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経済的なサポーティブケアを受けて治療を完遂しよう! がん治療の「経済毒性」

監修●本多和典 愛知県がんセンター薬物療法部医長
取材・文●菊池亜希子
発行:2023年6月
更新:2023年6月

  

「薬物療法で副作用が出るとサポーティブケアを行うように、経済毒性に対してもケアが大切です」と話す本多和典さん

がん治療に伴う経済的な負担が、患者さんやご家族のQOLに大きく関わることが明らかになってきました。今年(2023年)3月に開催された日本臨床腫瘍学会の学術集会でその現状が取り上げられ、まず「経済毒性」についての認識を医療者が共有すること、そして、軽減策、解決策を探っていく必要性が議論されたのです。「経済毒性」という言葉の生みの親である愛知県がんセンター薬物療法部医長の本多和典さんに話を聞きました。

「経済毒性」ってどういうことですか?

「経済毒性」とは、米国を中心に海外で以前から問題視されてきた「financial toxicity」を、愛知県がんセンター薬物療法部医長の本多和典さんが翻訳した言葉で、がんと診断されることに伴う経済的負担が患者さんやご家族に与える苦痛を意味します。

がん治療の現場では、免疫チェックポイント阻害薬など高額な新薬が次々に登場し、治療が長期間に及ぶことも増えているため、治療費が上がっています。そのことから、「経済毒性」というと治療費による経済的圧迫にのみ目が向けられがちですが、「それだけではない」と本多さんは指摘します。

「もちろん治療費は大きな経済的圧迫に繋がりますが、それ以外にも、がんと診断された時点からさまざまな負担が発生します。通院費もその1つ。また、治療のために仕事を休まなければならないことによる収入減や、それに伴う貯蓄の切り崩しといった懐の痛みも大きく、それらを補うために家族が生活を変えざるを得なくなるなど、患者さんだけでなくご家族のQOL(生活の質)にも大きな影響を及ぼします。〝経済毒性〟は、こうした状況を広く表しているのです」(図1)

日本では注目されなかったワケは?

米国を中心とした海外では以前から注目されてきた経済毒性(financial toxicity)。これまで、日本ではあまりフォーカスされてこなかったのはなぜでしょうか。

「日本は国民皆保険制度が整っていて、治療費の個人負担は通常3割です。加えて高額療養費制度もあるので、保険適用の治療であれば、治療費がどれだけかかろうとも月の自己負担額は上限が定められています。非常にありがたい制度ではありますが、これによって治療費の部分に目が行きにくくなっていたとも言えるでしょう」と本多さんは話します。

たとえば、月に100万円の治療を受けたとしても、自己負担額は約30万円。しかし、高額療養費制度の利用によって、70歳未満で年収約370万~約770万円の人の場合、自己負担額の上限は月におよそ8万7,000円。つまり、約21万3,000円は戻ってきます。そのうえ、最初は月8万円台でも、4回目(4カ月目)以降は〝多数回該当〟に当てはまり、月の自己負担額はおよそ4万4,000円に下がります。それでも月に約8万円、4カ月後からは約4万円という医療費が長期間続くことは、やはり厳しい状況であることは否めません。

さらに、経済毒性がクローズアップされてこなかった背景には、「日本人ならではの気質もあるのではないか」と本多さんは話します。

「命とお金を天秤にかけるのはタブーといった社会的、文化的背景が日本にはあるように思います。医療者側も、お金のことは医療者が考えることじゃないといった風潮が今も残っています。そんな社会背景や日本が豊かだったころの名残りもあって、経済毒性が表に出にくかったのではないでしょうか」

がん告知に驚いて仕事を辞めないで!

しかし今、「経済毒性」は日本にも存在する、と本多さんは強調します。

「以前、日本の経済毒性の実態を知るためにアンケートを取った際に、多くの具体例が寄せられました。収入が減ったので家族が働きに出なくてはならなくなった、逆に、つきそいのために家族が仕事を辞めなくてはならなくなった、子どもの進学や習い事を諦めさせた、といったものが多く、中には、放射線治療で毎日通院するため仕事を辞めざるをえなかった、逆に、仕事を辞められないので放射線治療を受けなかった、という回答もありました。さらには、どうせ治らないなら子どもに財産を残したいから治療は放棄した、という回答もあったのです」

また、別のアンケートでは、6割の人が経済的に困っていると回答。その内訳として、治療費、収入減少、貯蓄減少の3つが大きな割合を占めていると報告されました。収入減少が30%で起きていて、そのうち10%が「10割減」。つまり、仕事を辞めてしまっていることもわかったといいます。

「がんと診断された衝撃で、〝びっくり退職〟する人が少なくありません。治療に専念しなくてはと思い、すぐ辞めてしまうのでしょうが、これだけはしないように医師から患者さんに伝えて欲しいと、就労支援をしている方からよく言われます。傷病手当金など、会社員であることで受けられるサポートやサービスがいろいろあるのに、がんとわかってすぐ仕事を辞めてしまうと、そうしたサービスが何も受けられなくなってしまうのです」

薬物療法中の患者さんへのアンケート調査の結果は?

日本にも経済毒性が存在することを、具体例だけでなく、客観的数値によって示すために、本多さんは、米国で経済毒性調査のために開発された質問用紙COST(Comprehensive Score for financial Toxicity)を用い、2017年、愛知県がんセンターで固形がんに対する薬物療法を受けている患者191人を対象にアンケート調査を行いました(156人回答)(表2)。

COSTは11の質問に対し、0~4の5段階で記入する方式で、合計値は0~44点。0に近づくほど経済毒性が高く、44に近づくほど低いことを表します。COSTスコアはあくまでも主観による回答ですが、「どう感じているか、つまり主観が大切」と本多さんは言います。貯蓄額がいくらあるかが問題なのではなく、現状にどの程度の経済的不安を抱いているかが最大の指標になるのです。

COST調査の結果、中央値21で、きれいな山型になりました。海外で行われたがん種を問わないオリジナル試験、さらに米国での多発性骨髄腫を対象とした試験の数値ともさほど差異がなかったことから、「日本人がん患者にも経済毒性が存在することが示された」と本多さんは結論づけました。とくに、若年層、がんで退職した方や非正規雇用者、貯蓄額の少ない世帯に経済毒性が強い傾向があったといいます(図3)。

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