がん患者の呼吸器症状緩和対策 息苦しさを適切に伝えることが大切
呼吸困難などの呼吸器症状は、がんの患者によく発生し、難治性であることが知られている。呼吸困難はあくまで主観的な症状であり、低酸素血症が起きていない人が、息苦しさを訴えることも少なくない。こういった呼吸困難を解決するために、どのような対策が取られるのか、『がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン』(2016年版)に基づいて解説していただいた。
呼吸困難はあくまで主観的な症状
がん患者には、呼吸困難などの呼吸器症状が発生することがよくある。こうした症状が起きると、QOL(生活の質)が低下するのはもちろん、不安や抑うつなどの精神症状とも関連するし、患者の生きる意欲を阻害することにもなりかねない。
「だから適切に治療する必要がある」とがん・感染症センター都立駒込病院緩和ケア科部長の田中桂子さんは強調する。
ただ、ここではっきりさせておく必要があるのが、呼吸困難とは何か、という問題だ。田中さんは次のように説明する。
「呼吸困難は『呼吸時の不快な感覚』と定義されるように、主観的な症状です。患者さんが『息が苦しい』と感じていれば、それが呼吸困難なのです」
注意しなければならないのが、呼吸困難と呼吸不全の混同である。呼吸不全は血液中に含まれる酸素が不足している状態。呼吸不全があれば、多くの場合、息苦しさを感じるので呼吸困難が起きていることになる。しかし、呼吸困難と呼吸不全は必ずしも一致するのではなく、下の図のような関係になっているという(図1)。
呼吸不全の有無は、指につけるパルスオキシメーターで経皮的酸素飽和度を測定したり、動脈血ガス分析を行ったりすることで明らかになる。酸素飽和度または酸素分圧が下がっている、という場合には、呼吸不全があると考えられるわけだ。
「呼吸困難の多くは呼吸不全がある人に起きますが、呼吸不全がなくても呼吸困難を訴える人はいます。本人にしかわからない感覚なので、周囲の人にも、医師や看護師にもわからないことがあります。そこで大切なのが、息苦しさを感じているということを、きちんと伝えることです。呼吸困難があれば、つまり患者さんが息苦しさを感じていれば、呼吸不全があってもなくても治療の対象となります」
呼吸困難には、いろいろな原因があり(図2)、血液検査、胸部X線(レントゲン)検査、場合により胸部CT検査などを行って原因を調べる。
「胸水が増えたり、気道が狭くなったりする(気道狭窄)など、がんに直接関連した原因で起こることがありますし、がんの治療に伴う肺障害が起こることもあります。さらに、がんとは直接関連しない原因やもともとの合併疾患が影響することもあるのです」
呼吸困難を伝える4つのポイント
呼吸困難は医師にきちんと伝える必要があるが、伝えるべきポイントは4つある。「どんなときに」「どのくらい」「どんなふうに」息苦しいのかを伝え、それによってどんな「困っていること」があるかを伝えるようにする。
●どんなときに
「階段を上るとき」「歩いているとき」「話しているとき」「食べたり飲んだりするとき」「休んでいるとき」「横になったとき」「一人になったとき」など、どのようなことをしているときに息苦しさを感じるかを伝える。
●どのくらい
まったく苦しくない状態を「0」、耐えられないほど息苦しい状態を「10」とし、1日の最大値や平均値がどのくらいの息苦しさなのかを数字で伝える。
●どんなふうに
いろいろな息苦しさについて、どの程度当てはまるかを答える「がん患者のための呼吸困難スケール」を用いると、どんなふうに息苦しいのかを伝えることができる(図3)。
●困っていること
「仕事ができなくて」「日常生活が思うようにできなくて」「食事がとりにくくて」「人付き合いに影響が出て」「眠れなくて」「不安な気持ちになって」「これまで楽しめていたことを楽しめなくなって」など、どんなことに困っているかを伝える。