前向き試験で前立腺がん特異性膜抗原PET/CTの優越性認める ~高リスク前立腺がん患者~

[2020.05.12] 文・編集●「がんサポート」編集部

高リスクの限局性前立腺がんの画像診断において、従来のCT・骨スキャン(シンチグラフィー)に代わる新しい診断法として、前立腺がん特異性膜抗原(prostate-specific membrane antigen: PSMA)PET/CTが注目されている。

特異性膜抗原(SMA)は、細胞膜に発現する膜タンパク。前立腺がん細胞には非常に多くのPSMAが発現しており、PET診断にあたって、膜抗原に結合する低分子リガンド(特異的に結合する低分子化合物)と、陽電子を放出する放射線同位元素(放射性核種)を組み合わせた製剤が用いられている。
(※PET製剤自体にはPSMAそのものは含まれないが、一般にPSMA-PETと呼ばれている)

FDG-PETとは異なる

現在、日本では2002年にFDG(フルオロデオキシグルコース:ブドウ糖類似物質)-PETが保険適用となり、さまざまな悪性腫瘍の病期診断や再発・転移診断に用いられている。しかし、有用性の確立していない悪性腫瘍も多く、前立腺がんでは、転移診断などに関する報告があるのみとも言われている。このため、さまざまなPET製剤が研究されている。

従来のCT・骨スキャンとの比較で優越性認める

先ごろ、英国の医学誌「The Lancet」に、こうしたPET製剤の中でも、放射線同位元素のガリウム(Ga)を用いたPSMA PET/CTの優越性を示唆する、オーストラリアの研究結果が報告された。従来のCT・骨スキャンに比べて、画像診断の正確性(accuracy)が有意に高かったという。

高リスクの限局性前立腺がんとステージング(病期分類)された男性では、CT・骨スキャンを用いた従来の画像診断では十分な正確性が得られないことが知られている。今回の前向き多施設無作為化試験では、オーストラリアの10施設で、生検で前立腺がんが確認された男性と、高リスク要素(high-risk features)を有する男性を募集した。

主要評価項目は1次画像診断の正確性

対象となったのは、2017年3月22日~2018年11月2日に、適格症例として認められた302例。150例(50%)が従来の画像診断群、152例(50%)がPSMA PET/CT群に無作為に割り付けられた。

1次画像診断は、無作為化後21日以内に施行された。主要評価項目は、6月カ月間のフォローアップ時における、骨盤リンパ節転移もしくは遠隔転移の同定に対する正確性。

フォローアップ(追跡)が可能だった295例(98%)のうち、87例(29%)で、骨盤リンパ節転移および遠隔転移が認められた。

PSMA PET/CT群は、従来の画像診断群に比べて正確性(accuracy)が27%高かった(92% vs. 65%; p<0·0001)。また従来の画像診断群は、PSMA PET/CT群に比べて、感度(38% vs. 85%)、特異度(91% vs. 98%)ともに低かった。放射線被曝量は、従来型群がPSMA PET/CT群に比べて10·9mSv(ミリシーベルト)多かった(19·2mSv vs. 8·4mSv; p<0·001)という。

従来型の画像診断に代わる診断法に

今回の試験では、患者の生存期間(生存率)の関する評価は行われていないが、PSMA PET/CTは限局性前立腺がんの手術、放射線治療、転移例での全身療法などの積極的な治療を選択するにあたって、腫瘍医の手助けとなり、アウトカム(転帰)を改善する可能性が示唆された。

研究者らは、「今回の試験結果から、PSMA PET/CTは、CT・骨スキャンに対して優越性を示しており、これら従来型の画像診断に代わる診断法であることが明らかになった。高リスクの前立腺がん患者に対する診断法において、PSMA PET/CTを含めた臨床(診療)ガイドラインのアップデート(改訂)を推奨したい」としている。

出典情報:
「The Lancet」 Volume 395, Issue 10231, 11–17 April 2020

補足:
①PET製剤は、今回紹介したガリウム(68Ga)を使用したものと、従来にない治療効果が期待されているβ線を放出する(β線放出核種)ルテチウム(177Lu)※を使用したものが、注目されている。
(※がんサポート 2020年1月「前立腺がん特集」で紹介)
②PSMAは、必ずしも前立腺特異的膜タンパクではなく、肺がんや腎細胞がん、乳がんなどさまざまな悪性腫瘍の新生血管にも発現し、PSMA PETで集積の亢進がみられることが報告されてきている。

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