進化・個別化する乳がんの薬物療法 増えている遺伝子検査

[2023.10.01] 取材・文●「がんサポート」編集部

日本人女性の9人に1人が発症し、女性の罹患数が最も多いのが乳がん。分子標的薬が次々と承認され、乳がんの薬物療法は進化しています。また、遺伝子検査の保険適用で、遺伝子検査を受ける人も増えています。

乳がん治療の選択肢はこれから益々多岐に

2023年9月27日、アストラゼネカ株式会社は、「遺伝性乳がんメディアセミナー」を都内で開催しました。講演は、相良病院院長の大野真司さん(元・がん研有明病院副院長)が乳がんの特徴からサブタイプ、治療、遺伝性乳がんの特徴や原因などについて詳しく述べました。

大野さんは、「日本では女性の9人に1人が乳がんに罹患し、女性の悪性疾患の罹患数では最も多いがんです。死亡数では5番目で、生存率が高く早期発見できれば、進行度が低く、優しい治療が可能です」と述べました。

乳がんのおおよその治療期間は、病態によっても異なりますが、手術(数日~2週間)、抗がん薬・分子標的薬療法(3~18カ月)、放射線治療(5~6週間)、ホルモン療法(5~10年間)で、全体的にかつてよりも治療期間は縮小へ向かっており、機能・整容性を重視する方向となっています。

1995~2023年までに国内で保険適用された乳がんの治療薬をみても、分子標的薬の薬剤の数が大きく増えています。また、全国乳癌患者登録調査(2018年/95,620例中、サブタイプ判明 71,755例)からサブタイプの比率をみると、ホルモン受容体陽性、HER2陰性のタイプが75.5%、トリプルネガティブ9.7%、ホルモン受容体陽性・HER2陽性9.1%、ホルモン受容体陰性・HER2陽性5.7%です。

さらにサブタイプ別の薬物療法は、ホルモン陽性のケースではホルモン療法、抗がん薬が選択され、ホルモン陽性・HER2陽性のケースでは、抗HER2療法を行います。

近年、PD-L1検査およびBRCA遺伝子検査などの検査技術も進み、検査結果により免疫チェックポイント阻害薬やPARP阻害薬なども処方され、いままで難しいとされてきた乳がん治療に新しい選択肢が増えています。

PD-L1検査:がん細胞が免疫細胞の攻撃を逃れるためのタンパク質(PD-L1)を発現しているかを調べる検査

BRCA遺伝子検査:生まれたときから持っているBRCA遺伝子の情報を調べる検査。検査の結果、BRCA1/2遺伝子のどちらかに病的変異があれば、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer syndrome:HBOC)と診断

遺伝子変異の原因は日常生活からが圧倒的

大野さんは、遺伝子変異が起こる原因について2つ上げました。1つは、親から受け継いだ遺伝子にもともと変異があった場合。2つ目は、日常生活の中で遺伝子に変異が起きた場合。後者の原因としては、たばこ、アルコール、女性ホルモン、ピロリ菌などが知られています。

発症原因の割合については、親から受け継いだ遺伝子変異1に対して日常生活の中での遺伝子変異は9であり、圧倒的に後者のほうが多いということです。

また、HBOCが認められる乳がん・卵巣がんの発症をそうではないがん発症頻度と比較すると、数倍から数10倍高くなるということです(図1)。さらに、女性の遺伝性腫瘍の特徴としては、

①一般頻度よりも若い年齢でがんに罹患する
②家族にがん患者が多い
③繰り返しがんになりやすい
④家族もおなじ遺伝情報を共有している可能性がある

などを上げました。

また、乳がん患者さんが治療の意思決定の際には、さまざまな選択があるとし、下記の項目を上げました。

• 乳房は残しますか、全部取りますか
• 脇のリンパ節に転移があったら郭清しますか、放射線治療にしますか
• 全摘の場合、乳房再建をしますか、しませんか
• 再建にはインプラントと自家組織のどちらがいいですか
• 自家組織再建では、腹部・背部・大腿部のどれにしましょうか
• 抗がん薬を受けますか
• 手術と抗がん薬のどちらを先にしますか
• 妊孕性温存(卵子・受精卵凍結)をしますか
• BRCA遺伝子検査を受けますか、受けませんか
• 予防的乳房切除とMRIフォローのどちらにしますか
• 予防的卵管卵巣切除術を受けますか、受けませんか

最後にがん研有明病院の近年のデータから、大野さんは、「コロナ禍にも関わらず、2020年以降、BRCA1/2遺伝子検査実施件数が急激に増加しています」と述べました(図2)。

参考資料として、「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」2023年版を紹介して、話を結びました。

引き続き、現在モデルとして活躍中の乳がんサバイバーの園田マイコさんが、自身の体験談を語りました。

後日、本メディアセミナー関連のアンケート調査の際、がんサポート編集部より「BRCA1/2遺伝子検査結果を家族などと共有するのは難しいのではないか?」との問いに、アストラゼネカの担当者さんより、東京大学医科学研究所が2018年に行った、「がん患者さん、がん患者さんのご家族、一般市民対象のインターネット調査」のデータが届きました。

それによりますと(がん患者757人、がん患者の家族763人、一般市民3,697人の分析)、遺伝性腫瘍の家族との共有については、がん患者の69%、がん患者の家族の82%が共有したい(伝えたい/伝えてほしい)との結果でした。

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【参考:患者さんのための 乳がん診療ガイドライン2023年版の目次】

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