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異常を感じたら、すぐに眼腫瘍の専門医へ
眼の摘出は避け、QOLを考えた治療を!

監修:金子明博 横浜市立大学付属病院眼科医師
取材・文:菊池憲一
発行:2012年4月
更新:2015年2月

  
金子明博さん 眼のがんはQOLを見越した
治療が重要と語る
金子明博さん

眼は複雑な器官だ。非常に稀であるが、眼の内部や外部にも腫瘍はできる。
基本は手術だが、現在、なるべく眼を温存する、患者さんのQOLを考えた治療が行われている。


まぶたのがん 眼球を保護しながらの治療も

[眼のがん]
眼のがん

眼は複雑な器官であり、眼球と視神経のほか、眼瞼(まぶた)、結膜、涙腺などがある。

「眼のがんは、非常に稀で、1975年のデータによれば年間死亡者数は54名とそれほど多くはありません。ただ、眼のがんは患者さんの外見やQOL(生活の質)に大きく関わってくるので、治療も難しいのです」

こう話すのは、元国立がん研究センター中央病院眼科医師で、現在横浜市立大学付属病院などで眼のがん治療に携わっている金子明博さんだ。

眼のがんの中で、成人に頻度が高いのはまぶたのがんだ。まぶたのがんは大きく3種類あり、基底細胞がん、脂腺がん、扁平上皮がんの順で発生頻度が高い。基底細胞がんは、黒い盛り上がりや潰瘍形成など種々な様相がある。転移はしないが、放っておくと徐々に大きくなり、さらに深く広がり組織を破壊していく。

[まぶたのがんの電子線治療]
まぶたのがんの電子線治療

まぶたのがんの電子線治療では、眼球を保護するため、まぶたの裏に鉛の保護板を入れて照射する

一方、扁平上皮がんは、リンパ管の流れを介して、転移することがある。

脂腺がんは、涙の蒸発を防ぐ目的で脂肪を分泌するマイボーム腺などから発生する。悪性度は、ほかのまぶたのがんよりも高く、しばしば所属リンパ節に転移する。

「霰粒腫と呼ばれる良性腫瘤と間違われることもあります。霰粒腫は、まぶたの中に小豆大ほどのやや固いしこりができる病気です。疑わしい場合は病理診断をして、きちんと鑑別することが大切です」と金子さんは話す。

まぶたのがんの治療は、基本的に腫瘍が小さければがんのところだけを切除する。ただし、ある程度大きくなると、まぶた全体を切除しなければならず、QOLが損なわれる。そこで、金子さんは、脂腺がんに対して、電子線治療を行い、まぶたを温存する治療を行っている。眼球を電子線から守るため、厚さ4~5㎜の鉛の保護板をまぶたの裏に入れて、照射をする。毎日少しずつ、6週間ほどかけて治療する。機能面や外形面でも、ごく自然な形で治すことができる。「手術で完全に切除したほうが再発率は低いが、手術を受けるのが嫌な場合や、高齢や体調が悪い人などは、電子線治療は治療法の選択肢の1つになります」と金子さんは説明する。

結膜にできるがん 炭酸ガスレーザーが有効

[結膜にできた扁平上皮がん]
結膜にできた扁平上皮がん
 
[炭酸ガスレーザーを使用した結膜メラノーマの眼球保存療法]

炭酸ガスレーザーを使用した結膜メラノーマの眼球保存療法

炭酸ガスレーザーを照射して、がんを蒸発させる治療法。この治療法なら、眼球の全摘出をしなくてすむ

結膜とは、まぶたの裏側と眼球の白目の表面を覆っている薄い膜をいう。眼球の表面の白目の部分からは扁平上皮がんが発生する。とくに黒目と白目の境界から発生することが多く、薄い白色で半透明な膜として広がり、徐々に盛り上がってくる。

治療の基本は、手術となる。がんができている範囲が広い場合には、再発を防ぐために、手術した部分とその周囲にマイナス70℃に冷却した金属棒をあてて、がんを消滅させる冷凍凝固療法を行うこともある。

がんが薄く広がっている場合には、抗がん剤のマイトマイシン()、5-FU()の点眼も有効だ。1日4回ほどの点眼を行う。医療保険の適応外だが、インターフェロン(一般名)も有効。入院しなくても、通院で治療ができる。

また、結膜のがんではメラノーマ(悪性黒色腫)もしばしば発生する。初期では痛みなどは全くなく、進行して初めて違和感や出血などが起こる。

治療としては、手術や冷凍凝固療法などがあげられるが、がんが広い範囲に多数存在し、手術と冷凍凝固療法だけで治療することが困難な場合、マイトマイシンによる点眼を行う。

進行している場合、眼球の全摘出を行わなければならないが、初期であれば、炭酸ガスレーザーを使った眼球温存療法も行われている。

「がんの大きさがあまり大きくなければ、炭酸ガスレーザーを照射して、腫瘍を蒸発させる治療法もあります。場合によっては外来で治療できますし、視力の低下はありません。眼の摘出は患者さんの形態面、機能面の両方でQOLを著しく低下させます。外見や視力のことを考えると、個人的には炭酸ガスレーザーによる治療を推奨します」

マイトマイシン=一般名マイトマイシンC
5-FU=一般名フルオロウラシル

眼窩のがん 重粒子線治療にも期待

眼窩とは眼球がおさまっているくぼみのこと。ここには、眼球と、その周囲のさまざまな小さな器官や組織が存在し、ここにもがんは発生する。

眼窩にできたがんのために眼球突出や、眼球の動きが妨げられ、物がずれて見える、視力低下などが現れる。涙腺に腫瘍ができる涙腺がんは神経に沿って浸潤するため、痛みを伴うことが多く、周囲の組織に浸潤し、悪性度が高い。

かつては眼球とまぶたをすべて一緒に切除するような手術が行われていたので外見が悪かった。しかし、大きく切除しても再発しやすく、「現在はがんの部分だけを切除し、なるべく温存する治療法を選択します」と金子さん。

新しい治療法として、重粒子線治療も検討されており、現在、涙腺がんが再発した場合の治療として、重粒子線治療が先進医療として行われている。

[涙腺がんに対する重粒子線治療の効果]

涙腺がんに対する重粒子線治療の効果

治療前と治療3年後の様子。
左眼にあったがんが明らかに小さくなっているのがわかる

(写真提供:帝京大学眼科教授 溝田淳氏)

[涙腺がん患者さんの例]
涙腺がん患者さんの例

左眼球の結膜が充血すると同時に、明らかに増大しているのがわかる



 

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