がんの痛みは我慢しないで!
「痛み伝達シート」を活用し、生活の質向上を目指そう

監修●山口 崇 手稲渓仁会病院総合内科・感染症科医長(緩和ケアチーム)
取材・文●文山満喜
発行:2012年7月
更新:2015年7月

  

山口崇さん
緩和ケアの研究にも
熱心に取り組んでいる
山口 崇さん

痛み治療を受けることで、QOL(生活の質)を向上することができます。そして、それはより効果的ながん治療を受けられる体力を維持することにもつながっていきます。痛みは我慢するものと考える患者さんが多い日本で、「がんの痛み伝達シート」など痛みの自己評価ツールを活用しながら、痛みの除去に取り組む手稲渓仁会病院・緩和ケアチームに痛み治療の実際を聞きました。

痛みの自己評価ツールを使って患者さんの痛みを可視化へ

がんになると、病気の進行度などにかかわらず、さまざまな痛みが発生します。しかし、患者さんの多くは痛みを我慢しながら、がんの治療だけを行っていることもまだまだ多いという現状があります。

がんによる体の痛みや、社会生活を営む上での苦痛や不安を取り除く医療のことを「緩和ケア」といいます。この緩和ケアに日々取り組んでいる手稲渓仁会病院・緩和ケアチームの山口崇さんは、「海外の研究結果では医師・看護師などの医療者へがんの痛みを訴えないほうが良いことだと考える患者さんは多いと報告されているのですが、国内でも同じようにがんの痛みくらい我慢しようという傾向があるようです」と話します。

しかし、痛みを我慢しすぎると、食事がとれない、眠れないなど日常生活に支障が出てしまったり、体力を失った結果、がん治療そのものに影響を及ぼす可能性もあります。

[図1 がんの痛み伝達シート]
図1 がんの痛み伝達シート

このシートは「ホームページ;がんの痛みはがまんしない」
http://www.shionogi.co.jp/itami/index.html でダウンロードできます

がん患者さんたちの痛みの状態を把握し、その痛みを取り除こうと、手稲渓仁会病院・緩和ケアチームで積極的に活用しているのが、がんの痛みの自己評価シートです。

自己記入式の痛みの伝達シートは様々なタイプがあり、各医療機関もしくはホームページ・「がんの痛みはがまんしない」などで入手することができます。このホームページで入手できる「がんの痛み伝達シート」(図1)では、痛みを0から10の11段階に分け、痛みなしを0点、最高の痛みを10点として、現在の痛み(1日の平均値)を数字で表現してもらい、医療者に伝達するものとなっています。

手稲渓仁会病院・緩和ケアチームでは、こういった痛み伝達シートを上手く活用しています。痛みの伝達シートの中には薬の使用方法に関する説明文が記載されているシートなどもあるため、使用中の薬に合わせたシートを使うといった工夫がされています。

見えないがんの痛みの程度を数字にすることは、医師にとって患者さんの自覚症状を判断する材料となります。

手稲渓仁会病院では痛みの伝達シートを利用しながら、最初の診察時に現在の痛みのレベルとがん治療を通院でも継続できるレベルについて、それぞれ目標を患者さんと確認しています。

「患者さんの中には、苦痛に顔をしかめながら私の痛みは3ですと言う人もいれば、不自由なく歩いていても痛みは10ですと言う人など、痛みの表現は千差万別です。しかし、伝える数字は違っても見えない痛みを数値化することは、薬剤量の調整などの判断の指標にもなります。自宅療養を目指す患者さんをサポートする私たちにとっても、痛みを可視化できる痛みの伝達シートはとてもよいツールといえます」(山口さん)

痛みを取り除くことで歩けるようになる患者さんも

[図2 緩和ケアチーム依頼件数の推移](入院のみ)
図2 緩和ケアチーム依頼件数の推移(入院のみ)
 
[図3 緩和ケアチーム依頼件数](診療科別)
図3 緩和ケアチーム依頼件数(診療科別)

緩和ケアチームの年間患者数は、約160人(病棟)。外科、消化器内科、産婦人科、泌尿器科など他科から紹介されたがん患者さんを中心に痛み治療にあたっています(図2・3)。

「強い痛みで歩けなかった患者さんがケア後には歩いて帰れるようになるなど、よい効果が出ていると思います」(山口さん)

がんの痛みを取り除く治療としては、主に①薬物療法②神経ブロック③放射線療法④リハビリ──などの方法があります。

とくに痛み治療の中心となるのは、医療用麻薬を成分とする鎮痛薬などを用いた薬物療法です。医療用麻薬は、その特徴として強力な鎮痛効果がある一方、便秘、吐き気、眠気などの副作用を伴います。

痛みのコントロールが安定期に入ると、帰宅後の生活面での工夫などを患者さんと相談していきます。

たとえば、家事については他のご家族に極力手伝ってもらう、長距離を歩く場合は歩行器や車椅子を使うなど、痛みを取り除く方法だけでなく、体に負担をかけずに生活を送れるような環境を整備する知恵なども提案しています。

がんの痛みは「我慢しない」

麻薬性鎮痛薬に関して「怖い」「終末期の薬」などといったネガティブなイメージを漠然ともっている患者さんは多いですが、麻薬性鎮痛薬などを中心とする緩和ケアは現在、がんの根治治療に対するサポーティブケア(支持療法)という位置づけとなっています。

がんの痛み治療の第一の目的は患者さんのQOLを高めることですが、痛み治療はより効果的ながん治療を受けられる体を維持することにもつながっていきます。

「医師に言いづらければ他のスタッフでもいいので、がんの痛みは我慢せずに伝えてほしいと思います」(山口さん)


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