がん治療の「経済毒性」軽減のためには、医療従事者との連携や患者の内情に踏込んだ支援が大切

[2023.10.01] 取材・文●「がんサポート」編集部

免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬など最近の新規薬剤は非常に高額で、また治療が長期及ぶことも多く、患者さんの経済的負担が増えています。「経済毒性」は、米国を中心に海外では以前から問題視されていましたが、日本では国民皆保険制度と高額療養費制度があるため、あまり問題視されてきませんでした。

医療費は患者さんの共通の悩み

2023年9月26日、MICIN少額短期保険株式会社主催による患者さんのお金のつらさ「経済毒性」をテーマとした勉強会が都内で開催されました。

一般社団法人患者家計サポート協会の代表理事で、1級ファイナンシャル・プランニング(FP)技能士の黒田ちはるさんが講演を行いました。

「かつて10年間看護師をしていたとき、患者さんやその家族から病気のこと、生活面のこと、治療費などに関する質問を受けていました。そのなかでもとくに治療費に関する質問が多く、皆さんの共通の悩みのようでした。そのことがきっかけで、FPの技能士を目指しました」と黒田さん。

高額療法費制度については、「所得区分(年収)により5段階に分かれています。年収370万円~770万円の枠では、毎月44,400円の個人負担となります。年間ですと、約53万円あまりになります。さらに、どこの施設で治療を受けるかによりますが、宿泊費、食事費、交通費なども加算されてきます」と例を上げて説明。

2023年1月にFP事務所LINE登録者で実施したアンケート調査(回答数58名)については、次のような結果が示されました。

「医療費に悩む患者さんで、一度に高額な医療費がかかっているのはごく一部で、96%の方は健康保険適用のみという結果でした。

さらに『がんになり、月々どの位収入が減りましたか?』の質問に対しては、3万円未満の減少7%、4~5万円減少12%、6~10万円減少33%、11~15万円減少7%、16万円以上減少17%で、6~10万円減少が33%と最も多く、全体として75%の方が収入減」とのこと。

黒田さんは、ホルモン受容体陽性・HRE2陰性で術後リンパ節転移ありの高リスク乳がんの50代患者さんの例を挙げ、10年間の治療費の試算をしました。

「治療はホルモン療法単独とホルモン療法+ベージニオ(一般名アベマシクリブ)を比較すると、10年間でホルモン療法は30万円、併用療法は142万円、およそ112万円の差が生じました」と選択する治療法によっても大きく差が出ることを示しました。

「経済毒性」とは、がん治療にともなう経済的負担が患者さんやその家族に与える苦痛をいいます。近年、医療従事者も経済毒性について考慮するようになってきています。

愛知県がんセンターが、2021年10月~2022年2月の期間、医師を対象に実施したアンケート調査結果から、「処方箋を発行したが薬局で受け取らなかった」、「CTや化学療法を経済的負担で延期した」などの質問に対して、およそ85%が「ある」と回答したそうです。

最後に黒田さんは、経済毒性の3大要素とケアについて、「支出面では、薬剤費の適正化、低価値医療をしない、受けない。収入・資産面からは、経済毒性の強い患者群への補助や就労支援。不安面からは、医療者からの十分な情報提供、相談窓口の充実などをあげました。そして、医療者との連携をはかり、制度や就労・家計を同時にケアしてくことが大切」と結びました。

【参考記事】経済的なサポーティブケアを受けて治療を完遂しよう! がん治療の「経済毒性」

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