がん看護専門看護師 山田みつぎの
副作用はこうして乗り切ろう!「抗がん薬治療中の脱毛」

髪の毛が抜けるショック、それは他の副作用とは種類の違う苦しみです。抗がん薬治療が終われば、また生えてきます。今はつらいけれど、ウイッグや帽子でオシャレを楽しみながら、新しい髪の毛を待ちましょう。
なぜ脱毛するのか?

抗がん薬治療をする患者さん、とくに女性患者さんの、苦痛に感じる副作用の第1位に「頭髪の脱毛」があげられています。そこで、まず、なぜ抗がん薬を投与すると脱毛するのかを説明しておきましょう。
抗がん薬は、分裂が盛んな細胞に集まって行く特性があり、正常細胞よりも細胞分裂が活発ながん細胞に大きく作用するのです。
ところが、正常細胞の中にも、分裂が非常に活発なものがいくつかあり、それらは、がん細胞と同様に抗がん薬によって強いダメージを受けてしまいます。その1つが、毛根にある毛母細胞なのです。
では、毛母細胞とは何でしょうか。
毛髪が抜けると、毛根が白く丸くなっています。この丸い部分が毛母細胞。その中には毛乳頭があり、そこは神経や毛細血管が集中していて、毛髪の成長に必要な栄養素や酸素を取り入れています。そして毛母細胞は、毛乳頭からもらった栄養や酸素をもとに、活発に細胞分裂を繰り返して、毛髪が伸びる仕組みになっています。
そこで、投与された抗がん薬が、血流に乗って細胞分裂の盛んな毛母細胞に集まってきてしまい、その結果、毛母細胞が劣化して毛髪が抜けてしまうというわけです(図1)。
治療開始前にショートヘアに


脱毛を引き起こしやすい抗がん薬もわかっています。
タキサン系の*タキソテールが一番強く、*カルセド、*アドリアシン、*キロサイド、*ベプシド、*タキソール、*メソトレキセートと続きます(表2)。
*シスプラチンや*カルボプラチンなどのプラチナ製剤はあまり脱毛しないことが知られていますが、抗がん薬治療の第1選択肢としてタキサン系のタキソテールやタキソール、アンスラサイクリン系のファルモルビシンやアドリアシンが使われることの多い、乳がんや婦人科系がんの場合、まず脱毛すると思っていただきたいのです。
とくに、タキソテールやタキソールは、6~7回の治療で、毛髪だけでなく、まつげや眉毛などの体毛もほとんど抜けてしまいます。ですから、あらかじめ心の準備をして、それと共に帽子やバンダナ、ウイッグなどを事前に準備していただきたいと思います。
眉毛は、全部抜けてしまうと非常に描きづらいので、以前の自分の写真を手元に置いて、参考にするとよいと思います。場合によっては、タトゥーを効果的に使う方法もあります。加えて、つけまつげ、つけ眉毛といった対処法もあります(写真)。
また、抜け始めたときのショックを少しでも軽減するために、抗がん薬治療開始前に、ショートヘアにしておくことを強くお勧めします。そのとき、同時に同じようなスタイルのウイッグを作っておくといいでしょう。
*シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ *カルボプラチン=商品名パラプラチン
脱毛の本当の苦しみとは
抗がん薬治療が始まって3週間ほどすると、突然、脱毛が始まります。頭皮がピリピリしたり、ゴワゴワしたり、引っ張られるような感覚があったら、それが脱毛が始まるサイン。その直後、いっきに抜けます。
とはいえ、脱毛はあくまでも抗がん薬治療による一過性の副作用。治療が終われば、1~2カ月で毛母細胞は再生し、3~6カ月で発毛し始め、8カ月から1年ほどでほぼ回復します。
たとえ抗がん薬を、長期投与を続けていても、2~3カ月で毛母細胞が抗がん薬に耐えられるようになり、徐々に髪の毛は生え始めます。しかし、抗がん薬治療が終わっても、頭頂部が生えない人が、数%いることは事実です。
また、脱毛には他の副作用とは明らかに違う点があります。それは、毛髪が抜けるという見た目の大きな変化はありますが、痛みや吐き気といった〝身体的苦痛〟を伴わないことです。しかも、たとえすべての毛髪が抜けたとしても、前述のとおり、数カ月後には毛母細胞が回復して、新しい毛髪が生えてきます。そのために、医療者にはそれほど重要視されない傾向があります。
しかし、患者さん、とくに女性患者さんの脱毛よる〝精神的苦痛〟は、決して軽視してはならないと思っています。
男性はもともと短髪なので、それほどでもないのですが、女性の場合、たとえ前もって覚悟していたとしても、いざ髪の毛が抜けたときの精神的ショックはとても大きく、著しい免疫力低下を引き起こしてしまうことも少なくありません。
同じカテゴリーの最新記事
- 症状が長く続いたら感染併発やステロイドの副作用を考える 分子標的薬による皮膚障害
- 手術や術後化学療法を受ける前に知っておきたいこと 大腸がん術後の副作用を軽減する
- 免疫チェックポイント阻害薬は、発現しやすい副作用を知っておくことが大事
- 免疫チェックポイント阻害薬の副作用対策 早期発見・早期対応のために必要なチーム医療
- 本邦初となる『がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2016』の内容をひも解く
- 外来がん化学療法副作用対策 薬剤師外来の活用で安心のできる化学療法を
- 制吐療法の新しい展開 薬剤師主導の臨床試験で第2世代制吐薬の優位性を証明
- 進行肝がんに対するネクサバールのマネジメント
- 副作用はこうして乗り切ろう!「むくみ」
- 副作用はこうして乗り切ろう!「性機能への影響」