臨床試験ガイド❷
服薬規定などは厳しい 医師やCRCとの連係が大切
宋 菜緒子さん
先月号では臨床試験や治験とは何かという基本を振り返った後に、どのような人が選ばれるのかということを見てきた。今号では、臨床試験が終わるまでを解説する。
適格基準は満たしているか
今回も企業が新薬の承認を目指すための「治験」を例に述べるが、医師主導の臨床試験でも基本は同じだ。
前回のおさらいになるが、患者が治験に参加する経路は大きく2つある。1つは、担当医が治験を行っているケースで、患者に治験参加という選択肢を提示するケース。もう1つは、患者がインターネットのサイト(国立がん研究センターなど複数)などで治験情報を得て、担当医に相談し、紹介状を書いてもらう、あるいは直接実施機関に問い合わせるという形で治験を行っている施設(病院)を訪れるケースがある。
治験に参加する(できる)かどうかは、試験ごとに定められている適格基準という、病状やそれまでの治療歴、既往歴、合併症などの条件による。参加を希望しても事前検査や治療歴がその条件に合わないことが判明した場合には、治験に参加することはできない。
ネット情報が参加のきっかけになることも
このように書くと、治験参加希望者にはハードルを高く感じさせてしまうが、初動におけるインターネットによる情報収集の大切さは、がん研有明病院の臨床研究コーディネーター(CRC)の宋菜緒子さんも強調している。
「担当医に治験のネットワークがない場合には、患者さん個人の情報収集能力が必要です。その時点で行われている治験を一覧できる信頼できるサイトはいくつもあります。病院のホームページで進行中の試験の情報を掲載しているところもあります。また、親族が情報をキャッチして参加したという人がいたり、製薬会社に問い合わせるような積極的な人もいたりします。担当医もいい顔をしないタイプの人もいるかもしれませんが、行かないで諦めるよりは、意思を強く持ってセカンドオピニオンにかかることが大切です。自分が条件に合うかどうかは確実にはわかりません。それでも希望されるのであれば、まず、来て話を聞くことから始まると思います」
より重視されるインフォームド・コンセント
インフォームド・コンセントとは、一般的に患者が治療や処置等について医師や看護師から説明を受け、その内容を十分に理解した上で治療に同意する一連の過程のことをいう。治験では、未承認の薬剤を使うという事情から、より重視される。
医師から治験についての説明があり、説明文書と同意書が手渡される。説明文書には、治験の目的や方法、検査や治療のスケジュール、メリット、デメリット、試験期間などが記載され、患者に守ってもらいたいことも書かれている(表1)。
実はこの、「患者さんに守ってもらいたいこと」が重要だ。患者は治験の対象という受け身の姿勢ではなく、積極的な役割を果たしていかなければならない。
「服薬方法や通院については、義務的なことや制約もお願いしなければなりません。それを納得していただいた上で治験に参加するかどうかを決めてもらいます」
そして、何よりも信頼関係が大事だという。
「医師とは診察時間が短くて十分なコミュニケーションを取るのが難しいので、その橋渡し役となるのが我々CRCです。直接質問しにくいことや不安なことを相談していただきたい。ご自身の身体をあずけられるという信頼関係がなければできません」
患者にとっては、参加することで新しい治療法を受けられる可能性がある一方で、まだわかっていない副作用などの不利益を被る可能性があること(表2)を理解した上で、さらに自分に課された〝義務〟も理解しなければならない。迷ったときには宋さんのようなCRCに納得のいくまで相談するとともに、家族などにも助言を求めることも大きな助けになる。
「自分の生活をそれほど乱すことなく入れる人が長く続けられます。制約を知ると『調整する』という方が多いですね。化学療法のイメージもバラバラなので、研究的要素を理解するのも大事ですが、副作用とか、患者さん個人としての生き方がどうありたいのかがもっと大事です」
治験に入ったら
治験に入ったら患者は「被験者」となる。治験は、薬剤の安全性や有効性を測定するために検査内容や治療スケジュールが細かく定められ、試験実施計画書(プロトコール)にまとめられている。被験者はその計画通りに治療を受けなければならないし、治療中にいつもと違う症状が現れた場合には、迅速な対応が必要となる。
入院が必要な場合もあるし、通院治療の場合は、診察や検査等のための来院スケジュールが決まっている。決められたスケジュールに従い、診察や検査を受けなければいけないことや、CTや心電図、X線(レントゲン)など通常の治療よりも多くの検査を受ける必要があるため、待ち時間も長く負担と感じることがあるかもしれない。ここでもCRCが相談に乗ってくれる。