患者からの話 乳がん患者の脱毛の悩みを解消!
自分らしさを取り戻す、医療向けウィッグの大切さ
自分に合ったウィッグを選ぶことで、見事に脱毛のショックを乗り越えた乳がん体験者の栗橋登志さん。これを見れば、ウィッグ選びがいかに大切かがわかります。そこで、栗橋さんに「体験的後悔しないウィッグ選び」を伺いました。
* 化学療法後の脱毛~発毛には個人差があります。
2008年、市の乳がん検診で見つかる。術後化学療法ではEC療法*×4回、タキソテール*×1回をするも副作用が激しく中止。放射線療法ののち、現在はホルモン療法ノルバデックス*を継続し3年経過。現在は3カ月に1回の通院中。2011年に、「St. Mariannaしんゆり リボンズハウス」を設立、副代表としてがん患者さんの治療と生活と地域をつなぐ活動を行っている。52歳
*EC療法=エピルビシン・シクロホスファミドを併用した化学療法 * タキソテール=一般名ドセタキセル * ノルバデックス=一般名タモキシフェン
治療前と変わらない前向きな自分
脱毛で落ち込んだ栗橋さんに、「自分に合ったウィッグを作ろう」と思わせたのは、娘さんでした。当時15歳だった娘さんは、変わっていくお母さんに目を合わせることができなかったといいます。
「娘は私にどう声をかけたらいいのか分からなかったんです」
治療が始まると脱毛することは、事前に娘さんに伝えていました。それだけに栗橋さんは、自分以上に家族が戸惑う姿を目の当たりにして、大きなショックを受けました。
このままではいけないと思った栗橋さんは、「一緒にお店に行って、ウィッグを選んでほしい」と娘さんに頼み、2人でウィッグ選びに出かけました。
すると娘さんは「お母さんに似合うウィッグを私が選んであげられるんだ」と思ったそうです。これをきっかけに娘さんは大きく変わりました。
「お母さんは大丈夫なんだよ」と娘を安心させられて本当に良かったと、栗橋さんは振り返ります。患者である母親がいつもニコニコと笑顔でいることが、どれだけ家族を安心させることか。そのためには、患者が自信を持って生活すること。自信を持つには、それまでの自分と変わらない自分でいること。変わらない自分でいるには、自分に合ったウィッグを作ることが大切なことなんだと実感しました。
そこで、患者の皆さんがウィッグを選ぶにあたって失敗しないように、栗橋さんの「体験的後悔しないウィッグ選び」を紹介しようと思います。
脱毛前の準備は大事
脱毛が始まったのは、抗がん剤投与後の10日目でした。医療関係の仕事に従事していたため、心の準備はできていました。脱毛に備え、まず自髪を短く切りました。
教訓①「ある程度の自髪の重さがあると、頭皮がチクチクする感覚が少ないため、髪は切りすぎず、肩にかかるくらいがちょうどいい」
脱毛が始まって1週間ほど経過したころ、髪がゴッソリと抜けました。さすがに不安と焦りを感じました。事前に情報を得ていたので、抗がん剤治療開始前にはしっかりとウィッグの準備をしたのですが、初めに用意したそのウィッグは、選ぶポイントを知らなかったため、本当に納得して手に入れたものではありませんでした。
実際に付けてみると、鏡に映った姿は「自分」ではありませんでした。それからというもの、栗橋さんは人と会うのがイヤになってしまい、道で知人とすれ違っても気づかないフリをするようになってしまったのです。元気で外交的な自分が、不安で憂うつな自分に変わっていく……。そんな栗橋さんにショックを受けたのが、1番身近で変化を感じ取った娘さんでした。
教訓②「ウィッグは自分に合ったものを選ぶ」
自分に合ったウィッグを選ぶには
栗橋さんは副作用が強く出たため、抗がん剤治療は中止となりました。そして放射線治療終了後に、ウィッグを新たに購入することにしました。
「『それまでの自分と変わらない自分』を目指すには、セミオーダーウィッグと呼ばれる、乳がん仲間が着けていた素敵で自然に見えるウィッグと同じ種類のウィッグがいい」と娘と相談して決めました。
ウィッグのサイズ調整やヘアスタイルが自由に作れるからです。単に見た目だけで購入するのはいけません。実際、髪が抜けていくと、その分ウィッグと頭にズレが生じ、シルエットも変化しました。そのためウィッグのサイズ調整が必要になりました。新しく購入したセミオーダーウィッグはサイズ調整が可能だったため、髪が減った場合も逆に自髪の回復時期も調整できたのです。
教訓③「治療前と変わらない自分でいるために、ウィッグはサイズ調整やスタイル作りが自由にできるものを」
また、発毛が始まっても前髪だけはあまり生えてきませんでした。そのため、どうしても前髪が立ってしまい、ヘアスタイルが上手くセットできず困りました。
しかし、その点で助かったのは、購入したウィッグ専門店に併設された個室の美容室を利用できたことです。そこには治療前後の頭皮ケアに詳しい専門の美容師がおり、その人と相談しながらスタイリングを施すことで、自髪のお手入れを同時にしてもらい、自分に合ったヘアスタイルを維持することができました。医療向けウィッグの場合、購入後のこのようなサポートがないと、安心して治療に専念できる環境がつくれず、不安な毎日をすごすことになりかねません。栗橋さんは今回の経験を通して、自分に合わないウィッグだと自分らしさを失い、むしろ逆効果になってしまうとわかりました。
教訓④「医療向けウィッグこそ、本当に自分に合ったものを選ぶ」
後悔しないウィッグ
結果的に2度買いすることになったものの、新たにスヴェンソンで作ったウィッグにまったく後悔はありませんでした。「それまでと変わらない自分」になれたこと、そしてなによりも娘を安心させることができたことは、この上なく嬉しかったそうです。ウィッグもいよいよ卒業というある日、娘さんは「ずっとウィッグでいてよ。オシャレでしょ?」と、すっかり母親のウィッグ姿がお気に入りでした。そのため栗橋さんは、冠婚葬祭などで今でも着けているそうです。ウィッグは脱毛ケアというだけではなく、栗橋さんが自分らしく生きるため、そして、家族が明るく前向きに暮らすための大切なアイテムになったのでした。
栗橋さんは現在、仕事の傍ら自らの経験を活かし、がん患者さんの治療と生活と地域をつなぐための活動をしています。衣、食などをテーマに、患者さんが地域で安心して暮らせるよう働きかけています。もちろん、そのなかでウィッグの大切さも発信しています。
* DOC=一般名ドセタキセル