リキッドバイオプシーの登場でゲノム医療が加速 遺伝子パネル検査のより早い段階での実施が望まれる
[2023.11.21] 取材・文●「がんサポート」編集部
がんゲノム医療の技術は、進化し続けています。これまでは手術時の腫瘍組織などを用いて遺伝子パネル検査を行なっていましたが、2021年8月から、リキットバイオプシー検査が保険適用されました。今後、ますますがん遺伝子への標的治療薬が増えて、遺伝子パネル検査の重要性は増しています。
リキッドバイオプシーの登場でゲノム医療がより進化
2023年11月2日、「リキッドバイオプシー」をテーマに、ガーダントヘルスジャパン株式会社のプレスセミナーが開催されました。
国立がん研究センター東病院副院長で医薬品開発推進部門長・消化管内科医長の吉野孝之さんが、「リキッドバイオプシーで加速するがんゲノム医療~より多くの患者さんに治療を届けるために~」と題した講演を行いました。
はじめに吉野さんは、「血液や喀痰、尿、便、脳脊髄液、子宮頸部細胞診などの体液を採取して、そこに含まれるがん細胞などの物質を解析する検査である」と、リキッドバイオプシーの概念について語り、とくに血液サンプルを用いることについては、「患者さんへの負担が少ない、採取法を標準化できる、多くのがん種に適用が可能である」と、そのメリットを上げました。
がん患者さんの血液中には、さまざまながんの痕跡が含まれていて、その中にはごく微量に存在するがん細胞由来のDNAがあり、それを*ctDNAと言います。
ctDNAを検査に用いることにした理由を、「安定して抽出が可能、ゲノム情報の取得が得られる、エビデンスが豊富」であることをあげました。
採取した血液を分離器にかけ、血液の中の血漿から*セルフリーDNAを抽出して解析していきます。セルフリーDNAを使用する理由については、「採血管の技術的な進化で、常温で1週間程度安定して保存が可能であるから」とのことです。
*ctDNA(circulating tumor DNA:血中循環腫瘍DNA) 詳しくはがんサポート2023年8月参照
*セルフリーDNA:細胞死の自然なプロセスで血流へ放出されるDNAの短い断片
2つのリキッドバイオプシー検査が保険適用
現在、国内で保険適用されている包括的ゲノムプロファイリング用リキッドバイオプシー検査は、「Foundation Liquid CDxがんゲノムプロファイル」と「Guardant360CDxがん遺伝子パネル」の2つですが、世界では圧倒的に「Guardant360CDxがん遺伝子パネル」が使用されています。
吉野さんは、リキッドバイオプシー検査によるctDNAがんゲノム医療の有用性について、治験へのがん患者登録率の向上および登録者数の増加をあげ、治療効果についても組織検査と同等の効果があると述べました。
腫瘍組織検体でのがんゲノム検査は、検体の取り寄せからDNA抽出までにかなりのプロセスがあるのに対して、血液サンプルの場合は、採血→ラボへ搬入→DNA抽出と、かなり短期間で患者さんへの結果報告が可能になります。
実臨床の現場では検査結果の報告は、組織検体の場合はおよそ30日以上かかりますが、血液サンプルの場合は10日あまりです。これは次の治療を待ち望むがん患者さんにとって大きなメリットとなっていきます。
ctDNA検査で検出できた遺伝子変異が存在した場合、それに適応する薬物療法を行うことで、がんの病巣を縮小できるケースがあります。ただ、ctDNA検査の問題点については、血液中へctDNAの滲出量が少ない場合は偽陰性と出る可能性や、クローン造血性遺伝子変異がある場合も偽陽性と出ることがあり注意が必要とのこと。
ctDNAの滲出量が少ないがん種には、中枢神経腫瘍・腎細胞がん・メラノーマ(悪性黒色腫)などがあり、がんの特徴としては、低腫瘍量や治療が奏効しているケースです。
リキッドバイオプシー遺伝子パネル検査を早期に実施できるように
固形がん患者さんを対象としたリキッドバイオプシー「Guardant360 CDxがん遺伝子パネル」は、「KRAS/NRAS遺伝子野生型」、「BRAFV600変異」、「ERBB2コピー数異常(HER2遺伝子増幅陽性)を有する治癒切除不能な進行・再発の結腸・大腸がんに対するコンパニオン診断(単一のがん遺伝子を対象にした検査)としても承認を得られたとのこと。
なお現在、「Guardant360 CDx」によるコンパニオン診断として認められているのは、下記のがん種です(図)。
リキッドバイオプシーの今後について吉野さんは、「組織検査とctDNA検査の陽性率はほぼ一致しています。臓器横断的バイオマーカーによる治療の実現が可能となります。それにより今後よりスピーディな治療が加速していくでしょう」
さらに、「リキッドバイオプシー遺伝子パネル検査を、いままで以上に早期に実現できるように取り組んでいきたい」と結びました。
なお、がん遺伝子パネル検査は保険診療の要件として、ステージ(病期)に規定はないものの、局所進行もしくは転移が認められ、標準治療が終了となった固形がん患者さん(終了が見込まれる患者さんを含む)が対象となっています。保険診療での検査は1人1回。検査費用は¥560,000です。