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呼吸器症状への対策:「がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン」を読み解く わかりにくい患者さんの苦しさ。周囲とのコミュニケーションが大切

監修●田中桂子 都立駒込病院緩和ケア科医長
取材・文●伊波達也
発行:2013年4月
更新:2019年11月

  

緩和ケアに詳しい田中桂子さん

がんに伴う呼吸器症状はつらく、厳しい。副作用として生じるケースもある。主観的な苦痛症状であるため診断と対応は難しいが、一昨年出された『ガイドライン』に沿って対応をさぐる。

呼吸器症状でQOL急落

がんによる症状やがん治療に伴う副作用はさまざまだが、そのなかでも、患者さんのQOL(生活の質)を著しく低下させる双璧が痛みと息が苦しくなる呼吸器症状だ。

呼吸器症状は、がん患者さんの半数以上、肺がんに限れば7~8割の患者さんに発症するといわれている。

「呼吸器症状ががんの患者さんのQOLを下げるという点には、さまざまなデータが出されています。QOLの指標と息苦しさの指標は反比例するのです。つまり、息苦しさの度合いが上がるほど、QOLは下がります。

そして、息が苦しいということが患者さんを不安な気持ちにさせたり、抑うつ症状が出たりと、精神的ストレスとも大きな関連性があります。緊急入院やセデーション(薬剤で意識を落とし苦痛を軽減)を実施する原因ともなっています」

都立駒込病院緩和ケア科医長の田中桂子さんは、呼吸器症状に注意を払うべき理由を解説した。田中さんは、日本緩和医療学会の『がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン2011年版』のガイドライン作業部会の部会長を務めた。日常の診療では、がんに関連するさまざまな症状の緩和医療に従事しており、その中でも呼吸器症状は重要な分野だという。

標準的治療は未確立

しかし現状はというと、呼吸器症状に対するガイドラインが発刊されてはいるが、現時点では呼吸器症状を緩和させる標準的な治療法は、世界的にもまだ確立されていない。

呼吸器症状は、肺がんや肺転移など単に肺に病変があるから発症するということだけでは片付けられず、原因が複雑で多面的にわたっているためだ。

呼吸器症状の3つの原因

がん患者さんの呼吸器症状の原因は、大きく3つに分けられる。

1つ目は、がんそのものがあることによって起こるものだ。

2つ目の原因としては、手術、化学療法、放射線治療など、がんの治療にともなう副作用が挙げられる。

「化学療法の副作用で、肺や心臓の機能に害をおよぼす場合があります。これは肺毒性、心毒性といって、間質性肺炎などの副作用が現れ、重度の呼吸器症状につながることもあります。エンドキサン*、ブレオ*、ジェムザール*、イレッサ*といった抗がん薬で、このような症状を引き起こされることがあります」

また、骨髄抑制の副作用で白血球が減少すると感染や肺炎などにより呼吸が苦しくなることがあるという。赤血球が減少した場合には、貧血により十分な酸素が運べなくなるため、呼吸に影響を及ぼすこともある。

放射線治療で副作用が出る理由は、患部にピンポイントで照射するが、周囲の臓器にも影響が及んでしまうためで、場合によっては、照射野以外の広範囲が焼け野原のようになり、放射線性肺臓炎や放射線性心膜炎、急性呼吸促迫症候群が起こるためだという。

エンドキサン=一般名シクロフォスファミド ブレオ=一般名ブレオマイシン ジェムザール=一般名ゲムシタビン イレッサ=一般名ゲフィチニブ

治療前の1次・2次・3次予防と事前の理解

「副作用による呼吸器症状を警戒するためには、治療前になるべく副作用が出ないようにする1次予防を心がけ、もし副作用が生じてしまった場合でも早期発見する2次予防、そして、早期に適切に対応してそれ以上増悪させないようにする3次予防が大切」だと田中さんは話した。

「とくに化学療法では抗がん薬の組み合わせによって副作用が出る可能性について、医師や看護師をはじめ患者さんを見守るスタッフが理解して対処し、患者さんご本人、ご家族もわかっておくことが大切です」

3つ目は、全身状態の悪化によるものだ。がんが進行し、貧血により酸素を運ぶ能力が低下したり、悪液質(栄養失調により衰弱した状態)により呼吸筋が動かしにくくなる状態になったり、誤嚥性肺炎を発症したり、腹水や便秘などによる横隔膜の圧迫といったことによっても呼吸器症状が起こる。

そして息苦しさがあるゆえに、不安や抑うつなどの精神的ストレスにも見舞われることになる。

このようにがんが進行していくしたがって呼吸器症状は起こりやすくなり、終末期ではがん患者のほとんどに呼吸器症状が起こるという。

呼吸器症状とは呼吸不全と呼吸困難

■図1 呼吸困難と呼吸不全の関係

これら呼吸器症状の原因3つのうち、がん治療を受けている患者さんにとっては、副作用対策が重要となる。

がん治療の前後にどのような呼吸器症状の副作用が起こり、どのように対処していけばいいのかを見ていこう。  まず、呼吸器症状は、呼吸不全と呼吸困難があることを理解しておくことが大切だ(図1)。

呼吸不全とは、客観的な検査によって計測され低酸素血症と診断される状態を指す。数値として現れるため、呼吸状態の悪いことが他者(医療スタッフ)にもきちんと評価される。

一方、呼吸困難とは、患者の主観的な息苦しさであり、低酸素血症に陥っていなくても、息苦しさを訴えている状態であり、本人が訴えない限り他者には見えにくく、わかりにくい。

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