なければ治療効果は上がりません。家族がうつ状態だと患者さんにも影響が及ぶことがあります。家族もケアすることで初めてきちんとした治療が成立します」
2007年の開設以来、これまでの受診者数は家族外来120例、遺族外来195例に及ぶ。治療費は保険適用であり、通常の保険診療の範囲内である。
看病のつらさは日常生活に現れる
どのような経緯で受診に至るのだろうか。大西さんとともに外来で診療に当たる石田真弓さん(臨床心理士)は、「1番多い受診理由は不安で、次が『どう対応していいかわからない』ということです」と、その出発点を指摘する。
家族の症状は、待つ・見守るという状況が続くこと、患者さんの責任を負うこと、さらに看病が続くことで家族や社会から孤立してしまうこと……などで悪化する。見た目で、日常生活に困難が出てくる。身の回りのことや家事ができなくなったり、化粧や服装に気を遣わなくなったりということが多い。患者さんとともに通院したり、入院時の世話をしている家族の様子に変調を感じると、医師や看護師が「精神腫瘍科に家族外来もありますよ」と紹介する。本人も患者さんも抵抗なく受診するという。
家族の抑うつ度は患者と同等かそれ以上
大西さんは、がんが家族に及ぼす影響として、身体面、精神・心理面、社会面、実存面に大別し、それぞれを分析(表1)。
「精神・心理面では、抑うつの程度は患者さんと同等またはそれ以上で、改善と悪化を繰り返しながら継続します。がんサバイバー(生存者)においても家族の苦悩は認められ、その程度は患者さんと同じかそれ以上です」と解説する。
実存面では、人生の目的や意味、「なぜ自分だけ……」といったことについて苦悩することが多く、診断、退院、再発などの節目や苦しむ様子を見たときに生じることが多い。
解決法をともに考える ワンポイントアドバイスも
どのようなケアが行われるのか。
「話を聞くことです。その中で精神疾患の症状である眠れない、滅入っている、だるい、集中力や意欲の低下などを拾っていきます。適応障害、うつ病などでは症状に合わせて精神療法や薬物療法を行います」(大西さん)
カウンセリングとしては、話を聞くことで家族の苦悩や問題点を理解し、解決の方法を一緒に考える。自分たちの看病が正しいか迷っていれば、検証した上でアドバイスし、無力感に悩んでいたら、傍にいることだけでも大切なことだと伝える。ワンポイントアドバイスとして、患者さんに吐血がある場合には、本人の視覚的インパクトを減らすために青や緑色のタオルを用意することを提案するだけでも、視野が広がり自信が湧くこともあるという。
大西さんは夫が末期の胃がんと診断された40代の女性の例を挙げた。憔悴した様子を見たスタッフに勧められ受診となった。
「精神的に参っている夫を見るのがつらい」「将来を質問されても答えられない」……との理由で不眠や不安が生じ、生活にも支障をきたしていたので適応障害と診断した。しかも女性本人が数カ月前に乳がんの手術を受けて通院中だということもわかった。
大西さんは「精神的な要因が今後の乳がん治療に関係するという報告もあるから、きちんと精神的ケアを受けたほうがいいですよ。ご主人のケアは医療スタッフと共同で行うものだから積極的に相談してください」と話し、少量の抗不安薬を投与した。
その結果、次第に症状は回復し、夫の介護への不安が増強することがなくなり、自身のケアを考える余裕も生まれていった。「精神的に悩む家族のプロフィールを知ることも大切なことです」