患者側からの要望 1人で悩む患者さんがいなくなるように

もっと気軽に患者さんが心のケアを受けられるには

監修●神奈川県立がんセンター 患者会「コスモス」
取材・文●常蔭純一
発行:2015年1月
更新:2015年3月

  

「患者会に参加して、仲間がいると感じられることは心強いものです」と話す患者会コスモスの世話人代表の緒方真子さん(右端)とみなさん

がん患者さんは、あらゆる時期において気持ちが落ち込んだり、悲観的になったりすることがある。患者さんたちは心のケアについて、どう受け止めているのだろうか。神奈川県立がんセンターの患者会「コスモス」のみなさんに、その現状と要望について聞いた。

「がんかもしれない」ときから心の揺れは始まる

「がんの治療中は、眠れない、食欲がない、仕事に身が入らない、テレビを見てもボーッとしているなどの症状で悩む方がたくさんいます。一番つらい時期は人によって様々ですが、私の場合は、『がんかもしれない』と言われたときでした」

こう語るのは、多様ながんの患者が参加する神奈川県立がんセンターの患者会コスモスの世話人代表、緒方真子さんである。

一般には、がんを患うことで生じる不安は、がん告知から始まると考えられがちだ。しかし、多くの患者はそれ以前から、心が揺らぎ出していると緒方さんは言う。

「21年前、検診でがんかもしれないと言われたときの不安は、今でも忘れられません。当時、私は夫に同行して海外で暮らしていました。夫を支えなければならない妻ががんになることなど、あってはならないことでした。そのため心の内を誰にも打ち明けられず、一人で得体の知れない不安と向き合い続けていました。がんとわかったときは、自らの状態を確認できたことで、ほっとしたほどでした」

「がんかもしれない」と言われてから診断されるまでの間は、なんとも不安定で、宙ぶらりんな状態が続く。緩和ケアはがんと診断されたときから始まり、図1のように説明されるが、患者の立場から言うと、この図は納得できるものではないと、緒方さんは言う。

「『がんかもしれない』時期から心のケアが必要だと思います。また、この図はやがてターミナル(終末期)としての緩和ケアに身を委ねるというイメージを感じます。

今でも少なからずの患者が、緩和ケアには抵抗があるようです。この図にあるような緩和ケアが、自分を対象にしているとは考えにくいのではないでしょうか。今、頑張っている自分の延長線上のどこかに、『治療がなくなる自分』や『ターミナルとしての緩和ケアに身を委ねる自分』は受け入れづらいのです」

そこで、緒方さんは患者会のみなさんとのかかわりの中から、こんな図を考案した(図2)。

「『がんかもしれないとき』も『がんの治療中』も『がんの治療から解放さたとき』も、すっぽりと覆われる緩和ケアであったなら、もっと気軽に緩和ケアを受け入れられるのではないでしょうか。緩和ケア、心のケアが親しみやすく身近になることで初めて、深刻な状況(ターミナル)の患者にも心のケアが抵抗なく届くように思います」

図1 がんの治療と緩和ケアの関係
図2 緒方さん考案のがんの治療と緩和ケアの関係

担当医の言葉や対応で 患者の心が折れることも

コスモスは設立から10年を超える患者会。現在はNの集い(乳がん患者の会)をはじめとして遺族の集い、肺がん患者の集いなどの分科会もあり、がんセンターだけでなく神奈川県内のほかの医療施設の患者や、インターネットを見て県外から参加される患者も少なくない。

八谷時子さんは、15年前に25歳だった長女が急性リンパ性白血病で他界。今はコスモスの会の分科会である遺族会の世話人をしている。当時を振り返り、八谷さんは「主治医との信頼関係がなかなか築けなかった」と言う。

「娘は大学病院で治療を受けていましたが、担当医は多くの患者を抱え、事前に予約をとらないと相談することができない状況でした。発病から1年間は告知せず、骨髄移植を受ける前に、告知することになりました。娘は病棟の看護師さんと親しくなったので、入院中に告知をして欲しいとお願いしました。おそらく動揺すると思ったので、看護師さんの協力を得たかった。看護師さんは快く引き受けてくれて、『大丈夫ですよ。私たちが見守ります』と言ってくれました。

ところが、先生の都合で退院後の外来診察の合間に告知することになりました。病棟から看護師さんが来て娘の側にいてくれましたが、大切なことなのに簡単に済ませてしまい、やるせない思いがしました」

がん患者にとって担当の医師ほど大切な存在はない。ところが、担当医とのかかわりの中で、心が折れそうになる経験をしている患者は少なくない。

「ただ、担当医は簡単に代われるものではありません。同じ医師でも「話しやすい」と感じる人と、そう感じない人がいる。相性の問題もあることと思われます。コスモスでは患者同士がどう先生とコミュニケーションをとったらいいか情報交換をして、うまくかかわっていくように相談したりします」(緒方さん)

コスモスの分科会「Nの集い(乳がんの会)」の世話人リーダーである松沢千恵子さんは、県内の総合病院で治療を受けた。

「私の場合、検診でマンモグラフィの結果を見て、乳がん専門医を受診したほうがいいと言われました。乳がん患者は8人に1人というアメリカに長く住んでいた私は、がんとわかっても、頭が真っ白になることもなく『そうなのか……』と、淡々と受け止めました。

ところが手術後、がんが予想以上に広がっていることがわかり、10年生存率の説明とともに、抗がん薬・放射線治療が必要だと言われました。このときはがんとわかった以上にショックでした。入院中であり、インターネット等で情報を得ることもできなかったので不安でした。抗がん薬については薬剤師さんから説明されましたが、担当医からもきちんと説明して欲しいと思い、その旨を手紙に書いてお渡ししたら、先生は私が抗がん薬を受ける前に、しっかりと私に向かい合って説明してくれました。

緒方さんは言う。「検査結果や診断結果がいいとき、つまりGood Newsを担当医から聞けるとき、患者はほっとし、担当医に対して好意的になります。ところがその反対のBad Newsだと、医師との信頼関係が築けていなければ、不満や不快な気持ちになりがちです。Bad Newsでも、『最後まであなたをサポートします』という医師の思いが伝わってくれば、患者や家族は前向きな気持ちになりやすいと思うのです。担当医は患者や家族にとっても、心のケアの最前線と言えるのではないでしょうか」

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